「一寸先は光」 コロナ禍の苦悩に寄り添うお坊さんのオンライン相談が教えてくれたものとは

  • ライフ
「一寸先は光」 コロナ禍の苦悩に寄り添うお坊さんのオンライン相談が教えてくれたものとは

\ この記事を書いた人 /

アーバンライフ東京編集部のプロフィール画像

アーバンライフ東京編集部

ライターページへ

新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅にとどまることを余儀なくされている私たち。気づかぬうちに、少しずつ不安やストレスをため込んでいるかもしれません。そんなときあなたなら、誰に話を聞いてもらいますか?

外出自粛……相談できる人がいないあなたに

 新型コロナウイルスの感染拡大により、東京はもちろん全国で不要不急の外出を控えるよう求められている2020年4月現在。ひとり暮らしで日々誰とも会えない人、地方の実家に帰りたくても帰れない人、同居する家族との折り合いが悪く家で息苦しい思いをしている人も、少なからずいるかもしれません。

 人と人との接点を少しでも作ろうと、このコロナ禍にさまざまなオンラインサービスが生み出されました。「オンライン飲み会」をはじめ、「オンライン料理教室」や「オンラインヨガ」など、すでに経験したという人も少しずつ増えているのではないでしょうか。

 そうしたオンライン・コミュニケーションのひとつとして誕生したのが、お寺のお坊さんに日々のちょっとした愚痴や悩みを聴いてもらえる「お寺で相談の窓口」です。

テレビ会議システム「Zoom」上に映る青江さん。初対面の相手にも笑顔で話しかけ、緊張をほぐしてくれる(2020年4月17日、遠藤綾乃撮影)



 普段、お墓参りや観光の立ち寄り先としてしか行く機会がないという人も多いかもしれないお寺。そのお寺のお坊さんにパソコン越しに悩みを打ち明けるオンライン相談。一体どういった人が利用しているのでしょうか。

「ささいな愚痴」の奥に横たわる、深い苦悩

 相談の申し込みをしたところ、創案者のひとり、緑泉寺(りょくせんじ、台東区西浅草)住職の青江覚峰(かくほう)さんが対応してくれることになりました。使用したのは、企業のオンライン会議や友人同士の飲み会などでも活用されるテレビ会議システム「Zoom(ズーム)」です。

オンライン相談の長所のひとつは、お寺まで行く元気がないとしても自宅で部屋着のまま話を聞いてもらえること(2020年4月17日、遠藤綾乃撮影)



 青江さんによると、相談をしてくる人は性別も年代も在住地もさまざま。

「私たち相談を受ける側も、細かなプロフィルは無理に聞かないようにしています。できるだけリラックスしてお話しいただくには、その方がいいと思いますから。相談の内容ですか、そうですね、深刻なお悩みを思い切って打ち明けてくれる人もいますし、日々の何気ない迷いを話してくれる人もいます」

 20代前後の若い女性が、自分の恋愛の悩みを切々と語っていくこともあるそうです。

「話の内容がたとえ日々の愚痴であったとしても、その奥にはさらに深い苦悩が横たわっていることはしばしばあります。それをきちんと吐き出してもらうために、最初は相手の話をさえぎらず、ただじっくりと聞くことに努めています」

「こんなにつらいとは思いもしなかった」

 ある日、相談の依頼を寄せてきたのは30代くらいの女性だったといいます。

 学習塾の講師としてキャリアを重ね、偏差値の高い進学校へ何人も合格させてきたという自負もあります。目の前の課題や問題を論理的思考で解決することが得意な彼女にとって、しかし今回の新型コロナウイルス禍は、今まで経験したことのない混乱をもたらすものでした。

「塾の講座はどうなるのか、授業はいつ再開するのか、わが子の受験はどうなってしまうのか……。毎日のように保護者の方から相談が寄せられます。でも私個人の力ではどうにもなりませんし、政府の発表をそのまま伝えることしかできません。仕方のないことだと分かっていても、『何もできない』というのがこんなに精神的につらいことだとは、思いもしませんでした」――

自分ひとりで悩みを抱え込むつらさを「少しでも和らげられたら」と青江さんは話す(画像:写真AC)



 ひとつずつ絞り出される彼女の言葉を、青江さんはただ静かに聴き、うなずいたと言います。

 話せるだけ話しもらい、本人が少しずつ自分の思いを整理できたら、今度は青江さんが語りかける番。

「新型コロナウイルスに関連ある悩みは特にそうですが、自分ではコントロールできない大きな力に翻弄(ほんろう)されるとき、人は戸惑い、苦しみます。『一寸先は闇』という言葉がありますが、世界中の人が闇の中にいる昨今、同時に『一寸先は光』かもしれないということを、少しでも心に留め置いてもらえたらと思いながら話をしています」(青江さん)

人間のたくましさも浮き彫りに

 現在、青江さんのほか約20人のお坊さんがオンライン相談に対応しているとのことで、時間は1回あたりおよそ30分程度。それ以上長くなると相談者にとって逆に負担が大きくなるので、日時をあらためて再び相談してもらうよう、お願いしているそうです。

 相談終了後に、任意で2000~1万円の「お気持ち代」を受け付けています。

 くしくも新型コロナ禍に発達したオンライン・コミュニケーションは、「何とか人とつながりたいという人間の根源的な願いや、人と話をすることで前向きになれるという人間のたくましさを示すことになったのではないでしょうか」と青江さん。

人に話を聴いてもらえると、少し心が楽になることもある(画像:写真AC)



 新型コロナの収束はいまだめどが立ちませんが、収束した後も、お寺に行きたいけど体が弱くて行かれない人などのためにオンライン相談を継続していきたいと話しています。

関連記事