いつでもお金を下ろせて超便利 「コンビニ銀行」の本格化は五反田から始まった

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いつでもお金を下ろせて超便利 「コンビニ銀行」の本格化は五反田から始まった

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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今ではすっかりおなじみとなった、コンビニエンスストアのATM。その設置の背景について、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

「銀行はつぶれない」時代の崩壊

 つい数年前まで、東京にやってきた人が驚くこととして「お金がいつでも下ろせる」というのがありました。

 また振り込みもとても楽になりました。かつては、そのためだけに長い行列に並ぶのもも当たり前。しかし今では、パソコンやスマートフォンで大抵の手続きは可能です。

 そんな銀行の現金自動預払機(ATM)が24時間営業へと変わったのは、1998(平成10)年2月のこと。それまで、銀行の経営は国の指導で「護送船団方式」が取られていました。

ATMが設置されたコンビニのイメージ(画像:写真AC)



「護送船団方式」とは、多くの銀行がほぼ一律のサービスを提供するというもの。国の管理が厳しい代わりに、競争はありません。なにより、顧客からは「日本の銀行はつぶれない」と、信頼される要素となっていました。

 平成の初め頃までは、昭和初期の恐慌で銀行がいくつも破綻したことを記憶している老人も多かったのですが、「戦後になって銀行はつぶれなくなった」と一様に口にしているほどでした。

 そんな安心感も、バブル崩壊後に金融機関の破綻が相次いだことで消えてなくなります。

 安心感を失ったのは、顧客だけではありません。もはや時代が変わったと悟った銀行は、これまでの「横並び」を止めて自由競争の時代に入ります。その競争手段がサービスの向上。その中で、お金を下ろせる時間を長くすることは、当然だったと言えます。

1996年の金融制度改革が後押しに

 ATMの24時間営業を最初に始めたのは、住友銀行(現・三井住友銀行)です。

 最初は都内は、渋谷・新宿・銀座など7か所でのスタート。このほか大阪で2か所、神戸と京都でも実施されましたが、圧倒的に東京での数が多かったのです。

 24時間営業には多額の投資が必要でしたが、大手銀行にはそれ以上の危機感がありました。というのも1994(平成6)年頃から、早くも業界の競争は始まっていたからでした。

銀行に置かれたATMのイメージ(画像:写真AC)



 最初に動き出したのは、各地の信用金庫でした。同年11月には信用金庫大手・城南信用金庫(品川区西五反田)が懸賞金付き定期預金「スーパードリーム」の取り扱いを始め、話題となりました。

 懸賞金付き定期預金とは、預金10万円ごとに1回の抽選券がもらえるもので1等5万円から5等までありました。銀行業界では過度な景品に対しての自主規制ルールがありましたが、それも次第に緩和されます。

 1996年、当時の橋本内閣が護送船団方式を止め、自由化を促進する金融制度改革「日本版ビッグバン」を政策としたことで、競争は勢いを増します。

「預金したら○○をプレゼント」など、ATMの24時間営業はそうしたサービス向上施策のひとつだったのです。

銀行無人化に反対運動も

 ATMの24時間営業の進展とともに、各金融機関で改革が進みます。

 ひとつが店舗の無人化です。それまで、どこの街でもいくつもの銀行があるのは一般的な光景でした。ところがサービス向上を図りつつリストラを進める銀行は、無人化に力を入れるように。今では無人でも困りませんが、当時は驚きをもって迎えられたのです。

ATMに入金するイメージ(画像:写真AC)



 1997(平成9)年12月には、世田谷区船橋に住友銀行希望ヶ丘出張所が無人化されることになり、近隣住民が反対の署名活動を行うという出来事もありました。

 ネットバンキングが便利になり、無人ATMでも十分な現在の状況が当時は想像すらできなかったのでしょう。

コンビニATMの導入は1993年から

 そして、ついにコンビニへのATM導入も本格化します。

コンビニに置かれたATMのイメージ(画像:写真AC)

 コンビニATMの導入は1993年9月にセブン―イレブン・ジャパンが長野県坂城町(さかきまち)内の坂城村上店の敷地に八十二銀行(長野市)の出張所を設けたのが最初です。

 その後、東海地方のローカルコンビニチェーンだったタイムリー(現・デイリーヤマザキ)が店内にATMを設置。

 1997年8月にサークルケイ・ジャパン(現・ファミリーマート)が名古屋市名東区のよもぎ台店に、東海銀行(現・三菱UFJ銀行)のATMを設置します。

 そして1998年11月にはローソンで三和銀行(現・三菱UFJ銀行)などの預金引き出しが可能になりました。

 1999年3月にはさくら銀行(現・三井住友銀行)がam/pm(現・ファミリーマート)東五反田五丁目店にATMを設置。ここに入出金だけでなく、振り込み、カードローンの申し込みまで受け付ける初のコンビニATMが登場したのです。

 今では、全国どこでもお金を下ろすのに困ることはなくなりました。東京の「優越感」が薄れて少し寂しいものです。

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