インスタ映えだけじゃない! 若者に今「クリームソーダ」が大人気なワケ

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インスタ映えだけじゃない! 若者に今「クリームソーダ」が大人気なワケ

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清水麻帆

文教大学国際学部准教授

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人々に古くから愛されているクリームソーダ。そんなクリームソーダが近年、SNS世代から注目を浴びています。いったいなぜでしょうか。文教大学国際学部准教授の清水麻帆さんが解説します。

明治時代から愛されたクリームソーダ

 現在、10代から20代までの人たちの間でじわじわと人気となっている飲み物があります。それは、クリームソーダです。台湾発のタピオカミルクティーのような爆発的な人気ではありませんが、数年前から広がりをみせています。

 昭和生まれの筆者(清水麻帆、文教大学国際学部准教授)も子どものころ、親によく連れられて飲んだ記憶があります。クリームソーダの定番といえば、緑色の炭酸にバニラアイスクリームが添えられ、ちょこんとサクランボが乗ったもの。ホテルのラウンジなどで提供される豪華なクリームソーダともなると、ブルーの炭酸に豪華な飾りやフルーツが添えられてた、南国風のカクテルをイメージさせるものもあります。

千代田区神田神保町にある喫茶店「さぼうる」のクリームソーダ(画像:清水麻帆)



 クリームソーダの歴史は古く、明治時代から。その発祥は、資生堂パーラー(中央区銀座)の前身にあります。

 1902(明治35)年、資生堂薬局内にソーダ水とアイスクリームの製造と販売を行う「ソーダファウンテン」という店名で創業したことが始まりで、当時はアイスクリーム自体も珍しく、クリームソーダは最先端のものでした。そうした目新しい食べ物が東京で人気となり、全国へと広がっていったと考えられます。

 その後、1928(昭和3)年から西洋料理のレストランとして営業を開始。このとき、知名度の高かった「アイスクリーム」を店名に入れて「資生堂アイスクリームパーラー」という店名になりました。

 資生堂パーラーの歴史からも、当時からアイスクリームは知名度もあり、人気が高かったことが伺えます。なんと持ち帰り用のアイスクリームポットまであったそうです。なお現在の資生堂パーラーでも、クリームソーダはメニューの1品として提供されています。

3か月以内に飲んだことある人が半数以上

 はやりものの多くは瞬く間に消費され、いつの間にか無くなります。一方、クリームソーダは私たちとともに生き続け、若者の間で人気が再燃しているのです。いったいなぜでしょうか。

 ひとつには、クリームソーダが日本の「当時のモダンな食文化」であることではないでしょうか。現在、そうした当時のモダンな都市文化やレトロ感を味わいたいという若者が多くいます。そのことが再燃の理由のひとつとして挙げられるでしょう。

クリームソーダを飲んだことがある回数(画像:清水麻帆)



 15歳から29歳までの78人(男性46人、女性31人)を対象に実施したアンケートによると、回答者の91.9%がクリームソーダを飲んだことがあるという結果となりました。その約半数が1年以内に飲んでおり、そのうち半年以内が約71%、3か月以内が約55%を占めていました(実施期間:2020年11月30日~12月16日)。

 また、クリームソーダを10回以上飲んだことがあるというリピーターは1年以内に飲んでいる傾向が高くなっています。

 10回以上飲んだことがある人は全体の42.3%を占めており、そのうちの1年以内が70%、3か月以内が40%を占めていました。コロナ渦とクリームソーダ再燃が約数年前からということを勘案すると、若者たちの間でクリームソーダが認識され、浸透しているといえます。

飲んで「レトロな雰囲気を味わいたい」

 こうした若者たちがクリームソーダを飲むきっかけとなった理由は、次の通りです。

・1位:レトロな雰囲気を味わいたい(32.4%)
・2位:喫茶店が好き(23.9%)
・3位:色がかわいい(19.7%)

その他の理由で多かったのは、味に関するものでした(複数回答)。アイスクリームや炭酸が好きだったことやどんな味か試したいという回答がありました。

中央区銀座にある「資生堂パーラー」(画像:清水麻帆)



 現在のクリームソーダはカラフルな色がつけられたり、デコレーションがされたりするものなどさまざまです。そのため、SNSへの投稿をきっかけにしている人が多いと予測していましたが、実際はその割合は全体の8.5%と低く、先述の実質的な体験すなわち「経験価値」を重視したものが上位でした。

 現在の若い世代の人たちがクリームソーダを飲むようになったきっかけは、当時の雰囲気を味わいたかったり、喫茶店が元々好きで見た目や味などに好奇心があったりしたからです。

 また、クリームソーダが好きな理由としては、

・1位:美味しいから(78.9%)
・2位:レトロな雰囲気を味わえる(23.9%)
・3位:かわいいから(22.5%)

でした(複数回答)。

 続いて1年以内に飲んだことのある人の理由は

・1位:美味しい
・2位:レトロな雰囲気を味わえる
・3位:喫茶店が好き
・3位:かわいいから

で、さらに1年以内に10回以上飲んだことのあるリピーターの一番多い理由は

・1位:美味しい
・2位:かわいい(色)
・3位:喫茶店が好き

の順になりました。

 1年以内に10回飲んだことのあるリピーターの男女比は均等であり「かわいい」という理由を選択した割合は、女性が62.5%、男性が37.5%だったことからも、今回のアンケート全体の属性では、男性の割合の方が23ポイント高いため、全体での理由において「かわいい」が実際よりも低い割合だったということも想定できます。

普及に大きな役割を果たした資生堂

 若者たちは、味(クリームソーダの美味しさ)、場所(レトロな雰囲気を味わえる喫茶店)、そして、見た目(かわいさ)を楽しんでいるのです。

 このように、現在でもクリームソーダを通して当時のレトロな雰囲気を味わえるのは、私たちがクリームソーダを「当時のモダンな食文化」のひとつとして認識し、それが現存しているためです。

 それには、資生堂が大きな役割を果たしているのではないでしょうか。文学者の和田弘文氏は、資生堂は関東大震災後から大東亜戦争までの間、西洋的な景観となった東京銀座で、化粧や髪型などのファッションから食事、美術までさまざまな都市文化を発信する文化装置だったと説明しています(和田2011)。

 そして、資生堂パーラー(の前身)から全国に広まったクリームソーダは、今でも喫茶店などで定番メニューのひとつとなっているのです。

 現在でもクリームソーダを通して当時のレトロな雰囲気を味わえるのは、当時のモダンな食文化だった歴史的な背景と、クリームソーダを継承してきた資生堂や喫茶店の存在があったからでしょう。

 最近では、昔ながらの緑のソーダにアイスクリームだけではなく、さまざまなクリームソーダが楽しめます。例えば、東京・神保町の老舗喫茶店「さぼうる」では六色六味のカラフルなクリームソーダがあります。グリーン(メロン味)、赤(いちご味)、黄色(レモン味)、水色(ブルーハワイ味)、紫(ぶどう味)、オレンジ(オレンジ味)です(写真)。

 また銀座の資生堂パーラーのような、季節ごとに変わる上質フルーツのクリームソーダなどもあります。ちなみに12月は青森県弘前市産の「紅の夢」というリンゴのクリームソーダでした。資生堂パーラー伝統のバニラアイスクリームと、甘さ控えめのリンゴの果実が入った大人向けのクリームソーダです。

中央区銀座にある「資生堂パーラー」の季節のクリームソーダ(画像:清水麻帆)



 皆さんもカラフルなイルミネーションのようなクリームソーダ、豪華なクリームソーダで、新年に彩りを加えて楽しく過ごしてみてはいかがでしょうか。

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