荒川区内だが「田端」を名乗る建物
地名と実態が合っていない――。東京ではそのような建物をよく見かけます。特に多いケースが、最寄り駅でブランドイメージが変わるマンションや雑居ビルです。
最寄り駅が尾久駅(高崎線)で、建物は荒川区内にあるにもかかわらず、「田端(北区)」の名前を付けているなど、ネタは尽きません。
やはりローカル度の高さで知られる尾久駅よりも、山手線の田端駅のほうがイメージがよいということでしょうか。住みたい人が多い地域の場合、こうした現象はより多くなります。人気の地名がどこまでも広がっている、というわけです。
千葉県にあふれる「東京」施設
事情を知らない人は、こういったことで「だまされた~」となるわけですが、特に批判される筋合いもないような気がします。
なぜなら、もっと大々的に……東京ではないのに東京を名乗っている施設が山のようにあるからです。その代表格といえば、千葉県浦安市にある東京ディズニーランド。しかし東京都と隣接している場所にありますから、ギリギリ許容できる範囲できます。
それ以外にも千葉県は、「東京」っぽい名前が付いた施設であふれています。
例えば、船橋市の「ららぽーと」の正式名称は「ららぽーとTOKYO-BAY」です。しかも東京ではなく、TOKYO-BAY。訳せば東京湾ですから、立地の点から見てもあながち間違いではないのかもしれません。
千葉県が東京の名前を使いたがる理由
また袖ケ浦市にある「東京ドイツ村」は、「どこが東京?」とツッコまれることが多い施設です。名前の由来は、なんと東京湾アクアラインが1997(平成9)年に開通し、東京から行きやすくなったからだと言います。
千葉県が東京の名前を使いたがる理由――。その背景は、自分たちを地味な千葉県ではなく、「東京の一部だと思いたい」という願望があるのではないかと言われてきました。
ただ、筆者(業平橋渉。都内探検家)はこれが事実なのかどうかもわかりませんし、たとえ地味さが欠点だとしても、それを補ってなお余りある魅力がある県であると感じています。
ただ詳細は避けますが、英語圏の人に「チバ」という名前を使うのは少々危なっかしいということを、筆者は最近知りました。確かに千葉県は成田空港(成田市)があり、外国人が多くやって来ます。そのため誤解を生むよりも、「東京」としたほうが安全なのかもしれません。
東京に隣接する川口市の奇妙な一体
さて東京を名乗る施設ですが、埼玉県にもそのような施設が集中しているエリアがあるのをご存じでしょうか。
それは、埼玉県川口市。詳しくは、市最南部にある北区・足立区と接するエリアです。ちょうど荒川から隅田川が分流する岩淵水門(北区志茂)と、荒川に芝川が流れ込む芝川水門(埼玉県川口市)のあたりといえばよいでしょうか。
この川の川口市側は、工場と倉庫が立ち並ぶ地域です。住所は埼玉県川口市ですが、並んでいる企業の看板が奇妙なのです。
「川口工場」「川口営業所」という看板に交じって、「東京工場」「東京センター」という看板がちらほら現れるのです。
「目の前は東京都なんだから、施設の名前は東京でいいじゃないか」
「いやいや、正直に川口としましょう」
施設を造るときに、各社でこのような議論があったのではないかと容易に想像できます。
地形で俯瞰(ふかん)してみると川によって隔てられているため、川口市の一部ということは間違いありません。それでも、東京を名乗ったほうがいいという何らかの「イメージ戦略」があったのでしょうか。
「東京」は増殖するか
かつては工場群などが多かった川口市ですが、近年は東京のベッドタウンに激変しています。住人も都内へ通勤する人が多く、ほぼ東京の一部となっていることを考えると、川口市の施設が東京を名乗っても、なんら違和感はありません。
都内から移動するだけで小旅行気分が味わえる成田空港が、2004(平成16)年まで新東京国際空港を名乗っていたことに比べたら、まったく問題はないでしょう。
埼京線や京浜東北線沿線も、ここ数年で再開発が進んでいます。かつての千葉県のように、埼玉県にも次第に「東京」が増殖していくのでしょう。
地名と実態の乖離(かいり)、皆さんはどうお考えですか?