コロナの今こそ記念写真を? 無料の「オンライン撮影サービス」を始めた女性カメラマンの思いとは

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コロナの今こそ記念写真を? 無料の「オンライン撮影サービス」を始めた女性カメラマンの思いとは

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アーバンライフ東京編集部

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成人式に行けなかった新成人。外出できずマタニティーフォトを撮れずにいる女性。喜寿や米寿のお祝いをできずにいる家族……。コロナ禍で記念撮影の機会を失った人のために、無償で「オンライン撮影」のサービスを提供している会社が杉並区にあります。無償で続ける意味、そこに込められた思いとは。代表の女性に話を聞きました。

自粛の今日も、誰かの「特別な日」

 コロナ禍だって、「一生に一度」の記念日はやってくる――。

 そんな思いを掲げて、外出自粛中でも自宅にいながらプロのカメラマンに記念写真を撮影してもらえるオンラインサービスを無償提供している会社があります。

 2021年1月7日(木)に再び発令された緊急事態宣言によって、成人式に行くことがかなわなかった新成人。外出が難しく、マタニティーフォトや赤ちゃんとの記念写真を撮れずにいるお母さん。喜寿や傘寿、米寿、節目のお祝いをできずにいる家族……。

 新型コロナウイルスの感染拡大で記念撮影の機会を失った人や、撮影したくてもできない状況にある人向けの同サービスは、2020年4~5月の緊急事態宣言に続いて今回が2回目。

 なぜ取り組みを始めたのか、どのような思いを込めたものなのか。主宰する女性に話を聞きました。

自宅にいながらプロが遠隔撮影

 写真撮影や映像コンテンツの企画・制作を行う「ソー写ルグッド」(杉並区天沼)。フリーカメラマンとして活動してきた汰木志保(ゆるき しほ)さんが2020年8月に立ち上げた会社です。

 同社が手掛ける「オンライン写真館」は、iPhoneなどのビデオ通話アプリを使って、プロのカメラマンが遠隔撮影するサービス。

 写真撮影や映像コンテンツの企画・制作を行う「ソー写ルグッド」(杉並区天沼)。フリーカメラマンとして活動してきた汰木志保(ゆるき しほ)さんが2020年8月に立ち上げた会社です。  同社が手掛ける「オンライン写真館」は、iPhoneなどのビデオ通話アプリを使って、プロのカメラマンが遠隔撮影するサービス。



 自宅のリビングや近所の公園など身近な場所がスタジオ代わりになるので、安心安全、家族だけのリラックスした空間、手軽にプロクオリティーの写真が手に入る――といった点が売り。通常は1シチュエーション・写真3枚で1万円(税抜き)で提供しています。

 一度目の緊急事態宣言下で実施した際には、東京をはじめ全国の約100組が利用。有志カメラマンたち約10人がシャッターを切り、外出しづらい小さい子どもや夫婦、マタニティー姿の女性、室内飼育のペットも、気取らない柔らかな表情でひとつのフレームに収まりました。

転機は2018年、西日本豪雨の現場で

 もともと非政府組織(NGO)「ピースボート」のクルーだった汰木さん。記録撮影用の一眼レフカメラを携えて大型船に乗り込み、世界中の町を旅する中で、写真を通じて生まれる人と人とのコミュニケーションの楽しさを体感します。

 カメラマンを志して婚礼専門の写真館に見習いアシスタントとして飛び込み、10年ほど経験を積んだのち独立しました。

 大きな転機となったのは、2018年6~7月に発生した西日本豪雨。生まれて初めてのボランティアを決意して、広島県江田島市へ。そこで、人員不足に悩む現地を側面からも支援したいと、ボランティア活動のかたわら一緒に従事する人々の様子を撮影し、SNSなどでの情報発信に尽力しました。

「より多くの人たちに参加協力を呼び掛けるという目的を果たせたことももちろんですが、撮影させていただいたボランティアの方々に喜んでもらえたのもとてもうれしかった。やっぱり写真の力ってすごい、とあらためて感じさせられる体験でした」(汰木さん)

2018年西日本豪雨の被害を受けた広島県江田島市で、ボランティア活動に従事する人たちを撮影した写真(画像:汰木志保)



 写真は困っている人、頑張っている人を多少とも励ます手段になるという手応えは、コロナ禍で一度目の緊急事態宣言が発令された2020年春にも汰木さんを突き動かしました。

 Facebookでの投稿を通じて有志のカメラマンを募り、無償の「オンライン写真館」サービスをスタート。街のスタジオまで出向けなくても、もっと気軽にプロに撮影してもらいたいと思う潜在ニーズが少なくないことを知り、同年8月、会社の立ち上げに至りました。

たとえ忘れても、思い出すことができる

 今やスマホ内蔵のカメラは驚くほど高性能になり、プロでなくても雰囲気のある写真が誰でもそれなりに撮れる時代になりました。

 しかしだからこそ、カメラマンの細かな専門スキルが写真の仕上がりを大きく左右すると、汰木さんは考えます。

「例えば『オンライン写真館』でも、撮影に最も適した時間帯やきれいな光が入る場所を相談したり、楽しく会話をしながら笑顔を引き出したり、それぞれのカメラマンがスマホ越しにいろいろな工夫を凝らしています」

Zoomでのインタビューに答える汰木さん(2021年1月15日、遠藤綾乃撮影)



 汰木さんが考える写真の意義とは何でしょう。

「写真は、それを通じて誰かとの会話が生まれたり、何かを思い起こしたり、行動をするきっかけになったりもします。(未曽有のコロナ禍で)自分はそのときどう過ごし、何を考えていたのか、後々思い返すお手伝いになれば、私たちカメラマンが写真を撮る意味はあると思っています」

 楽しかったことも、悲しかったことも、人はいずれか忘れていきます。「忘れる」ことは決して悪いことではないけれど、いつかふっと「思い出す」ことも同じくらい何かしらの意味があるのでしょう。

 外出が減り、在宅時間が増え、同じような日々が続いて思い出の数が少ないように感じる2020年から2021年。自分がそのとき考えていたことを思い返す手掛かりに、写真はいずれなってくれるはずです。

無償期間は緊急事態宣言の解除まで

「オンライン写真館」の無償サービス期間は、2021年1月現在発令中の緊急事態宣言が解除されるまで。コロナ禍が原因で「記念撮影したいけどできない」など“困りごと”を抱えている人が対象です。

 用意するのは通話アプリ「Facetime」が使用できるiPhoneなどApple製品のデバイスのほか、三脚や養生テープ・高さがある椅子などデバイスを固定できる物と、通信環境。

 汰木さんは

「できるだけ多くの方の力になれたらと考えています。まずは気軽にご相談ください」

と話しています。

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