東京で消えた駅の「伝言板」ロンドンでいまだ健在? 恋愛の告白がズラリと

東京の大きな街で待ち合わせをするとき、ひと昔前まで人々の頼みの綱となったのは駅に設置された「伝言板」でした。携帯電話が普及して今ではすっかり見掛けなくなりましたが、イギリスでは同じような機能を担ったアナログな伝言板が今も健在。ライターの鳴海汐さんが現地の様子をリポートします。

30年ほど前は当たり前だった都心の伝達手段

 誰もがスマートフォンを操り、瞬時に連絡を取り合えるようになった現代では当たり前のことですが、インターネットが普及し始めた2000(平成12)年頃、あまりに画期的ということで「双方向」という言葉がやたら使われていたものでした。

 そう、20年ちょっと前まで電話を除けば私たちの連絡はワンウェー。昔は電話代もそれなりにかかったので、離れたところに暮らす相手とは「手紙」という手段を選択することもそう珍しくありませんでした。

 雑誌の読者コーナーにはペンパル(文通相手)募集のコーナーが設けられていたことも、懐かしい文化として思い出されます。

 携帯電話が普及する前はPHS(簡易型の携帯電話)が流行し、その前はポケットベル(ポケベル)が使われていました。家の電話や公衆電話から暗号のような数字を打ち込んで、とても短い文章を送ります。言ってみれば、ポータブルな電報のようなものでした。

 筆者が東京都心の大学生だった頃、ポケベルとPHSが出現しましたが、それ以前の連絡手段は家の電話でした。待ち合わせは駅がほとんど。いざというとき、黒板型の「伝言板」が使えたからです。

 待ち合わせの時間までにやってこなかったサークル仲間へ、「先に行っています」といった内容のメッセージを書いていたのを思い出します。どう書けば粋なのか、内容に過不足がないか、皆で相談しながらワイワイ書いていたものです。

 そんな伝言板は、東京都心では1990年代後半頃から少しずつ姿を消します。

東京の伝言板が姿を消した理由

 1996(平成8)年12月5日付の読売新聞には

「次々姿消す駅の伝言板 ――利用者へ いたずら書きばかりなので撤去します 鉄道会社」

とのタイトルで、東京周辺で早くも伝言板の撤去が始まっていた様子が記録されています。その後、都心では2000年代半ば頃までにほぼ無くなってしまったそうですが、その頃には携帯電話が普及していました。

 筆者が直近で伝言板を見かけたのは、2019年の夏。東京……ではなく群馬県の土合(どあい)駅でのこと。

東京ではすっかり見掛けなくなった、駅の「伝言板」。日比谷線の八丁堀駅には残っているとの情報も(画像:写真AC)



 観光スポットで、地下70mのホームにたどり着くまで10分かかるという特殊な無人駅です。伝言板は、特定の誰かにあてたメッセージではなく、観光客が感想を書き込む場になっていました。

「地下はとってもさむかった!」「かいだんのぼるのたいへんだった」といったコメントが並んでいたので、観光地のノートのようなものですね。

イギリスでは健在、恋愛のための「伝言板」

 さて、年が改まり2021年を迎えた現代ですが、イギリスの新聞には、伝言板の役割を果たしているものがあります。しかも、“恋愛”の伝言板なのです。「rush hour crush(ラッシュ・アワー・クラッシュ)」と呼ばれています。

 特に有名なのは、都市部で平日毎日発行されているフリーペーパーの「METRO(メトロ)」です。

 日本の駅にあるフリーペーパーとは趣が異なり、どちらかというと日本のスポーツ紙のような感じです。これがけっこう人気で、朝は多くの人がこのMETROを手にして地下鉄の改札をくぐっていくのを見かけます。

「rush hour crush」は随時掲載のコーナーで、電車やバスで見かけた誰かと連絡を取りたい人がウェブ上の投稿フォームに書き込むと、翌朝のMETRO紙に掲載されるというシステムです。

