神秘と信仰の秘境・御岳山 今も150人が住む「天空の集落」とは?

青梅市にある「御岳山」。都心からも鉄道とバスで行けるこの場所は、信仰の歴史を感じさせられる“身近な秘境”とも言えます。実際のルートやおすすめのスポットを、まち探訪家の鳴海侑さんが紹介します。


都心からJR中央線・青梅線を乗り継いで

「山」というと車が必須のように感じますが、青梅市になる御岳山(みたけさん)へは車がなくても鉄道とバスで気軽に行くことができます。

 新宿からですと、JR中央線で立川駅へ行き、立川駅からはJR青梅線で青梅駅へ向かいます。JR青梅線は立川駅から奥多摩駅までの路線ですが、青梅駅でほとんどの列車は乗り換えです。

 青梅駅から奥多摩駅行きの列車に乗ると、先ほどまでのまちなかを走る列車の車窓とは一変し、奥多摩の山を登るように走り始めます。

 JR東日本では青梅線の青梅駅~奥多摩駅の区間に「東京アドベンチャーライン」という愛称をつけており、駅からすぐのところで自然やアウトドアが楽しめる路線としてPRしています。

 青梅駅から20分ほどで御岳山の最寄り駅、御嶽駅に着きます。ここで西東京バスの「御10」系統に乗り換えます。時刻表上は1時間に2本の運行ですが、多客期には臨時便を出すそうです。

 御嶽駅バス停から終点の「ケーブル下」バス停へは10分ほど。途中までは多摩川に沿った谷筋を進んで行きますが、御岳山に登る道に入った途端、急な坂を上り始めます。坂はだんだんと険しさを増し、もうバスが登るのが大変なのではないかと思うころに「ケーブル下」バス停に着きます。

 ケーブル下バス停からは急坂を少しだけ登ると大きな鉄道橋のような構造物の下をくぐります。これは御岳登山鉄道の橋です。

急勾配を登るケーブルカーの仕組み

 御岳登山鉄道は「ケーブルカー」と呼ばれるもので、御岳山の下にある滝本駅と御岳山駅の間の約1.1kmを約6分で結んでいます。7時30分から18時30分の間、バスと接続するように1時間に2~4本が運行され、多客時は臨時増発もされます。

都心からも鉄道とバスで行くことができる、神秘の山「御岳山」とは?(画像:写真AC)



 ケーブルカーは急勾配を登るために車両に太いケーブルをつけ、車両を上から巻き上げて動く乗りものです。そのため、JR青梅線のような電車とは異なり、車両そのものに動力はありません。

 車内に乗るのは車掌で、運転士は山の上にある運転室で運転します。山の上と下に1編成ずつ止まっている車両を同時に動かし、中間地点ですれ違わせ、山の上と下1編成ずつに停車させるという仕組みです。

 この仕組みにより鉄道やバスよりもはるかに急な坂を登ることができます。

御岳登山鉄道の高低差は423.6m

 ちなみに、御岳登山鉄道約1.1kmの高低差は423.6mにもなります。

 鉄道では坂のきつさを示すのに1000分の1を1とするパーミル(‰)という単位を使いますが、JR青梅線の激しい坂でも25‰(1000mにつき25m)に対し、御岳登山鉄道は約380‰です。

急勾配を登るため、車体にあらかじめ傾斜がつけられている御岳登山鉄道(画像:写真AC)

 最大傾斜は470‰と鉄道よりもはるかに厳しい坂を上り下りします。そのため車体にはあらかじめ傾斜がついており、22度傾斜しています。

 22度というと、スキー場でいえば中級から上級コースの斜度。ケーブルカーに乗っている間に下を見ると人が登るのは難しい急勾配を登っていくのがわかります。

 御岳山駅に着くと、駅の横には展望スポットがあります。展望スポットからは多摩エリア、新宿はもちろんのこと、東京スカイツリーや筑波山が見えます。

武蔵御嶽神社とともに生きる山岳集落

 そして御岳山駅のすぐ近くにはリフト乗り場があります。このリフトは100円でひとり乗りのかわいらしいリフトです。リフトに乗るとより展望のよい「大展望台」に行くことができます。

