壊滅的なエンタメ業界を救う、ウィズコロナ時代の「イベント2.0」とは何か

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壊滅的なエンタメ業界を救う、ウィズコロナ時代の「イベント2.0」とは何か

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テリー植田

イベントプロデューサー

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コロナによって破壊されたエンターテインメント業界。その再生のきっかけとなるのが、オンライン・リアルイベント双方のミックスだと、イベントプロデューサーのテリー植田さんは話します。

イベント業界は瀕死の状態

 8月21日(金)から苗場スキー場(新潟県湯沢町)で開催予定だった「フジロックフェスティバル ’20」が中止となりました。夏フェスの象徴であるフジロックがない喪失感は、毎年通っているファンにとってあまりに大きいでしょう。

 2020年は、イベントなき夏になりそうです。緊急事態宣言が5月30日(土)に47都道府県全てで解除されたものの、その後「東京アラート」が発令され、緊張感は依然続いています(その後、12日解除予定に)。

 6月に入って飲食店は時間短縮で再開し始めましたが、ライブハウスなどのエンターテインメント施設の再開はまだ時間がかかりそうです。

盛り上がるイベントの様子(画像:写真AC)



 イベント業界にとって、ここ数か月間は瀕死(ひんし)の状態なのではないでしょうか。廃業するイベント関連会社がこれから多数出てくる可能性もありますし、5月中の営業で店を閉めてしまった有名なクラブやミュージックバーもあります。

 大阪府では、ライブハウスで新型コロナウイルス感染者が出たこともあり、ガイドラインは慎重です。

 5月28日(木)に発表された新型コロナウイルス感染症対策本部会議の感染防止ガイドラインによると、ライブハウスは、ステージと観客の間を2m以上確保するか、透明なアクリル板などで覆い、来場者は原則着席スタイル。出演者には客席に声援を呼びかけたり、ハイタッチをしたりするなどの演出を行わないように求めてます。今後、これがイベント開催の「指標」になるでしょう。

 また大阪府は、新型コロナウイルス感染者を出したライブハウスに、音楽ライブ配信業務を委託する形で支援とすると発表しています。

制限されるならやらないほうがいい

 東京都は「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を発表し、イベントのガイドラインを公表しました。

 ステップ1で50人まで、ステップ2で100人まで、ステップ3で1000人までの開催が可能となりますが、東京アラートが発令されて以降、東京での感染者も増加傾向で今後もイベント開催に関しては慎重にならざるを得ない状況です。

イベント開催制限の段階的緩和の目安(画像:政府発表資料)



 これからしばらくすると、全国的に何らかのタイミングで小規模なイベントから再開するようになるでしょう。

・入り口での検温
・消毒&手洗い
・マスク着用
・アクリル板を配置した窓口
・デジタルチケットによる受付と追跡
・換気
・ソーシャルディスタンシング
・発声や交流の禁止

など、サイン会やグッズ販売もできず、当面はビュッフェ形式の食事もできないでしょう。出演者も、距離をとったステージングで会話しないといけません。

 大きな問題となるのは、会場で2mの距離を守って席を配置した場合の集客数です。着席200人の会場なら50人程度、100人の会場なら20人程度の集客しかできない環境になってしまいます。

 収益的に無理があるのはもちろんのこと、この非日常空間でエンターテインメントが楽しめるわけがありません。こういう環境で無理に開催するのなら、オンラインイベントで新たな企画演出で開催する方が良いでしょう。

 コミュニケーションを生むための場所が息苦しく制限されるなら、コロナが収束するまでは命と健康を優先し、リアルイベントはやらないほうがいいと、僕(テリー植田。イベントプロデューサー)は最近思っています。

「新しいクリエイション」はオンラインから

 世の中ではここ数か月で、オンラインでの会議や打ち合わせ、飲み会が新しい日常になりました。もはや、オンラインで「初めまして」といったケースも珍しくありません。

 オンラインイベントも急激に増えています。山梨県のワイナリーがバーチャルツアーをオンラインで実施。ワイナリーがあらかじめワイン数本、おつまみ、お土産グッズなどを参加者の自宅に送り、オンライン上で集合し、そのワインで乾杯するという仕組みです。

オンラインのワインイベントのイメージ(画像:阪急阪神百貨店)



 ワイナリーの主人の説明を聞きながら、工場やぶどう畑などを回りながらワインを飲み、参加者たちと交流します。

 そして2回目は、現地のワイナリーでリアルツアーに参加してもらうといった格好です。国内旅行は8月から緩和される見通しですが、このスタイルはコロナが収束した後も、中長期的に実践できるのではないかと思っています。

 コロナ以降の「新しい日常」から「新しいクリエイション」がオンラインで生まれつつあります。

 オンラインのコミュニケーションは、メリットの方が多い気がします。なぜなら初対面の人であっても、テーマを前もって決めておけば、オンラインの打ち合わせで多くのアイデアが生まれるからです。

 よく知った仲間たちとだらだらとやるオンライン飲みも、新しい企画が生まれたり、過去にやらなかった企画を思い出したりして、その場で仕事をもらうことにもつながります。ただ、飲みすぎて寝落ちすることもありますが……。

 何はともあれ、リアルイベントができない現在、オンラインの飲み会や打ち合わせは、新しい企画が生まれるビッグチャンスと捉える方が賢明でしょう。

イベントとは「非日常感」を味わうこと

 日常生活がすっかり変わってしまい、かつての楽しい「非日常感」を味わう気分ではありませんし、世界中が出口の見えない閉塞(へいそく)感に包まれています。この気分が晴れない限り、本来の楽しいイベントは戻ってこないでしょう。イベントは、出演者も参加者も制作スタッフも、「ハレの場」を演出するものだからです。

