6年間で3万人も増えた都内小学生がほぼ「公立」へ通っているワケ
少子化が進む地方を尻目に、増え続ける東京の小学生。その数は6年間で約3万人増。いったいなぜでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。東京の子どもはまだ増える 東京都の出生数は全国の92万人(2018年)に対し、10万7千人となっています。いまや日本で生まれた赤ちゃんの約9人にひとりが東京生まれです。 総務省が2020年5月4日(月)に発表した2019年の15歳未満の子どもの人口は、東京のみが前年より増加し、その一極集中がより鮮明となりました。 公立小学校のイメージ(画像:写真AC) また都内の児童者数も2013年度を底に6年連続で増加しており、東京都教育委員はこの傾向が2025年まで続くと予想しています。 東京の児童は約3万人増加 東京都総務局統計部の学校基本統計によると、東京都内の国公私立小学校に在籍する児童数は2013年度の58万5535人から一転、2019年度は61万4873人とこの6年間で2万9338人も増加しました。 東京都 年次別 小学生の数(画像:東京都総務局統計部のデータを基にULM編集部で作成) 地方では少子化が加速して閉校や合併が相次いでいることを考えると、児童数が3万人も増加している東京が、日本においていかに「異様」なのかは一目瞭然です。 しかし3万人の児童が増えたとはいえ、東京都全域で等しく増加したわけではありません。大まかな内訳をみると、23区は2万9159人増加し、市部(市に属している地域)は532人増にとどまっています。 つまり、約3万人も増えた児童のほとんどが「23区内の小学校」に通っているのです。 市部で1000人以上増えたのは三鷹市のみで、23区と隣接し都心へのアクセスが良い市部も微増しています。しかし1341人減少した八王子市を筆頭に、都心から離れた自治体は減少が目立っています。これが「市部は532人増」の内訳です。 一方、郡部や島部では合わせて353人減少しており、ともに東京都ではあるものの地方と同じように少子化に直面しています。 中央区・港区で目立つ増加中央区・港区で目立つ増加 特に児童の増加が目立つのは、官公庁や企業本社が多くある ・中央区 ・港区 です。 2区ともビジネス街のイメージがありますが、この6年間で合わせて4890人と爆発的に増えているのです。 東京都 23区別 小学生の増減数。2019年度と2013年度の比較(画像:東京都総務局統計部のデータを基にULM編集部で作成) これは、かつて東京に住むサラリーマンの「定番」だった、郊外の持ち家に住み長時間通勤をするスタイルを避け、通勤・通学の利便性を重視するファミリー層が多く移り住んでいることを裏付けています。 高まる世田谷人気 世田谷区も、この2区同様に児童数が増えています。2013年度の児童数は3万6330人でしたが、2019年度に4万1730人となり6年間で5400人も増加しています。 特にメディアでも多く取り上げられている二子玉川エリアは、「子育て世代に適した街」というイメージを多くの人に印象づけました。 都内は後発の再開発が功を奏し、周辺自然との調和を大切にした若いファミリー層を呼び込むことを軸とした街づくりに成功。そうした雰囲気に引かれ、世田谷区が住居先として選ばれています。 東京都 23区別 小学生の増減率。2019年度と2013年度の比較(画像:東京都総務局統計部のデータを基にULM編集部で作成) また世田谷区は駒沢オリンピック公園(世田谷区駒沢公園)や砧(きぬた)公園(同区砧公園)、祖師谷公園(同区上祖師谷)など都市型公園も多く、超高層ビルも都心3区に比べればほとんどありません。 そのようなことからも、「近距離に自然を感じる公園がありながら落ち着いた都市生活が送れる」という願望をかなえられる街と言えます。 受け皿は公立小のみで国立と私立は減受け皿は公立小のみで国立と私立は減 さて東京都の児童が急増したことで公立や国立、私立小学校の在籍数に変化はみられたのでしょうか。 結論を先に書くと、公立小学校の児童数は3万669人増えています。その一方で、東京都内の国立小学校と私立小学校は2013年度よりも児童数を減らしています。 東京都 年次別 小学生の数(画像:東京都総務局統計部のデータを基にULM編集部で作成) 国立小学校は465人減少し、私立小学校でも866人減少しました。国立小学校に関しては、1クラス40人体制を35人にするなどした影響が大きいと推測されます。 都内の私立小学校への「お受験熱」は以前と高く、人気のある学校では志願倍率が10倍前後で推移することも珍しくありません。 私立学校の数は2013年から2019年度の間で変わらず、2020年度から新たに1校新設されるなど、ニーズが高いことに変わりはありません。 しかし、東京でこの6年間増えた約3万人の児童のほとんどが、公立小学校へ通っているのです。 結果として公立小1択に結果として公立小1択に 都心の子どもが増える一方、私立小学校の児童数は伸び悩んでいます。 総務省統計局の就業構造基本調査によると、2012年度に東京都の夫婦と末子が6歳から14歳の子からなる世帯のうち、妻の有業世帯は23区で14万8200世帯でした。 5年後の2017年度の同じ調査ではその数が14万9200世帯と約1000世帯の微増にとどまっています。 私立小学校への「お受験」は、園児の頃から幼児教室に通って準備をすることが当たり前の世界で、習いごとの掛け持ちなどスケジュール管理も多く、共働き世帯には不利と考えられています。 共働き夫婦のイメージ(画像:写真AC) 公立小学校の児童数が圧倒的に増えた理由のひとつには、こうした事情もあるのです。 私立小の学習費は公立小の約5倍 文部科学省が2019年12月に発表した2018年度の「子供の学習費調査」によると、私立小学校の6年間でかかる学習費は159万円8691円と公立小に比べて約5倍かかることがわかりました。 2018年度「子供の学習費調査」(画像:文部科学省のデータを基にULM編集部で作成) 東京であっても、誰もが小学校受験している訳ではありません。利便性を求めて家賃の高い都心に住むことを選択した世帯にとって、私立小学校を選択することは現実的ではないのです。
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