意外? 山手線外側で「駐車場なしの新築一戸建て」が増えだしている理由

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意外? 山手線外側で「駐車場なしの新築一戸建て」が増えだしている理由

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櫻井幸雄

住宅評論家

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山手線の外側エリアなどの「準都心部」で現在、駐車場なしの一戸建て住宅が増えているといいます。いったいなぜでしょうか。住宅評論家の櫻井幸雄さんが解説します。

山手線外側で「車庫なし一戸建て」が増加中

 JR山手線の外側エリアのような「準都心部」と呼びたくなる場所では、分譲一戸建てが根強い人気を誇っています。

 まず23区内でマイホームを持ちたい、と願う人は相変わらず多いのです。

 しかしJR山手線の外側といっても23区内であるため土地の値段は安くなく、新築住宅の値段も高めです。

 予算は5000万円台から6000万円台まで。可能なら4000万円台で3LDKか2LDKを買おうとすれば、新築マンションのほうが現実的。

 それでも一戸建てに住みたいと思う人は、どうしてもマンションが好きになれない人や、仕事や生活に車が必須で、駐車場付きの一戸建てのほうが好ましいという人たちでしょう。

 ところが現在、準都心部ではあえてカーポート(駐車場)を設けない分譲一戸建て、つまり建売住宅が増えています。

山手線(画像:写真AC)



 その長所とは、そして購入時の注意点とは――準都心部の最新住宅事情をリポートします。

一戸建ての駐車場はかつて「生命線」だった

 従来、駐車場は一戸建ての「生命線」でした。

 分譲マンションを買うと駐車場を借りなければならず、その賃料は準都心部で月額1万5000円以上になるのが一般的です。

 しかし近年の都心・準都心部のマンションは駐車場の設置率を下げ、全住戸の3割程度しか駐車場を設けないケースが増えています。全100戸のマンションなら、30台分くらしか駐車場がないわけです。

JR山手線の外側エリア「準都心部」のイメージ(画像:写真AC)

 マンション暮らしで車を所有する場合、駐車場の使用料が高く、またその数も少ないため、借りにくいという問題が生じてしまいます。

 その点、一戸建てであれば自前の駐車場にマイカーを収めることができ、毎月の駐車場の使用料が不要。また距離も近いため、車を利用しやすいという利点も生まれます。

 敷地内に設けられた駐車場は、一戸建てがマンションよりもすぐれている点の「代表項目」だったわけです。

 そんな駐車場をあえてなくした理由は、ふたつあります。それはなくすことで

・候補地が増える
・住み心地がよくなる

ためです。それぞれの理由を説明しましょう。

一戸建ての候補地が増える?

 準都心部で人気が高い一戸建ては、やはり駅に近い場所の物件です。徒歩3分以内なら最高ですが、そのような場所はめったに出ません。5分以内、もしくは徒歩7分以内の一戸建てが人気になります。

 そのような駅近の場所は年々、土地が減っています。そしてまれに売られる土地は、「少々条件が厳しい」というケースが増えています。

 具体的にいうと、「周辺の道路が狭く、車で入りにくい」という土地です。

 山手線の外側といっても23区内で駅に近い場所であれば、昔から多くの人が住んでいます。そのため家やビルが建て込み、道路が狭いところが珍しくないのです。

都内の狭い路地のイメージ(画像:写真AC)



 そのように狭い道に囲まれた土地が売りに出ると、簡単には売れません。マンションを建てようとしても、大型の工事車両が入れないため建設は不可能。一戸建てであれば建設できるものの駐車場を付けられない、というケースが生じがちなのです。

 駐車場は設置できても、家の前までマイカーで入りにくく、駐車場に車を納めることが現実的に不可能というケースがあるからです。

 そしてマンションとしても一戸建てとしても不適格な土地となり、土地の買い手は現れません。結果、「道路事情に難あり」の土地として値段が安くなっていました。

 安く売られている土地をなんとか活用できないか――と考え出されたのが、「駐車場なしの一戸建て」。一戸建てに不可欠とされた駐車場を外し、新しい発想で生み出された分譲住宅なのです。

駐車場をなくしたことで、思わぬ長所が

 あえて駐車場をなくした一戸建てをつくってみると、意外な利点がありました。

・3階建てにしないで済む

ことです。これには説明が必要でしょう。

 準都心部の駅近に建設される一戸建ての場合、敷地面積が80平方メートルや60平方メートルの狭小住宅になりがちです。その狭い土地に駐車場(15平方メートル程度は必要)を設けようとすると、建物1階に駐車場が食い込むことになります。

 その結果、1階の床面積が減るため、必要な部屋数を確保するために3階建てにするが普通です。準都心部の駅に近い場所であれば、3階建てを建設することが可能です。

3階建ての一戸建てのイメージ(画像:写真AC)



 しかし3階建ての一戸建てには、

・階段を上り下りする回数が増える
・高齢になったら暮らしにくい

といった短所があります。この短所をなくす、つまり3階建てにしないためには、駐車場をなくすことが有効なのです。

 駐車場がなければ、1階に駐車場の食い込みがなくなります。すると1階にも部屋を増やせるため、2階建てでも十分な床面積を確保できるわけです。

2階建てのさらなるメリットとは

 また2階建てで、2階の天井を高くし、2階の上にロフトやバルコニーを設けることも可能になります。

 しかも土地代が安いため、駅近マンションと同額か、それ以下の価格で一戸建てを分譲できる、という長所も生まれます。駐車場をなくすことで、いままでにない一戸建てが完成しするわけです。

ロフトのイメージ(画像:写真AC)

 駅に近い場所であれば、車は必要ないという人もいます。駐車場なしの一戸建てはそういう人たちをターゲットに売り出され、現在、準都心部の「売れ筋商品」に成長しているのです。

 ただしこのような一戸建ては駐車場を将来設置したいと思っても、不可能になるのが普通です。その点は注意しておくべきでしょう。

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