上皇ご夫妻のお引っ越し先「高輪皇族邸」周辺は、歴史散策にうってつけだった
上皇上皇后両陛下のご転居先となる港区高輪の高輪皇族邸。周辺は、歴史的な公園や寺など名所が多く、来春開業予定の高輪ゲートウェイ駅も話題です。地形散歩ライターの内田宗治さんが、おすすめの高輪散策コースを紹介します。上皇上皇后両陛下は高輪皇族邸へ 令和の時代へと移る皇位継承にともなって、皇居にお住まいの上皇ご夫妻と、赤坂御用地にお住まいの今上天皇ご一家は、お住まいを入れ替わられることになります。天皇ご一家が皇居の御所に、というわけです。 高輪皇族邸。樹木に囲まれて丘の上に広がる。手前の左右の道が一般道の二本榎通り(2019年6月、内田宗治撮影) それにあたり、明仁上皇・美智子上皇后ご夫妻はまず、今年の秋くらいまでに、港区高輪の高輪皇族邸に移られる予定です。赤坂御用地ではなく高輪皇族邸に移居されるのは、それぞれの御所の改修が必要なためです。 お引っ越しの順序を確認しておきましょう。上皇ご夫妻が高輪皇族邸へと出ていかれた後、皇居の御所の改修に取りかかり、終了後に今上天皇ご一家がそこへお引っ越し。そして赤坂御用地内の御所(旧東宮御所)にバリアフリー化などの改修工事を施した後、上皇ご夫妻が高輪皇族邸(居住期間中の名称は仙洞仮御所)からそこへ越してこられます。 皇居や赤坂御用地に比べ、高輪皇族邸は、ほとんど知られていないのではないでしょうか。どういう場所で、周辺はどんな環境なのか。今回はその一帯を訪れてみたいと思います。 高輪皇族邸の地は、熊本藩細川家の下屋敷跡 散策の起点は、山手線新駅として話題の高輪ゲートウェイ駅(来春開業予定)すぐ近くの都営浅草線泉岳寺駅、および東京メトロ南北線・都営三田線白金高輪駅です。両駅の間には南北に細長く丘(高輪台地)が延びています。 高輪皇族邸から徒歩約10分のところにある亀塚公園。旧華頂宮邸で、古めかしい塀がかつての姿を忍ばせる(2019年5月、内田宗治撮影) 突然ですが、この丘を亀の甲羅に見立ててみましょう。丘の上と丘の下、土地の高低差に注目しながら散策するためです。甲羅の右縁にあたる丘下に山手線、同じく左縁に南北線・三田線が走っている形です。 高輪ゲートウェイ駅側からは、甲羅の真ん中高い所に向けて、伊皿子(いさらご)坂を右から左へと登っていきます。 白金高輪駅側からは、同じく魚籃(ぎょらん)坂を左から右へと登っていきます。甲羅の左右を分ける山の稜線にあたるのが二本榎通りです。この通りに面して左側(西側)に高輪皇族邸が広がっています。丘の上に位置するわけです。 江戸時代、眺めのいい高台は大名屋敷が占めていた例が多く、高輪皇族邸の地は、熊本藩細川家の下屋敷でした。大正時代の一時期は皇太子時代の昭和天皇が住み、昭和の戦前戦後では高松宮邸となった時期もありました。 戦後その一部が払い下げられ、区立高松中学やマンションとなった敷地もありますが、それでも現在の高輪皇族邸は150メートル四方ほどの広さがあります。 丘下と丘上を結ぶ路地散策がおすすめ丘下と丘上を結ぶ路地散策がおすすめ 周辺の特徴は、坂とお寺が多いこと。高輪皇族邸から歩いて10分程度以内に、歴史散策向けのスポットが目白押しです。 甲羅中央の縦線(二本榎通り)を上(北)に約500メートル行くと右側(東側)に亀塚公園があります。ここは旧皇族の華頂宮邸だった所で、公園内の円墳状の高地からは、眼下の東京湾をはじめ360度の展望が楽しめたといいます。 亀塚公園へと甲羅の左側から登ってくる坂が、その名も幽霊坂。東京23区内には、幽霊坂という名の坂が少なくとも15か所以上ありますが、寺や墓地に囲まれた坂がこう名付けられるようで、ここもそのひとつ。 一帯の三田4丁目は20以上の寺があり、寛永12(1635)年、江戸城の拡張で八丁堀にあった寺院群がここに移されたものです。 泉岳寺山門。背後の台地上に高輪皇族邸などがある(2019年5月、内田宗治撮影) 高輪皇族邸の南東、甲羅では右下にあたる所にあるのが、『忠臣蔵』で知られる赤穂義士の墓地のある泉岳寺です。主君の敵として討ち取った吉良上野介の「首洗い井戸」などもあり、訪れる人が多く、四十七士たちなどの墓前には常に線香の煙が絶えません。 興味深いのは、高輪皇族邸などがある丘上と泉岳寺などのある丘下とを結ぶ一般道が、この付近の二本榎通り沿い約800メートルにわたって無いことです。甲羅でいえば、縦線はあるものの、横線がないのです。丘上のお屋敷街と、丘下の庶民の町との断絶を実感させてくれます。 実は丘下と丘上を結ぶ迷路のような路地が存在します。泉岳寺山門と高輪中学との間をすり抜けるようにして続く道で、ぜひここを散策することをおすすめします。 周辺には都内有数の珍スポットも周辺には都内有数の珍スポットも もう一か所、都内有数の珍スポットが、「ちょうちん殺し」の異名をもつ高輪橋架道橋。山手線から東海道新幹線まで何本もの線路を潜る長さ約250メートルのガードですが、ガード下の高さが異様に低く、約1.65メートル(車両制限高では1.5メートル)しかありません。 異名の由来は個人タクシーの屋根のマークの提灯(表示灯)がガードにぶつかって壊れたためとのこと。泉岳寺駅からA4出口徒歩2分ほどで行けます。 このほか八芳園、高輪大木戸跡、旧細川邸のシイの巨木(都指定天然記念物)も近くにあり、高輪皇族邸の中には入れませんが、周辺は散策にうってつけのエリアです。
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