 ケーブルカーと展望台だけでも豊かな自然は十分に味わうことができます。しかし、御岳山の醍醐味は御岳山駅から御岳山山頂までの間にあります。

 御岳山の山頂はケーブルカーの御岳山駅から30分ほどかかります。その間は山道というよりも尾根道で、5分ほど歩くと人家が現れます。しかも1軒だけではなく何軒もあるのです。

 御岳山の大きな特徴がこの尾根沿いにある山岳集落です。

 この集落に住む人たちの多くは、御岳山山頂にある武蔵御嶽神社の信仰を広め、武蔵御嶽神社にやってきた参拝者が休憩・宿泊する場所(宿坊)を営む人です。

霧が立ち込める中すれ違う上りと下りのケーブルカー(画像:写真AC)



 御岳山だけではなく日本各地の神社には、信仰を広め、参詣者を案内する役割を持つ「御師(おし)」と呼ばれる人々がいました。彼らは参詣者がやってくる春や夏には案内人となり、逆に参詣者の来ない秋や冬には神社のお札を集落に配って歩き、信仰を広めていました。

 武蔵御嶽神社は多摩川源流域にあることから、農村を中心に信仰を広めました。そして御師によって同じ神社への信仰を持った人々は同じ一族や集落の人間で「講」と呼ばれる集団を形作ります。

ケーブルカーが戦前に作られた理由

 講では毎年神社へ参詣するわけですが、全員が参詣するわけにはいかないので、所属する家々からお金を集め、代表を決めて参詣を行っていました。参詣は物見遊山も兼ねており、講の中で持ち回りで決めていたようです。講は地域の名前や一族の名前をとり、各々が「○○御嶽講」と名乗っていました。

 そのため、御岳山の参詣者は多く、需要があったために第2次世界大戦前から御岳山にはケーブルカーが作られます。御岳登山鉄道の開業は86年前の1935(昭和10)年とかなりの歴史を持っています。

 講の文化自体は現在も残っており、そのため、御岳山には御師たちの住む集落があります。このような集落は「御師集落」とも呼ばれ、全国に「御師町」という地名があちこちに残っています。その中でも山岳集落として今でも残る御岳山の御師集落は大変珍しいものです。現在は150人ほどが住んでいると言われています。

 集落を抜けるといよいよ武蔵御嶽神社に至る石段が始まります。石段は約330段。かなりいい運動になります。

東京都内とは思われない自然を見ることができる御岳山(画像:写真AC)



 石段脇には所狭しと「○○講」と書かれた石碑がたてられています。それぞれの講が節目の年に建てているものですが、石碑に書いてある地名を見ると、関東のさまざまな場所の人々が武蔵御嶽神社を信仰していたことがうかがえます。

 石段を登り切ると、武蔵御嶽神社です。ケーブルカーの御岳山駅ほどではありませんが、遠くのまちを見ることもできます。

紅葉シーズン以外も魅力ある山

 武蔵御嶽神社では多くの神をまつっていますが、中でもユニークなのは「大口真神(おおくちのまがみ)」。おいぬ様とも呼ばれますが、ニホンオオカミを神格化した神様です。

 そのためか、犬を連れて参詣する人も多く、御岳登山鉄道ではペット料金が設定されていますし、武蔵御嶽神社にはペット用の水があるなど、ペットフレンドリーな山です。

 御岳山の山頂は武蔵御嶽神社の裏側にあり、標高は929m。きちんとしたハイキングスタイルで来れば、御岳山からさらに他の多摩の山々にも行くことができます。

 日帰りで難易度も高くなく、多くのハイカーたちが訪れるため、人気の紅葉シーズンはむしろ混雑の方が気になるくらいかもしれません。筆者(鳴海侑。まち探訪家)も一度はこのあたりの山を友人と歩いてみたいと思っています。

 東京の西にある信仰の山、御岳山。紅葉シーズン以外の登山を楽しみたい人、出かけたいけれど遠くへ出かけるのは難しいという人は、「御師集落」もあわせて御岳山を訪れてみるのはいかがでしょうか。


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