ツイッターでなぜか他の「駅そば店」に絡みまくる奴――箱根そば「やっこさん」【連載】都内 地味キャラこれくしょん(1)

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ツイッターでなぜか他の「駅そば店」に絡みまくる奴――箱根そば「やっこさん」【連載】都内 地味キャラこれくしょん(1)

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有名なばかりがキャラクターの価値じゃない! 深く長く愛してくれるファンがいる“地味にスゴイ”キャラたちを巡る連載「都内 地味キャラこれくしょん」。第1回は、箱根そばの「やっこさん」です。

小田急線の陰の主役、箱根そば

「箱根そば」といえば鉄道好きのみならずサラリーマンにもおなじみ、小田急レストランシステム(渋谷区代々木)が運営する駅ナカの立ちそば店です。

 小田急沿線を中心に2020年7月現在、東京と神奈川で計47店が営業中。揚げたての大きなかき揚げが乗ったかき揚げ天そばや、天玉そば、コロッケそばなどが人気メニューで、1965(昭和40)年の開業から55年を数える駅そば界の老舗的存在です。

 そんな同店が擁するキャラは、にっこり笑顔が特長の「やっこさん」。基本のスタイルは両腕を左右真横に広げ、右足をまっすぐ前に上げた、今にも元気よく歩き出しそうなポーズです。

そばの器を手に持つ、箱根そばの公式イメージキャラクター「やっこさん」(画像:小田急レストランシステム)



 やっこさんの「やっこ(奴)」とは、江戸時代に武家の奉公人を指して呼ばれた名。日常の雑務に加えて大名行列や姫様道中では、荷物を運んだり籠をかついだりした働き者の男たちです。

 そんな由来のやっこさんが、箱根そばで現在のデザインで公式キャラクターに就任したのは2015年のこと。開業50周年に合わせ、それまで店名ロゴの脇にあしらわれていた渋い絵柄のやっこをやわらかいタッチに描き改められ、誕生しました。

江戸からそのまま来たかのよう

 公式ツイッターなどで情報発信するときの話し言葉は、語尾が必ず「~ですぞ」。するとフォロワーたちもそれに答えて「~ですな。」などと返信を書き込む、ほのぼのとした関係を築いています。

 やっこさんのデザインを担当したのは、同社のデザイナー木下未紗紀(みさき)さん。「より多くの人に親しみを持ってもらえるようにと、丸みのあるデザインを意識しました」と作画の意図を説明します。

 木下さんいわく箱根そばは、サラリーマンだけでなく親子連れも数多く来店するという幅広い客層の店。「ですから小さなお子さまからお年寄りまで、年代を問わず受け入れてもらえるようなキャラクターを目指しました」とのこと。

東京・神奈川の住民にはおなじみ、「箱根そば」の外観(画像:小田急レストランシステム)



 確かに、基本のデザインはとにかくシンプル。おむすび型の下膨れの輪郭や、一点の曇りもなくほほ笑んだ表情、ドラえもんのように丸い手足。

 その姿を眺めていると、かわいらしさや渋さ、哀愁、いろいろな味わいがにじみ出てきて妙な親近感を覚えるようになる気がします。

 原則として焦げ茶色1色で描かれているのも特徴で、開業以来のロゴマークの色をそのまま生かしているのだとか。

 古く江戸時代の世界からタイムスリップしてきたような、セピア色の世界観を表現しているようにも思えます。木下さんにそう尋ねてみたところ「確かにそう見えなくもないですね」との回答でした。

東急の「しぶそば」と深い仲?

 そんなやっこさんの公式ツイッターの投稿をさかのぼって読んでいたところ、やっこさんが常日頃から親睦を深めているアカウントがあることが判明しました。東急グルメフロント(目黒区碑文谷)が運営する、同じく駅そば「しぶそば」の「しぶくまくん」です。

ツイッター上で交流する箱根そばのやっこさんと、しぶそばのしぶくまくん(画像:箱根そばツイッターアカウント)



 しぶくまくんが新宿駅西口にある箱根そばに来店した様子を自身のツイッターにアップすると、やっこさんは「しぶくまくんありがとう!」と返信。

 別の日にはやっこさんが「くまくんのねばねばそばおいしそうですな」とつぶやくなど、誰がどう見ても浅からぬ仲にあるようです。

ツイッター名物、企業アカ交流

 確かに、仲良くじゃれ合う企業の公式アカウント同士というのはツイッターではしばしば見かける光景ではあります。

 例えば電機メーカーのシャープ(大阪府堺市)と健康器具のタニタ(板橋区前野町)のペアなどは有名で、“ふたり”を擬人化した4コマ漫画まで発売されたほど。

「シャープさんとタニタくん@」という4コマ漫画まで登場した、ツイッターでの企業公式アカウント同士の交流(画像:リブレ、クロフネ、仁茂田あい)

 そこに文具メーカーのキングジム(千代田区東神田)やゲーム会社のセガ(品川区西品川)まで加わってたびたび交流の様子を投稿し合っているのだから、企業の「中の人」同士がSNSで「公開交流」することは、今やすっかり定番の企業PR活動のひとつとなっているのでしょう。

 とはいえ、やっこさんとしぶくまくんのような完全に同業他社同士が「キャッキャウフフ」と仲良くしているのは、意外と珍しいことなのではないでしょうか。

立ちそば業界を盛り上げるため

 箱根そばを運営する小田急レストランシステムの広報担当、高橋律子さんに理由を尋ねてみたところ、近年、複数のそばチェーン同士で“友好関係”を深めるために合同キャンペーンを展開しているとのことで、例えば2019年11月は、前述のしぶそばとともに唐揚げとちくわ天を乗せた「からちくそば」の企画を実施。

 全く同じ唐揚げとちくわ天のトッピングを、両店それぞれのそばとつゆで食べ比べられる「相互乗り入れ」キャンペーンは、駅そばファンなどの間で当時けっこう話題になったといいます。

立そばチェーン同士の「相互乗り入れ」をキャッチコピーにした2019年11月のキャンペーンは、ファンの間で話題に(画像:小田急レストランシステム、東急グルメフロント)



 そう言われて確認してみると、やっこさんはツイッターで「富士そば」(運営・ダイタングループ。渋谷区代々木)とも、ちょくちょく関係を持っています。

 最近では2020年7月3日(金)、箱根そばのプレゼントキャンペーンに富士そばのアカウントが応募したことについて、やっこさんが「抽選は、忖度はございませんぞ(ハート)」とつぶやくなど、仲の良さを見せつけていました。

 ほかにも、しぶくまくんが富士そばの店舗を訪れて「平打ち麺おいしいね」とツイッターで報告し、富士そばが「毎度、ありがとうございます!」と返信するなど、とにかく仲良しなそば店アカウントたち。

 同業他社をライバルと見なすのではなくて、ともに業界を盛り上げるためにスクラムを組む様子が伝わってきました。

●企業情報
・企業名:小田急レストランシステム
・キャラ名:やっこさん
・本社住所:東京都渋谷区代々木2-28-12 小田急南新宿ビル3階
・事業内容:レストラン事業

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