都会育ちばかりが増える都内の大学 地方の若者はもう東京を目指さないのか?

経済活動や天災などの影響で、東京圏出身の学生の割合が増している都内の大学。その偏りをただすべく、各大学は施策を打っています。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。


大学生の約24%が都内に通学

 東京一極集中が叫ばれて久しいなか、文部科学省が2016年度から、8000人を超す大規模な私立大学を対象とした政策を主導しています。目的は地方創生です。

大規模な私立大学の代名詞・早稲田大学(画像:写真AC)



 2020年度の募集定員に対して、1.10倍を超える合格者が出た場合は助成金を削減するといったもので、大学が厳守したため、受験生は狭い門を避け、志望校のランクを下げる傾向が強まりました。

 しかし都内にある大学の人気は依然として高く、2019年度の全国の大学入学生のうち、都内の大学に進学した割合は約24%にも上っています。この数値だけをみると、都内に大学生が集中していると考えてしまいますが、事実は異なります。

「ローカル化」が進む都内の大学

 総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)はバブル崩壊後の1995(平成7)年を境に、転入超過(転入者が転出者を上回る)が24年続けて拡大し、2019年は前年より8915人多い、14万8783人となっています。

多くの人たちが集まる東京(画像:写真AC)

 特に15歳から29歳までの転入者数は13万2533人と、全体の約9割に上っています。地方の若者が東京へ移住するのは進学と就職がきっかけですが、文部科学省の2019年度の「学校基本調査」で都内の大学入学者をクローズアップしてみると、東京圏出身の学生の割合が69.2%となっています。

 つまり都内の大学に進学しているのは、もともと東京圏に住んでいた受験生が多く、このことからも、都内の大学で「ローカル化」が進んでいることがわかります。

経済と天災で翻弄される地方の受験生

 コロナ禍という予期せぬ事態も重なり、都内の大学を目指す地方出身者数は今後どうなっていくのでしょうか。

 バブル崩壊後から拡大する東京圏への転入超過の数には、波があります。

 2008(平成20)年に発生したリーマンショック後の不景気から東日本大震災にかけての転入数は6万2809人まで落ち込みましたが、その後上昇。現在に至っています。

 学校基本調査のデータを基に、都内の大学で地方出身者が占める割合の推移を調べて見ると、1990年度に約39%を到達したものの、バブル崩壊から立ち直り始める1994年度に37.2%、リーマンショック前の2007年度は約36%と緩やかに下降しています。

都内の大学で地方出身者が占める割合(画像:学校基本調査のデータを基にULM編集部で作成)



 しかし東日本大震災が発生した2011年以降は、熊本地震(2016年)や西日本豪雨(2018年)など、地方で甚大な災害が発生したことも影響し、割合は一気に減少。2019年度には30.7%まで落ち込みました。

 過去の事例を見ても、東京への転入の背景には経済や天災の影響があります。そのことを踏まえると、今回のコロナ禍で都会を目指す地方の受験生は減り、地元志向に拍車がかかると考えられます。

 都会でひとり暮らしをするには、生活費が必要です。マスメディアで学生の苦境が取り上げられる一方、地元に帰りたいが周囲の目を気にして実家に戻れない学生も多くいます。

 東京で学生時代を過ごすより、地元の大学に進学した方が良いのではないかーーそう考える保護者や受験生が増えるのは当然と言えるでしょう。

有名大学ほど地方出身者をサポート

 それでは、東京圏の受験生が都内の大学に進学し、地方の受験生が地元の大学に進学すれば、都内の私立大学は定員厳格化に神経をとがらせずに済むのでしょうか。

 実は、早稲田大学(新宿区戸塚町)や慶応義塾大学(港区三田)のような有名私立大学ほど、地方出身者の学生に対するサポート体制を敷いています。東京圏出身の学生ばかりを集めると、バックボーンが似た学生しか集まらず、多様性を欠く恐れがあるためです。

 慶応義塾大学は法学部のFIT入試(慶応版AO入試)のB式で地域枠を設け、地方の優秀な生徒の獲得を狙っています。

 さらに付属高校の慶応義塾湘南藤沢高等部(神奈川県藤沢市)では、東京圏以外の自治体に4年以上住んでいる生徒に向けた全国枠(定員20人)を作るなど、その本気度をうかがわせています。

慶応義塾大学の外観(画像:(C)Google)



 また東京圏以外の高校出身者かつ、経済的な問題を抱えているが同大を第1志望としている受験生に対して、返済義務のない「学問のすゝめ奨学金」の制度を作るなど、地方出身の学生への支援を打ち出しています。

 早稲田大学も基幹理工学部の新思考入試で、北九州地域連携型推薦入試を実施。北九州地域の高校を対象にした指定校推薦に取り組んでいます。また「学問のすゝめ奨学金」同様に、「めざせ! 都の西北奨学金」制度の利用を促しています。

 両奨学金で共通するのは、出願前に申請が提出できるという点です。経済的な事情で進学を断念する地方の優秀な生徒を獲得しようと、大学が積極的なサポートを行っています。

地方の優秀な学生が優遇される時代

 前述のように、都内の大学では現在、東京圏出身の学生であふれた「ローカル化」が進行しています。そのため遅かれ早かれ、大学はさまざまな手を使って地方の優秀な学生を獲得しようと本腰を入れ始めます。

 東京大学(文京区本郷)は、地方の女子学生の受験促進や入学後のサポートを行う「さつき会奨学金」を2013年度から立ち上げ、明治大学(千代田区神田駿河台)は卒業生有志が2015年度、地方出身の学生を対象にした「つなげ!紫紺の“たすき”」を立ち上げました。

明治大学の外観(画像:(C)Google)



 こうした取り組みが他大学に広がることで、地方の優秀な学生が優遇される時代が到来するのか、今後も注目されます。


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