文部科学省が「学力テスト」延期に踏み切ったふたつの事情
中止や規模縮小は過去2回あった 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、現在、一斉休校の措置が取られています。そんななか萩生田光一文部科学大臣が2020年3月17日(火)、小学6年生と中学3年生を対象に実施している全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の延期を明らかにしました。 一斉休校と全国学力テスト延期のイメージ(画像:写真AC) 延期の理由は、各学校の準備が一斉休校で進んでいないというもの。学校再開などに関する新たな報告は3月19日(金)に行われますが、今回の一報から、新年度の始まりが繰り下げられる可能性や、一斉休校の課題も見えてきます。 ウイルス感染による延期は初めて 現在の形となる全国学力テストが始まったのは、2007(平成19)年度からです。そしてテスト自体の中止と規模縮小は、これまでに2回ありました。 2020年3月17日に行われた萩生田文部科学大臣の会見(画像:文部科学省) 1回目は、東日本大震災があった2011年です。4月に予定されていた学力テストを7月末に延期することが同年3月18日、発表されました。しかし被災地の児童数の把握や転居が流動的だったり、教育現場が混乱していたりしたことから、5月下旬に2011年度の学力テストの実施を見送る通知を全国の自治体の教育委員会に送付しました。 2回目は、熊本地震があった2016年です。全国学力テスト実施の直前である4月14日と16日未明に連続して大きな地震が起きたこともあり、被災地である熊本、宮崎と大分の一部地域は中止となりました。 これまで中止や規模縮小となったのは、いずれの場合も大規模な地震によるものでした。今回のようにウイルス感染による延期は初めてのことです。 公立の小中高校への対応については政府から今後発表があると考えられます。 統一日の設定が変更対応を難しくしている統一日の設定が変更対応を難しくしている それではなぜ、文部科学省は全国学力テストの延期を決定したのでしょうか。 一斉休校と全国学力テスト延期のイメージ(画像:写真AC) 4月中の実施を見送ったのには、ふたつの理由が考えられます。 ひとつ目は、全国学力テストが毎年決められた日に行われることが関係しています。2020年は4月16日(木)に予定されていましたが、地域によって新型コロナウイルスの感染者数に差があり、開始の足並みがそろわない可能性があるのです。 自治体ごとに別の日に行うことはテスト内容の漏えいリスクが伴うため、文部科学省としては避けたいことは間違いありません。 学校は1年間の行事日程を組み、そこに各学年の社会科見学や修学旅行などの予定を組み込んでいくため、簡単に日程を変更することができません。 今回の延期により、学力テストに参加する小中学校が統一したテスト日を改めて設けることは、不可能に近い状況といえます。 一斉休校で未習単元の存在も 見送ったふたつ目の理由は、未習の単元(授業で計画された学習活動のひとまとまり)の存在です。 一斉休校と全国学力テスト延期のイメージ(画像:写真AC) 小学6年生と中学3年生に対して行われる全国学力テストですが、その範囲は前学年までの履修単元となっています。 つまり、全国の公立学校が3月2日(月)から一斉休校になったため、前学年の3月に習う予定だった単元を勉強していない状態でテストを受けることになります。 こうしたハンディを考慮すると、過去のデータとそのまま比較することが理論上できません。そして、未習の単元への対応も子どもや家庭によって差が出てしまうのです。 未習単元を勉強したかどうか把握できない未習単元を勉強したかどうか把握できない 塾や通信教材を使って学校外で学べる子どもがいる一方、教科書を使って自分の力で勉強しなければならない子どももいます。子どもがひとりで教科書を読みながら新しい単元を理解することは難しく、一斉休校によって理解度の差が生じてしまうのは避けられないでしょう。 一斉休校と全国学力テスト延期のイメージ(画像:写真AC) 3月分として学ぶはずだった学習内容が個人任せになっており、学力テストの条件である「前学年までの指導事項」から逸脱している状況です。このため、当初予定していた4月16日の延期決定を下したのは致し方ないでしょう。 現在の公立学校は休校になった場合、授業の代わりとなるオンライン授業を提供することができません。今回の一斉休校は、子どもが自分で勉強するという前提で行っています。しかし、子どもが未習単元を確実に勉強したのか把握することは難しいのです。 子どもひとりひとりに平等な学びを 台風や地震など、天災による休校措置は今後も起きると考えられるため、このような状況に対応すべく、子どもひとりひとりに平等な学びを提供することが今後ますます求められます。 一斉休校と全国学力テスト延期のイメージ(画像:写真AC) 単元が抜けていると、次学年で新しい単元を学ぶときに理解が深まらないデメリットもあります。学校が臨時休校となった場合でも、通塾や通信教材の利用の有無に左右されない仕組みを作っていくことが、子どものために大切なのです。
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