連載開始50周年 なぜ国民的漫画「ドラえもん」は浮世絵化されたのか?

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連載開始50周年 なぜ国民的漫画「ドラえもん」は浮世絵化されたのか?

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アーバンライフ東京編集部

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私たちに未来への夢を見せ続けてくれる、不朽の名作「ドラえもん」。そのドラえもんはなぜ、過去の名作「浮世絵」に登場したのか? そこには、過去と未来をつなごうとする熱い思いが託されていました。

国民的漫画ランキング2位

 ランキング情報サイト「gooランキング」が2019年8月に発表した、「これぞ『真の国民的漫画』と思う漫画ランキング」。

 4102人から回答を集めたランキング堂々の第1位は、1984(昭和59)年から『週刊少年ジャンプ』に連載されたご存じ「ドラゴンボール」(鳥山明)。3位は妖怪漫画の雄「ゲゲゲの鬼太郎」(水木しげる)。そして、第2位は「ドラえもん」でした。

未来のドラえもんが、なぜ浮世絵に?

 小学館の雑誌にて1970(昭和45)年1月号から連載がスタート。1979年からはテレビ朝日系でアニメ化され、今や知らない人はいない、まさに国民的キャラクターとして幅広い年代から愛され続けています。

 ドラえもんが4次元ポケットから取り出す秘密道具は、子どもだけでなく多くの大人をもとりこにし、道具の実現が科学技術の発展の目標として掲げられることも。「ドラえもん」に描かれた未来は、私たちにいつまでも見果てぬ夢を見せ続けてくれています。

 そのドラえもんが、“未来”とは真逆の「浮世絵」となって商品化されていることをご存じでしょうか?

北斎「富嶽三十六景」の世界に登場

 2020年10月24日(土)に購入予約の受付が始まる新作は、江戸時代後期を代表する浮世絵師、葛飾北斎の有名作品「富嶽(ふがく)三十六景」を題材にしたもの。

 46種の図柄がある同シリーズで唯一、桜が描かれた名作「東海道品川御殿山ノ不二(とうかいどう しながわごてんやまのふじ)」をベースに、桜を眺めてお花見を楽しむドラミちゃんとしずかちゃん、茶屋へと小走りしているドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫の姿が生き生きと表現されています。

ドラえもんの浮世絵木版画「富嶽三十六景 品川御殿山ノ不二」(画像:(C)Fujiko-Pro、版三)



 江戸時代、東海道に面していた御殿山は、現在でいう品川区北品川3丁目付近にありました。

 将軍家の品川御殿が置かれ、当時の大和国吉野(現在の奈良県)から桜の木が植樹され、海と桜、そして富士山を一度に眺められる名所としてにぎわいを見せていたといいます。

 武士や町人らが身分の分け隔てなくお花見を楽しんだ様子が伝わる「東海道品川御殿山ノ不二」の雰囲気は、ドタバタな日常やキャラクターたちの喜怒哀楽、夢と笑いがあふれる「ドラえもん」の世界観ともピタリと重なります。

 さて、このドラえもん版「東海道品川御殿山ノ不二」をプロデュースしたのは、現代版画の数々を手掛ける版三(はんぞう。大田区北千束)。

 過去にも、同じく富嶽三十六景の「甲州石班澤(こうしゅうかじかざわ)」や、江戸・日本橋に架かる橋を描いた歌川広重の最高傑作「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」など、さまざまな浮世絵とドラえもんのコラボ作品を発表してきました。

 なぜ、ドラえもんと浮世絵なのか? そこには日本の伝統工芸技術を“未来”へと残したい熱い思いが込められています。

彫り・刷りの高い技術を後世に

 版三によると、江戸時代の浮世絵は、絵師のほか彫師や摺師(すりし)、彼らを取り仕切るプロデューサー役(版元)らの力が結集して創り出された、総合芸術とも言えるもの。

「(浮世絵には)版元と絵師のみの記載がほとんどですが、彫師・摺師の技術がいかに繊細で高度なものであり、作品の出来に重要な役割を果たしたかということは言うまでもありません」

と、それぞれの確かな腕前を強調します。

 19世紀、こうした日本の浮世絵がゴッホやモネらヨーロッパ印象派の画家たちにも多大なる影響を与えたことは有名な話。

「世界に誇る浮世絵の基礎となる彫り・刷りの技術を絶やさず継承するために、また再び世界的名声を得るために、伝統を守りつつも新しい挑戦を続け、今まで見たことのないような作品制作を行っていく」ことが、同社の掲げるミッションなのだといいます。

版三が過去に手掛けたドラえもん浮世絵「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(画像:(C)Fujiko-Pro、版三)



 過去の功績と未来への継承をつなぐ中間地点の現代で、未来への夢を見せ続けてくれるドラえもんは、現代版浮世絵に登場するキャラクターとしてまさに適任といえる存在。

 同社のこうした思いを体現する「ドラえもん浮世絵」は、名だたる現代の名工たちが制作に携わりました。

22世紀、江戸木版画は継承されているか

 文化庁・無形文化財選定保存技術認定職人であり、経済産業省認定の江戸木版画、伝統工芸師の彫師・菅香世子(すが かよこ)さんや、同じく摺師・鉄井裕和(てつい ひろかず)さんらがその名を連ねます。

職人による彫り作業の様子(画像:版三)



 のせる色ごとに版木を何枚も彫り、その版木の数だけ何度も何度も擦り重ね、いくつもの工程をへてようやく完成する木版画の浮世絵。この手法でしか表現し得ない、手作りの風合いが魅力の作品が仕上がりました。

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 経済産業省の資料(2018年11月)によると、国が指定する「伝統的工芸品」は今回紹介した江戸木版画など全部で232品目。それらを制作する伝統工芸士の数は、職人の高齢化などに伴い減少傾向で、同年2月時点で4060人といいます。

 ドラえもんが生まれた22世紀の日本・東京にも、木版画の彫り・刷りの技術が確かに受け継がれていることを願って。本作は4万5000円(税抜き・送料別)。300部限定で、2020年12月から順次発送予定とのことです。

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