 個人的な話になりますが、長く通っていたバーが廃業したり、友人の家族がコロナ感染で亡くなったりしました。

 僕がイベントプロデュースをしている東京カルチャーカルチャー(渋谷区渋谷)がある渋谷では、有名クラブや飲食店が次々に廃業し、渋谷駅前の複合商業施設「ミヤシタパーク」の開業も延期になりました。

 よく飲みに行く新宿ゴールデン街(新宿区歌舞伎町)のバーは6月から再開する店が多いのですが、まだまだ大半の店が閉まっています。やはり気分が晴れません。

開業延期を告げる複合商業施設「ミヤシタパーク」のウェブサイト(画像:三井不動産)



 世界的にいち早くハレ(非日常)の舞台を演出したのが、「コロナ対策世界一」の呼び声高いベトナムです。

 5月23日に行われたサッカーのカップ戦「ベトナムカップ2020」の開幕戦(DNHナムディンFC 対 ホアン・アイン・ザライ)の試合には1万人の観客を入れて、試合を開催しました。

 ベトナムは社会主義共和国なので国策が早く、そして徹底しているのです。ベトナムは人口960万人で感染者は327人、死者は0人。感染者は長らくいない状況が続いており、ストリートで無数ににぎわう屋台も再開しているようです。

非日常感から超日常感へアップデート

 これからはオンラインイベント、リアルイベントというイベントの「場所的」な問題だけではなく、内容に応じて両刀使いで行うようになるでしょう。

 イベントの前夜祭としてオンラインで飲み会を開催し、リアルイベント実施直後のアフターパーティーもオンラインでやるなど可能です。リアルイベントの参加者の中から、抽選で特別なオンラインイベントの参加券が当たるなどの演出も盛り上がるでしょう。

 今後は、オンラインで作られた新しい人間関係を使ってリアルイベントを一緒に作る機会も増えていくでしょう。

 オンライン飲みの出現以降、今まさに「コミュニケーション革命」が起こっているのです。

 ここ15年ほどで、ブログ、mixi、ツイッター、フェイスブック、LINE、YouTube、スカイプ、ZOOMなど、さまざまなインターネットツールでコミュニケーションが行われてきました。この体験を生かして「新しい日常」の中で「イベント2.0」のあり方を模索するときが来ているのです。

「新しい日常」の東京イメージ(画像:写真AC)



 時間はたっぷりありそうですし、模索はもう始まっています。オンラインとリアルを使った人間関係をもっと楽しめる「イベント2.0」の試みこそ、新しい日常の中でもう一度、非日常感を生み出せるのではないでしょうか。その非日常感は「新しい幸福感」「超日常感」と言い換えられるかもしれません。

地方のコミュニティーサロン化へ

 オンラインイベントの試行錯誤は続いています。

 新宿歌舞伎町ゴールデン街のママやマスター、全国のスナックのママもオンライン営業を始めています。スナック芸人・玉袋筋太郎さん(浅草キッド)は、テレビのスタジオ収録やロケ撮影ができない状況でYouTubeライブ配信をいち早く行っています。

 スナック経験のない若い女性もママとなって自慢のトークを武器に、オンラインバーをやっている人もいます。「オンライン スナック」で検索すれば驚くほどのイベントが出てきます。

 オンラインでのコミュニティーが出来上がってくると、著名人のオンラインサロンよろしく、地方の商店街やアンテナショップに替わるような有料のコミュニティーサロンができるかもしれません。

閑散とした地方の飲み屋街のイメージ(画像:写真AC)



 地方のオンラインスナックでママと出会い、2回目は旅行ついでにリアル店舗へ行ってカラオケを歌って、宿泊。また旅に出掛ける前に、オンラインイベントの特典としてご当地食材を試食してから、現地へ行くのも面白いですね。

 行ったら「やっぱり現地で食べた方が楽しいし、おいしい」と実感できるわけです。そうなったら、これまでの旅とは違った感覚になります。いいじゃないですか。

コミュニケーションの糸を絶やしてはいけない

 先日、僕はオンラインチケット販売サービス「ピーティックス」がネット配信する番組「PeaPod」(出演:藤田祐司、原田卓)と、「すごい!煮干しラーメン凪(なぎ)」の生田悟志社長がパーソナリティーを務めるネット配信番組「LA・LA・LA・LIVE」に出演させてもらいました。

 このふたつの番組は、ともに「ストリームヤード」というライブ配信ツールを使っています。オンライン会議サービスの「ZOOM」とは異なり、ツールの仕様が番組配信を前提としているため、使い方が簡単です。

 僕がイベントプロデュースをしている東京カルチャーカルチャーで早速導入し、イベント配信を開始しました。個人的にも契約して使い始めています。

 月20ドルでベーシックプラン契約をすると動画配信に加えてテロップを出したり、視聴者からのコメントを生配信中にピックアップしたりすることもでき、テレビ番組のような手法が使えます。

 またストリームヤードから、フェイスブック、YouTubeなど複数のチャンネルを使い、同時配信も行えます。僕は6月からストリームヤードを使った番組のパーソナリティーになり、各界の面白いゲストを招いて、「イベント2.0」のあり方を模索していきます。

 イベントプロデューサーとして思うこと。それは、今までの人と人とのつながり、コミュニケーションの糸を絶やしてはいけないということです。

明るい未来へ向かうイメージ(画像:写真AC)



 新しいやり方で、新しい場所で、仲間たちと、そしてこれから出会う人たちと、新しい企画をやることで、この「新しい日常」を超えられる日がやって来ます。今は、新しいカルチャーの兆しとなる糸を見つける絶好のチャンスなのです。

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