 SNS全盛の現代ですが、それを駆使しているであろう若い人たちにもこの恋愛伝言板が利用されています。

 いったいどんなことが書いてあるかというと。

「背が高くてハンサム、ブラウン&ブロンドのドレッドをまとめ髪にして、ピアスをしてバッグを持った彼。ヴィクトリアライン(線)のグリーンパーク駅から乗ってきて、ヴィクトリア駅で降りていきました。私はシャイすぎてあなたを直視できなかったけれど、あなたも私を見てくれていましたか?」

 ニックネームとして、自身の特徴を、眼鏡をかけていたとか、ストライプのセーターを着ていたとか書く人もいれば、ほぼヒントのない人も。目が合ってほほ笑みあったとか、なんかしらの接触があった人もいます。

伝言板からゴールインしたカップルも

 イギリス人がこのコーナーをどう扱っているかというと、朝のオフィスで読み上げる人がいて、同僚たちがそれを聞いて盛り上がるというシーンが繰り広げられているところもあると聞きました。
 
 どの程度の人々がMETRO紙のこの恋愛伝言板を通じてデートに漕ぎつけたかは不明ですが、ゴールインしたカップルは、2020年3月の時点で3組います。

イギリスの駅に設置された「METRO」のラック。その中の恋愛伝言板は若者にも人気(画像:鳴海汐)



 そのうちの1組は、メッセージの掲載から5か月で婚約した32歳の「長い茶色の巻き毛の赤いドレスを着た美しい女性」と33歳の「背の高いラグビープレーヤー」。きっかけを作った彼は、プロポーズでもこの紙面を活用しました。

東京に「伝言板」を復活させるとしたら?

 いかがでしょうか。今どき珍しいオールドファッションな仕組みに驚くかと思いますが、なかなか素敵だと思いませんか?

 いつも同じ通勤電車で見かける人ならまだしも、たまたま乗り合わせた人に恋してしまったら、その後再会するのはかなり難しいこと。

 東京にもこんなシステムがあったら、少しは通勤が楽しくなるかもしれません。幻になりかけた恋が実現する可能性ができますし、部外者である一般の読者も、ときめいたり、心が温まったりするよい企画です。

 東京に取り入れるには、いったいどうしたらよいのでしょうか。

日本人が大好きなあのSNSを使ったら……

 イギリスのMETROは皆が見るようなメジャーな媒体だから成り立っているような気はします。メッセージを送られている側の人が、たとえそのコーナーの熱心な読者でなくても目にする可能性が高いというのは、やはり紙面ならではのメリットでしょうか。

 しかしアメリカでは、地域別の不動産や求人の情報が掲載された「craigslist(クレイグスリスト)」というウェブサイトがあり、その一角にこのコーナーがあって人気とも聞きました。

 ネットだと、どこに住んでいても見られるというメリットがあります。思い当たることがなければ見に行かないというデメリットはありますが。

 いろいろ考えると、東京で一番実現がしやすそうなのは、ツイッターのハッシュタグを作って幅広く利用してもらえるよう知名度を上げることかもしれません。

イギリスで人気の日刊フリーペーパー「METRO」(画像:鳴海汐)



 なぜなら日本人はツイッターの利用頻度が世界的にも高いうえ、街で出会った名前も尋ねていないような人の善行を報告するつぶやきが投稿されて、何万件もの「いいね!」がつくなど拡散されることがよくあるからです。

 もしハッシュタグ(路線や都道府県入り)が普及すれば、軽い気持ちで使われるようになります。そして投稿内容が人の心を打つ内容であれば、リツイートされ、拡散されていきます。

 そうすると、本人がツイッターをやっていなくて気づかなくても、同僚など周囲の人が気づいて教えてくれるなんてこともあるかもしれません。

デジタル全盛の今、アナログが持つ面白み

 正直言うと、本当は紙面が理想的です。あの懐かしの「伝言板」の復刻版のよう……というセンチメンタルな理由ももちろんですが、それだけではありません。

 自分の名前や特徴、自分への思いが活字で印刷されていたら、デジタルの画面で目にするよりもインパクトがありそうで、恋の成就率を上げてくれるような気がしますがいかがでしょうか。

【画像】イギリスで健在、恋愛向けの「伝言板」を見る(3枚)

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