「なりたい顔」ランキングが、近年ちっとも代わり映えしない理由

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「なりたい顔」ランキングが、近年ちっとも代わり映えしない理由

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谷保乃子

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オリコンが毎年発表する「女性が選ぶ“なりたい顔”ランキング」。2020年は女優の北川景子さん・新垣結衣さん・石原さとみさんが1~3位で、例年と変わらぬ顔ぶれになりました。近年、上位者が代わり映えしないのはなぜなのか? ライターの谷保乃子さんが現代的価値観という側面からその理由を探ります。

今年も北川・新垣・石原の3トップ

 2020年11月6日(金)にオリコンが発表した、第14回「女性が選ぶ“なりたい顔”ランキング」。毎年恒例のこの順位付け、皆さんはどのくらい関心を持って見ているでしょうか。

 今回の1位から3位は、いずれも女優の北川景子さん・新垣結衣さん・石原さとみさん。アンケートに回答した女性たちからは「絶世の美女、とにかく美人」(北川さん)、「王道のかわいい顔」(新垣さん)、「近寄りがたいほどの美人」(石原さん)といったコメントが寄せられたといいます。

 10代の頃にデビューを果たし、30代になった今も第一線で活躍し続けているキャリアの長い3人。単に顔かたちが美しいだけでなく女優としての実績や立ち居振る舞いを知っているからこそ、今回の結果に「やっぱりそうだよね」と納得した人も多いのではないでしょうか。

2020年の「女性が選ぶ“なりたい顔”ランキング」で2年連続6度目の1位に輝いた北川景子さん。誰もが認める美貌の持ち主(画像:コーセー、スターダスト)



 ただ、この「やっぱり」という納得感には別の理由もありそうです。

 同ランキングの過去の結果をあらためて見返すと、2014年以降の7年にわたって3人は常に4位以上に入っており、そのうち1~3位をこの3人が占めた年は計5回。

 北川さん・新垣さんに至っては、10年以上も前から毎年5位以内にランクインし続けているのです。

10年でトレンドは様変わりしたのに

 そのほかの常連は同じく30代の深田恭子さん、綾瀬はるかさんらで、近年上位に登場した“新顔”は2019、2020年にトップ5入りした橋本環奈さんくらいです。

 10年前の2011年と言えば、ファッションならミニスカートや細身のシルエットが若い女性たちの主流。厚めに切りそろえた前髪と豪華なカールのロングヘア、メイクは黒の濃いアイラインでデカ目を強調するのが定番と、今とは全く異なるスタイルが街中を席巻していた頃です。

 ファッションやメイクのトレンドは10年で大きく変わったのに、なぜ「なりたい顔ランキング」の上位は大きな変化がないのでしょうか。

なぜ“新顔”が現れないのか

「なりたい」と掲げられる対象に変動がない。つまり、上位にランクインする新顔がなかなか現れない。

 その理由を現代の価値観という側面から探ろうとしたとき、まず注目したいのは女性たちが掲げる目標やあこがれが画一的なものから多様なものへと分散化したことです。

アラサー世代の女性を中心に高い人気を誇る月刊誌『GINGER』。「なりたい顔」上位3人もそれぞれ表紙を飾っている(画像:幻冬舎)



 SNSが発達したことで個々人の興味関心が多様化し、美容・ファッション・お笑い・ライフハックなどさまざまな分野ごとにインフルエンサーと呼ばれる存在が登場した現代。

 彼ら彼女らは数十万人以上ものフォロワーを擁する一方、それぞれが全く異なる舞台――いわば「島宇宙」のようなコミュニティーの中で注目を集めているため、あらゆる世代や層を巻き込むほどの反響を起こすことは極めてまれです。

人気がひとりに集中しない構造

「今も最も注目を集めるYouTuberがテレビ初出演!」といううたい文句のバラエティー番組を見たものの、出演した人物の顔も名前も全く知らなかった、なんて経験は誰しも一度や二度は覚えがあるのではないでしょうか。

 あふれる情報から自分の好みに合うものを選び出す(よって「人と違う」ことに一定の価値がある)現代的な消費スタイルの下では、かつてのような“たったひとりのカリスマ”が不在となるのはある種、当然の流れなのでしょう。

 他方、ふたつめの理由として挙げたいのは「多様化」に対して逆説的とも言える、「普通・平均の追求」です。

「普通にカワイイ」がキーワード

 象徴的なのはファッションの分野。

 ユニクロやGU、H&Mなどの人気ファストファッションは、今や原宿・渋谷といったカジュアルな街だけでなく、あこがれの高級街の代表格だった銀座にも出店し、インバウンドだけでなく国内の若者も数多く集客しています。

