「生きるも死ぬも運任せだった」 老齢男性がふいに語り出した、関東大震災の壮絶な記憶【連載】東京タクシー雑記録(2)
2020年11月28日
ライフタクシーの車内で乗客がつぶやく問わず語りは、まさに喜怒哀楽の人間模様。フリーライター、タクシー運転手の顔を持つ橋本英男さんが、乗客から聞いた奇妙きてれつな話の数々を紹介します。
「俺いくつに見える?」「ハズレ、86歳」
フリーライターをやりながら東京でタクシーのハンドルを握り、はや幾年。小さな空間で語られる乗客たちの問わず語りは、時に聞き手の想像を絶します。自慢話に嘆き節、ぼやき節、過去の告白、ささやかな幸せまで、まさに喜怒哀楽の人間模様。

今日はどんな舞台が待っているのか。運転席に乗り込み、さあ、発車オーライ。
※ ※ ※
十数年ほど前の晩秋、渋谷駅スクランブル交差点(渋谷区渋谷)から老齢の男性を乗せました。男性はつんのめるようにして座席に腰を降ろしました。
「千駄ヶ谷の北参道の近くまで」
「はい、じゃあ明治通りを走ります」
「渋谷駅は老人の歩く所じゃないよ、人が多くって。あ、俺いくつに見えますか?」
「80歳前後かな?」
「ハズレ、86歳。大正8年生まれで戦争にも行っている」
大正生まれのお客さんを乗せるのは当時としても珍しいこと。私は関心を引かれました。男性も、何か話を続けたそうな様子。
「お客さん、腰が少し曲がってるけど若く見えますよ」
「そうかい、ありがとう。俺は関東大震災も4歳のときに体験している。すっかり歳をとっちゃった」
「え? あの大地震?」
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