映画『犬鳴村』公開 なぜトンネルはしょっちゅう「心霊スポット」認定されるのか
「旧犬鳴トンネル」に劣らぬ都内の心霊トンネル 心霊スポットのなかには「心霊トンネル」というカテゴリーがあります。そのなかで最も有名かつ「日本最恐」と称されるのが、福岡県の「旧犬鳴トンネル」。 九州北部の人以外にはなじみのないローカルな立地、かつ現在は立ち入り禁止という事情にもかかわらず、「旧犬鳴トンネル」の知名度は抜群。怪談・ホラー好きで知らない人はいないでしょう。2020年2月には映画『犬鳴村』が公開されるなど、いまだに人々の話題に上るほどで、もはや日本を代表する心霊トンネルと言えるかもしれません。 しかし、東京にもさまざまな心霊トンネルがあることは忘れてはいけません。例えば、「旧々吹上トンネル」(青梅市黒沢~成木)にまつわる伝説は以下の通り。 東京にある心霊トンネルのひとつ、「旧吹上トンネル」(画像:吉田悠軌)※ ※ ※ 昭和30年代、このトンネルの近くで茶屋を出していた母娘が強盗に襲われた。 母親は茶屋にて殺され、娘はなんとかトンネルの中に逃げ込むも、中央辺りで強盗に追いつかれる。そして命乞いをする娘の頭に、強盗の鉈(なた)が振り下ろされた。 それ以来、壁には人影のような染みが張りつき、夜中にトンネルを訪れれば娘の霊を目撃するという……。 ※ ※ ※ 本当にそんな事件があったどうかは不明ですが、東京では定番の心霊スポットとして名をはせていた時代もありました。 しかし現在、手前の道には頑丈なゲートが閉ざされ、旧々トンネルは完全な立ち入り禁止となっています。若者たちの突撃によって、地元住民があまりにも迷惑したためでしょう。その意味では「東京の犬鳴トンネル」とでも呼べる場所かもしれません。 ちなみに、もうひとつ新しい「旧吹上トンネル」は、地元住民の生活道路として利用されており、いまだに通行可能。トンネル脇には「幽霊出る」と書かれた電柱があるので、こちらはいまだ若者の肝だめしに利用されているようです。 実際の事件と関連付けられたがために……実際の事件と関連付けられたがために…… その近くにある「小峰トンネル」(八王子市川上町~あきる野市小峰台)も、かつては有名な心霊スポットでした。1980年代には小峰トンネルおよび小峰峠の旧道には、雨の夜になると女の亡霊があらわれ、タクシーやトラックを止める」といったうわさが流れていたものです。 しかしそれが巡り巡って、1988(昭和63)~1989(平成元)年に起きた「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」と絡められたりしたことも。犯人の宮崎勤の実家が近かったこともあり、「殺された幼女の霊が出る」という無責任なデマが流されたのです。 しかし小峰トンネルは事件そのものと一切関係ありません。あまりにもセンセーショナルに事件が取り上げられたため、いわゆる「普通の心霊スポット」だったトンネルが、ゆがんだ形で改変されてしまったのです。時代とリンクしたがゆえの、不幸なパターンの心霊トンネルだと言えるでしょう。 実際と殺人事件と関連付けられてしまった「小峰トンネル」(画像:吉田悠軌) では、ここ最近の時代性とリンクした心霊トンネルといえば、どこでしょうか。 もちろんそのひとつは、当サイトでも取り上げたことのある「千駄ヶ谷トンネル」。2020年東京五輪・パラリンピックの象徴ともいえる新国立競技場そばにある心霊スポットです。しかしもうひとつ、同じくらいトレンドな話題と結びついた心霊トンネルがあります。 それはずばり、港区高輪にある「提灯殺しトンネル」。正確にいえばトンネルではなく、「高輪橋架道橋」という名称の、JR東海道線・山手線の下をくぐるガードです。 このスペース、実は日本最初の鉄道(横浜~新橋間)開業時からある由緒正しいもの。当時、高輪あたりは海の上を線路が敷設されていたので、その水路として利用されていたようです。 そして周辺の埋め立てが進んだ大正時代、通路として利用されるように。そういった経緯のため、車の交通が想定されていなかったのでしょうか。入り口に掲げられた「高さ制限1.5m」の標識通り、その天井はあまりにも低いのです。 「境界」に生まれる怪談の必然「境界」に生まれる怪談の必然 ここをタクシーが強引に通過しようとすれば、低すぎる天井ゆえに、屋根の表示灯(提灯)がこすられ、壊れてしまう……。そんな都市伝説(というより、もはや事実)から、「提灯殺し」なるエスプリの効いたあだ名がつけられました。 本来なら「珍スポット」とでも呼ぶべき場所ですが、都心の若者からは、なぜか昔から心霊スポット扱いされてしまったりもします。 まあ確かに、犠牲となったタクシー提灯がこすりつけた数々の傷跡が残っているトンネル天井は、けっこう不気味。そして実際に車や自転車で通ってみると、あまりの低さに恐怖を覚える気持ちもよく分かります。その気味悪いビジュアルと現実的スリルから、若者たちによる肝だめしの場となり、ひいては心霊スポットと誤解されていったのでしょう。 「提灯殺しトンネル」とも呼ばれる、JR東海道線・山手線の下をくぐる「高輪橋架道橋」(画像:吉田悠軌) また歴史的に見れば、この近くに江戸時代初期、「芝高輪刑場」という処刑場があったことも作用していそうです。 なぜ刑場があったかといえば、ここが江戸という都市の入り口だったから。江戸に入る人々に罪人の処刑を見せることで、治安を維持する狙いがあったからです。 さらにまた、怪談というものはどこかとどこかをつなぐ「境界」において生まれやすいものです。ここはかつて江戸の入り口であり、日本初の鉄道が東京に入る入り口でもありました。「提灯殺しトンネル(ガード)」の立地は、江戸・東京の入り口という「境界」を象徴する場所のひとつなのです。 そして心霊トンネル全般に言えることですが、トンネルそのものが「境界」をイメージさせる存在でもあります。だからよく怪談がささやかれるのです。 こうした諸要素が詰まった「提灯殺しトンネル(ガード)」が、珍スポットではなく心霊スポット扱いされるのは、もはや必然的とまで言えるでしょう。 2020年のうちに見ておくべき都内スポット2020年のうちに見ておくべき都内スポット ただ、この「提灯殺しトンネル(ガード)」は、これまた2020年に予定される高輪ゲートウェイ駅」の開業、および周辺エリアの再開発によって、消滅するという見込みが立っています。 「高さ制限1.5m」という標識が掛けられた「高輪橋架道橋」(画像:吉田悠軌) 旧犬鳴トンネルや旧々吹上トンネルのように、立ち入り禁止ながらも保存はされているものと違って、こちらは完全に姿を消してしまうという、残念なケース。 これこそ2020年のうちに見学しておかなければならない「心霊トンネル」の筆頭なのは間違いないですね。
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