理工系なのに「男っぽさ」が希薄 リケジョの楽園「芝浦工大」とはどのような大学なのか

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理工系なのに「男っぽさ」が希薄 リケジョの楽園「芝浦工大」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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私立理工系の単科大学として知られる芝浦工業大学。そんな同大は「工業大学」という旧来の男性イメージを払しょくし、積極的な女性活躍の場を学内に提供しています。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

男子学生のイメージからの変貌

 芝浦工業大学(江東区豊洲)は1927(昭和2)年、東京帝国大学大学院生だった有元史郎が創立した東京高等工商学校を前身に持つ、私立理工系の単科大学です。

 2006(平成18)年には豊洲キャンパスを開校し、同時に本部機能も移転しました。芝浦キャンパス(港区芝浦)と大宮キャンパス(さいたま市)の3キャンパス体制で、4学部16学科が学べます。

芝浦工業大学・豊洲キャンパスの外観(画像:(C)Google)



 2010年前後は入試の志願者が2万~3万人で推移していましたが、ここ数年の志願者数は4万人を突破するなど少子化の中でも人気を集めています。

 創立当初から社会貢献する技術者の育成を教育理念に掲げていることもあり、一般的に男子学生が圧倒的に多いイメージがあります。

 しかし2010年代以降は積極的に女性教職員を採用し、女子学生も比例するように増加し続けています。

 男子学生や教員が大多数を占めている理工系大学で、女子率をアップするためにどういった取り組みが行われてきたのでしょうか。

2015年「東京都女性活躍推進賞」を授与

 内閣府の男女共同参画局が2015年に発表した「女性活躍加速のための重点方針 2015」には、女性人材が少ない理系分野での育成に向けた取り組み方針が入っていました。

 しかし芝浦工業大学は2012年、国の動きに先駆けて大学内で男女共同参画のためにヒアリングを実施し、翌2013年10月に男女共同参画推進室を設置しているのです。

 2014年3月には、豊洲キャンパスで啓発活動も兼ねてシンポジウムを実施。推進室立ち上げ当初より大学を挙げ、女性が活躍できる環境作りに必要なものを発信するなど積極的に活動しています。

 2012年度の女性教員の比率は6.2%、2014年度は10%、2015年度は12.3%、2019年度は18.5%まで上昇。国立大学の工学分野の女性教員比率が4.9%であることを踏まえると、芝浦工業大学の数値は突出しています。

女性教員の比率の推移(画像:芝浦工業大学のデータを基にULM編集部で作成)



 こうした取り組みが東京都から評価され、2015年に第2回となる「東京都女性活躍推進賞」の教育分野で芝浦工業大学は受賞されました。

女子学生が学びやすい環境を整備

 芝浦工業大学が進めている男女共同参画の波は、大学だけでなく付属校へも広がっているのです。芝浦工業大学付属高等学校(江東区豊洲)は2017年度から共学校となり、同じ敷地内にある付属中学校も2021年度から同様の変更予定です。

 このように付属校を共学化することで、より多くの女子小中学生を芝浦工業大学に進学させようという狙いが見えてきます。

 また理系学部に興味のある女子小中学生を対象にした、「工学女子を育てよう!プロジェクト」を定期的に実施。指導するのは同大に通う女子学生のため、児童や生徒が「理系学部の女性」に接するハードルを下げる機会となっています。

文部科学省 科学技術人材育成費補助金「女性研究者研究活動支援事業」のパンフレット(画像:芝浦工業大学)



 女性活躍を推進するためには女子学生を増やすだけでなく、彼女たちが学びやすい環境設備も必要です。こうした問題点をクリアするため、豊洲と大宮の両キャンパスには女子学生と女性教職員専用の休憩室が設置されています。

生徒と教員の女性ネットワークを設立

 また芝浦工業大学は、女性教員と学生、卒業生をつなげるネットワーク作りを目的に2014年6月、「Shiba-joプラチナネットワーク」を立ち上げました。

 少数派である女性教員や在学生、OGのつながりを強くし、女子受験者増加に向けて情報発信する際の協力や卒業後のキャリアを考える相談など、幅広い相互支援を目指しています。

「Shiba-joプラチナネットワーク」のリーフレット(画像:芝浦工業大学)

 決して多いとは言えない理工系の女子卒業生の存在感は大きく、受験生や在校生のロールモデルの役割を果たしています。

女子学生の比率も増加

 前述のように、芝浦工業大学が男女共同参画推進室設置をしてから右肩上がりを続けいた女子教員の比率は、2019年度までに18.5%まで到達しています。また、それに比例するように女子学生も増加しています。

 2014年の女子学部生の比率は13.8%、大学院では9.5%でした。2019年にはそれぞれ17.9%と15.4%まで上昇しました。女子教員が多く在籍する大学は女子学生にとっても志望しやすい大学へと変貌していきます。

女性教員の比率の推移(画像:芝浦工業大学のデータを基にULM編集部で作成)



 こうした変化は大学全体にも好影響を及ぼしているのです。

女性比率と大学評価がリンク

 また2014年度には文部科学省からスーパーグローバル大学と認定され、海外留学や留学生の受け入れなどを積極的に行っています。

 2012年度に172人だった海外への派遣学生数は、2019年度に1586人と大幅アップしました。同様に大学で学ぶ留学生も2012年度の147人から2019年度の1692人となっています。

派遣学生数の推移(画像:芝浦工業大学のデータを基にULM編集部で作成)

 イギリスの高等教育機関専門誌「Times Higher Education」がベネッセコーポレーションの協力を受けて発表した日本版大学ランキングでは過去最高の35位となり、私立大学では8位を記録しました。

高まる大学への評価

 女性教員の活躍の場を増やし、女子学生の人材育成も力を注ぐようになった時期と重なるように、芝浦工業大学の評価は高まっています。

芝浦工業大学のウェブサイト(画像:芝浦工業大学)



 女性活躍は時代のニーズに沿っているとはいえ、改革を進めるのは勇気が必要です。

 その点、少子化が進み大学にとって厳しい運営が今後待ち構えるなかで、芝浦工業大学は世論を読み取る能力にたけ、また実行に移す機動力があると言えます。今後も志願者が大幅に減ることはなく、安定した人気を集めるでしょう。

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