創立者は帝国ホテルを作った実業家 日本初の新学部も設置した「東京経済大学」とはどのような大学なのか
希代の実業家だった創立者 明治維新以降、西洋文化を積極的に取り入れて近代国家へと駆け上がっていった日本。明治期には諸外国との外交や外国人の滞在場所を確保するため、鹿鳴館(ろくめいかん)や2020年に開業130周年目を迎えた帝国ホテル(千代田区内幸町)が建設されました。 これら大事業に携わったのが東京経済大学(国分寺市南町)の創立者である実業家・大倉喜八郎です。 国分寺市南町にある東京経済大学(画像:(C)Google) 1代で財を成して大倉財閥を作り上げた喜八郎は、友人の渋沢栄一を含む当時の名だたる実業家が発起人を務めた帝国劇場の建設も先頭に立って音頭をとりました。日本初となる西洋式演劇場は、ヨーロッパのオペラ文化等を浸透させる大きな役割を担いました。 ほかにも数多くの有名企業の設立に関わり、明治期から対象にかけてすさまじい勢いで近代化していく日本を支えた喜八郎は、希代の実業家と言えるでしょう。 私費で欧米視察を敢行 喜八郎は時代の空気を読み取る才能にたけており、1872(明治5)年には私費でロンドンやニューヨークなどの欧米視察を敢行。この年の日本は11月に太陰暦を廃止し太陽暦を導入することが決定するなど、近代国家設立の黎明(れいめい)期を歩んでいました。 彼がそのビジネスによって莫大(ばくだい)な財を成したのも、混迷した時期に求められる商いや世界での出来事を自らの目で見て行動し、道を開いてきたからです。 1996年発表の『大倉喜八郎の豪快なる生涯』(画像:草思社) 喜八郎の亡き後に大倉財閥を継いだ息子の喜七郎はホテルオークラ(現・ホテルオークラ東京)を設立。伝統と格式高きホテル御三家(帝国ホテル、ホテルオークラ東京、ニューオータニ)のうち、ふたつを大倉親子が生みだしたことは特筆すべきことでしょう。 日本の商業を支える人材育成の学校として設立日本の商業を支える人材育成の学校として設立 1年にわたる欧米視察を行った大倉は帰国後に大倉商会(現・大成建設)を設立し、日本企業初の海外支店であるロンドン支店を設置しました。実業家として早い段階から欧米諸国を知り、類まれなる才能を発揮した喜八郎は、優秀な商業人を育てることが日本の国力の底上げと商業発展に欠かせないと考えたのです。 そこで私費を投じ、外国人と対等に渡り合える有能な日本人の育成を目指して商業学校設立。それが東京経済大学の起源となる大倉商業学校です。 商業学校は赤坂葵町(港区赤坂1丁目、虎ノ門ツインビルディング敷地内)に1900(明治33)年開校。しかし1923(大正12)年に発生した関東大震災や戦火で校舎が焼失するなど、困難の連続でした。そして1946(昭和21)年、開校の地である赤坂から国分寺市へと移転します。 1909(明治42)年測図の赤坂葵町付近の地図。大倉邸の記載がある(画像:時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ3」〔(C)谷 謙二〕) 戦後は連合国軍総司令部(GHQ)による財閥解体で大倉家も学校経営から離れる状況に見舞われましたが、1949年に新制大学として認可され、東京経済大学として新たな歴史を踏み出しました。 2020年に開校120年を迎えた東京経済大学ですが、現在は ●経済学部 ・経済学科 ・国際経済学科 ●経営学部 ・経営学科 ・流通マーケティング学科 ●コミュニケーション学部 ・コミュニケーション学科 ●現代法学部 ・現代法学科 ●キャリアデザインプログラム(1年次に自分の適性を見極め2年次に学部を選択し所属) の4学部6学科1プログラムに6689人が学んでいます。 日本初のコミュニケーション学部を設置日本初のコミュニケーション学部を設置 東京経済大学は設立当初から実学(実用的な学問)を重視し、その考えを「考え抜く実学」と定義しています。 学校が創立された明治から大正、昭和、平成そして令和へと時代が進むなかで実学の捉え方も変化しています。個々の専門知識はもちろんのこと、社会に出た際に重要となるのが、人と人とのコミュニケーション能力です。そのような時代背景から、東京経済大学は1995(平成7)年度に日本初となるコミュニケーション学部を設置しました。 コミュニケーション学部は教育目標として、 1.メディアとコミュニケーションに関する理解の深化 2.メディアリテラシーの養成 3.コミュニケーションスキルの向上 4.コミュニケーション環境デザイン能力の涵養(かんよう。育成) 5.共感能力の涵養 の五つを掲げています。 大倉喜八郎が設立した帝国ホテル(画像:(C)Google) 2020年度は、SNSに代表されるようなインターネット上でのコミュニケーションや、テレビや新聞といったマスメディアに関して学ぶ「メディアコース」、企業の広報や広告担当者に必要なスキル等を学ぶ「企業コース」、異文化コミュニケーションの手段として英語から映像文化や観光文化などを学ぶ国際的な「グローバルコース」の3コースを展開しています。 インターネットが広く浸透し、距離に関係なく他者とコミュニケーションできる現代社会において、相手に情報を的確に伝えられる技術は実践的かつ求められるスキルとなっています。東京経済大学が時代の先を読んで新設したコミュニケーション学部は、目まぐるしく変化する現代社会にマッチした学問と言えるでしょう。 1年次からデータ収集やリポート作成1年次からデータ収集やリポート作成 東京経済大学は創立から変わらず実学をモットーにしていますが、単に社会で働く人材の輩出を目指しているわけではありません。 大学ではゼミを重視し、1年次からデータ収集やリポート作成そしてプレゼンテーションの基礎を学び、社会に出た後に武器となる土台を作っていきます。そして、今後はビックデータ分析から新たな方向性を見いだすデータサイエンス教育に力を注ぐ予定です。 東京経済大学のウェブサイト(画像:東京経済大学) また「進一層(しんいっそう。困難に出合ってもひるまずに、なお一層前に進むこと)」「責任と信用」を理念に掲げ、時代の流れを柔軟に取り入れるその姿勢は、社会に貢献できる人材育成を使命しています。
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