 安く、誰でも着られるファストファッションは、過度なコストと自己主張を投影せず「普通」であることが良しとされる現代を体現するかのようなアイテム。人目を引く高級で派手な服よりも、「普通」の中に自分らしさを見いだす若者のありようを表しています。

 この今日的な「普通らしさのカワイイ」を体現している人物を挙げるとするならば、2020年に飛躍を遂げた元TBSアナウンサーの田中みな実さんが筆頭格だと筆者は考えます。

普通の中での上手な立ち回りとは

 レギュラー出演するバラエティー番組『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)のタイトルにもあるように、彼女を評するキーワードのひとつはずばり「あざとい」。

 例えば篠原涼子さんや天海祐希さん、米倉涼子さんら上の世代の女優たちがドラマで演じるような、表舞台のど真ん中に立って世の中に影響を与える“王道”のキャラクター像と異なり、集団の隅っこで控えめにたたずみながら(女子アナとはまさにこのポジション的な職業でもあります)、それでもちょっとしたしぐさや振る舞いでそれとなく周囲の注目を集める。

 この立ち回りのちょうど良さこそ今どきであるとされ、彼女が同世代だけでなく10~20代からも注目と支持を集めた要因となったように思われます。

2020年に大注目された田中みな実さん。その“ちょうど良い”ポジションが同性からも支持される理由?(画像:マッシュホールディングス)



 2020年10月、同番組で彼女が、女性の背が低いことは「(武器に)なる」「(背が高い女性に対して)マウントを取れる」などと発言したことが物議をかもしました。

 女優をはじめとする「背が高く圧倒的なオーラを放つ女性」こそあこがれの対象、という従来的な価値観の逆を突く、派手じゃない・目立たない・主張し過ぎないという、したたかなスタンス。

 かつ同時にその「普通」の中でいかに自分を「その他大勢」と差別化するかという処世術が今ありがたがられるのは、SNS上で自分への批判が可視化され炎上という名の社会的制裁がひとごとでなくなった現代ならではのリスクを背景としたものでもあるのでしょう。

王道より親近感が求められる時代

「普通にカワイイ」とはつまり、「なりたい顔」のようなランキングの上位に食い込むことを決して目指さない価値観とイコールと言えるのかもしれません。

 近年、頭角を現している若手芸能人と言えば、池田美憂さん(みちょぱ)をはじめとするギャルタレ、山之内すずさんのような素朴な外見とキャラクター、森七菜さんといったどこか親近感を覚える女優など、いわゆる王道とは異なる、親しみやすさをまとった女性たち。

初主演ドラマ『この恋あたためますか』(TBSテレビ系)も好調な森七菜さん(右)。筆者はドラマ『獣になれない私たち』と『3年A組』以来すっかりファンになってしまった(画像:プレミアム・プラットフォーム・ジャパン)



 また最注目の女性アイドルグループNiziUも、「デビュー前はごく普通の女の子たちだった」という点が話題を集めた一因でした。

 その女の子たちがオーディションを経てどんどんかわいく洗練されていくプロセスが放送・配信されたことが、視聴者の共感や応援意欲をかき立てる要素として機能したのです。

 例に挙げた若手女性たちは皆すでに相当の人気を獲得していますが、「なりたい顔ランキング」で1位になり得るかと問われると、必ずしも首肯しがたく、むしろそういった地平とは全く別のところにフィールドを見いだしているようにも思われます。

それでもなおランキングが担う意義

 目指す指標が多様化・分散化し、かつ王道よりあざとさ・したたかさでリスクヘッジをする時代。知り合いの編集者は現状を称して「“都会的な美人”がいなくなった」と表現していました。

 都会的とは、文字通り東京のおしゃれな街角をさっそうと歩き人々の羨望(せんぼう)を集めるといった意味合いでしょうか。そうであるならば、80~90年代には日本中の誰もがあこがれを抱いた東京という街もまた絶対的な価値を落としているということの裏返しなのかもしれません。

 なかなかおあつらえ向きの新顔が現れない、やや担い手不足の感がある「なりたい顔ランキング」は、王道として広い世代に認められている北川景子さん・新垣結衣さん・石原さとみさんによる三つどもえがもうしばらく続くのではないか、というのが筆者の予想です。

 むしろ、現代的価値観の下では「なりたい顔」的な指標でランク付けをするのが難しくなってきているのではないかとさえ感じるのですが、2019年3位・2020年4位に選ばれた橋本環奈さんをはじめ、新しい美や才能を持ち合わせた若手女優・タレントがいつか代替わりを果たす場面を見てみたい、と思うのも確か。

 したたかに生き抜く術(すべ)が求められる今日において、それでもなお王道を突き進む“覚悟”を決めて表舞台のど真ん中を目指そうとする存在が現れたとき、現代的なリスクヘッジを選択する代わりに手放してしまったものが何だったのかということに、私たちはもしかしたら気づかされるのかもしれません。

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