エッジの効いた「学習ドリル」が少子化の今、売れ続けるワケ

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エッジの効いた「学習ドリル」が少子化の今、売れ続けるワケ

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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出版不況といわれるなか、学習ドリルの人気が高まっています。そのけん引役は「変わり種」です。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

少子化進行も拡大する玩具市場

 東京都の児童数は増加傾向にありますが、日本全体では少子化が加速しています。それに伴い、子どもをターゲットとした産業の規模も縮小していると思いきや、実はそうでもないようです。

 玩具メーカーから成る業界団体・日本玩具協会(墨田区東駒形)の「玩具市場規模調査データ」によると、玩具市場は2009(平成21)年に底を打ち、2019年度は2001年の調査開始以来2番目となる8153億円を記録しました。

 年度末は新型コロナウイルスの影響でカードゲームやジグソーパズルなどの需要が高まったとはいえ、「少子化 = おもちゃが売れない」とは単純に言い切れないことがわかります。

 これと同じ現象が、子ども向けの「学習ドリル」の世界でも起きているのです。

「うんこ漢字ドリル」の破壊力

 全国出版協会・出版科学研究所(新宿区東五軒町)が発表したデータによると、2019年の出版市場規模は紙と電子を合わせて15億432万円でした。2018年より増加したものの、電子出版の増加額593億円による部分が大きく、紙の売上額は年々減少しています。

 子ども向けの学習ドリルは、現在でも昔ながらの紙ベースがほとんどです。少子化と出版不況というマイナス要素が業界を占める時代において、2017年3月に世間を驚かす小学生向けの学習ドリルが出版されました。その名も「うんこ漢字ドリル」(文響社)です。

2017年3月に出版された「うんこ漢字ドリル」(画像:文響社)



 全ての文章に「うんこ」に関する言葉が組み込まれるなど、この度肝を抜くような学習ドリルの登場はSNS経由で話題になり、メディアでも大きく取り上げられました。

 発売から2か月で266万部を突破し(文響社発表)、オリコンBOOKランキングでは4週連続1位を達成。学習教材の枠を飛び越えるような売れ方を見せました。

次々と出版される「変わり種ドリル」

「うんこ漢字ドリル」の成功から半年もたたない2017年7月、別の出版社から「まいにちおならで漢字ドリル」(水王舎)が出版されました。

 2018年3月には「トレンディエンジェルのハゲラッチョ かん字ドリル」(宝島社)と、売れっ子芸人とのコラボ商品まで登場。

2018年3月に出版された「トレンディエンジェルのハゲラッチョ かん字ドリル」(画像:宝島社)

 このように「うんこ漢字ドリル」の成功を受け、子どもが好みそうな下品さや笑いを取り入れた「変わり種ドリル」が出版されたのです。

 また、「一行怪談漢字ドリル」(幻冬舎)も仲間に加わりました。

 こちらは「うんこ漢字ドリル」以降主流だった、外で大声でタイトルを言えないような商品ではなく、子どもに人気の高いホラー系を意識している作りです。

「うんこ漢字ドリル」の独走状態

 変わり種ドリルの先駆者である「うんこ漢字ドリル」の勢いは続いています。出版から3年がたっても人気が落ちるどころか、拡大しているのです。

 その範囲は現在、漢字だけでなく幼児向けや算数まで広がっています。他のドリルが漢字のみを対象としているなか、独り勝ちといった様相を呈しています。

2018年5月に出版された「一行怪談漢字ドリル」(画像:幻冬舎)



 出版元の文響社(港区虎ノ門)は「うんこ漢字ドリル」ブランドを大切に育て、文房具やグッズ販売から、「うんこ学園」というネットコンテンツも立ち上げて幅広い事業展開を行っています。

女の子は「すみっコぐらし」

「うんこ漢字ドリル」が世に出る1年前に、女児の間で絶大な人気を誇る「すみっコぐらし学習ドリル」(主婦と生活社)が出版されました。

2016年11月に出版された「すみっコぐらし学習ドリル」(画像:主婦と生活社)

 当初は低学年向けの漢字ドリルのみしか出されていませんでしたが、現在は種類が増えています。小学1年生から4年生向けの算数、プログラミングや英語といった新指導要領に対応したドリルまで登場しています。

「かわいい78枚のシール付き」という文字も表紙に大きく書いており、女児の購買意欲をそそります。

 こうしたキャラを前面に出した学習ドリルは、昭和時代にはほとんどありませんでした。少子化で学習ドリルの購買層も減るなか、人気キャラクターを起用するのはある意味正しい戦略なのでしょう。

マニアックなテーマのドリルも登場

「うんこ漢字ドリル」やすみっコぐらしの出版元は、どちらも学習ドリルの古参企業ではありません。斬新な学習ドリルを提供する出版社が登場している一方、以前から学習参考書を世に送り出している会社はどう動いているのでしょうか。

 学研プラス(品川区西五反田)では長年出版している図鑑を生かしたマニアックな漢字ドリルを作っています。

 同社の図鑑シリーズ「学研の図鑑LIVE」とコラボし、小学1年生から6年生までで習う漢字をまとめて勉強できる「図鑑漢字ドリル」(学研プラス)を2017年7月から出版し、現在は「宇宙」「危険生物」「恐竜」「昆虫」「鉄道」「動物」の6シリーズまで展開しています。

2017年7月に出版された「図鑑漢字ドリル小学1~6年生」(画像:学研プラス)



 図鑑で使用される写真を使った、オールカラーのぜいたくな漢字ドリルで、正直なところ、子ども全員を対象としていない思い切りの良さが目を引きます。

 6シリーズそれぞれのジャンルに関係する文章が多く登場するため、漢字以外の知識も学べて一石二鳥です。

多様化するそれぞれの志向

 学習ドリルの市場は少子化の中、「うんこ漢字ドリル」の成功もあって斬新なドリルが次々登場するなど、衰退するどころか活気があります。

 人々の好みが多様化している現在、それに合わせるように出版各社が趣向を凝らしている面もありますが、SNS経由で話題になることで、大きなビジネスチャンスになることを「うんこ漢字ドリル」が示しています。

 個性的な学習ドリルは出版不況の中にあっても、子どもや親から支持されれば、家庭学習の世界だけではなくさまざまなジャンルの新たなビジネスにつながる力を持っています。

 うんこ漢字ドリル以降、出版社側の「多角的な事業展開ができるかもしれない」という思いや期待が多種多様な学習ドリルを生み出しているのです。

ドリルで勉強する子どものイメージ(画像:写真AC)

 書店には多種多様な学習ドリルが並んであります。親にとって、子どもの学習意欲が少しでも湧くのであれば、楽しく取り組んでくれそうな学習ドリルを選んで、渡してみるのもいいですね。

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