90年代の若者を解放した、「萌え」文化の立役者『サクラ大戦』を振り返る

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90年代の若者を解放した、「萌え」文化の立役者『サクラ大戦』を振り返る

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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1990年代に一世を風靡したゲーム『サクラ大戦』。その歴史と「萌え」文化の兆しについて、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

家庭用ゲーム機の覇権を巡って

 1990年代半ば、家庭用ゲーム機の覇権を巡ってハードメーカーが激烈な争いを繰り広げていました。

 その戦いに最後まで勝ち残ったのはプレイステーション、セガサターン、ニンテンドー64の三機種。三つどもえとなった争いで勝者となったのは、プレイステーションでした。もはやプレイステーションの勝利は揺るぎないーー。多くの人がそう感じたのは1997(平成9)年8月頃でした。

 同年1月、プレイステーションから切り札となるゲームが発売されます。『ファイナルファンタジーVII』です。

『ドラゴンクエスト』シリーズと並ぶ、ファミリーコンピュータ時代から、発売されれば必ず売れるビッグタイトル。その発売元であるスクウェア(現スクウェア・エニックス)が任天堂からソニーにハードを乗り換えた時点で、ソニーの勝率は高まったのです。

 鳴り物入りで登場した『ファイナルファンタジーVII』は驚異的な売り上げを誇りました。1996年12月から1997年6月までの家庭用ゲームソフト売り上げ上位5本は、次のとおりです(オリコン調べ)。

1位:ファイナルファンタジーVII(315万本)
2位:スーパーファミコン ドラゴンクエストIII そして伝説へ…(93万本)
3位:マリオカート64(85万本)
4位:レイジレーサー(84万本)
5位:スーパードンキーコング3(67万本)

 これを見れば『ファイナルファンタジーVII』が、どれだけの超人気タイトルだったかが一目瞭然です。

低迷するセガサターンに差し込んだ光

 先日、『ファイナルファンタジーVII リメイク』の体験版が話題になりました。世の中の大抵の人たちとこの話題で盛り上がれるのですから、今考えても驚異的なタイトルだったことは間違いありません。

『ファイナルファンタジーVII』によって、プレイステーションがゲーム機本体の売り上げでも圧勝します。1997年5月の販売シェアは、次のとおりです。

・プレイステーション:57.8%
・ゲームボーイ:28.5%
・セガサターン:5.8%
・ニンテンドー64:7.9%

 発売当初は『バーチャファイター』の人気もあり、セガサターンは次世代ゲーム機戦争の勝者になるかと予想されていました。しかしその勢いは、一気に衰退してしまったのです。

 水をあけられたセガサターンは、まだ希望がありました。低迷するセガサターンの中で1996年9月の発売以来80万本以上を売り上げるヒット作があったのです。それが『サクラ大戦』です。

セガサターンのゲームソフトとして、1996年9月に発売された『サクラ大戦』(画像:セガ)



『サクラ大戦』シリーズは現在でも新たなムーブメントを巻き起こしており、2019年12月にはプレイステーション4用ソフト『新サクラ大戦』が発売しています。

 2020年4月からはテレビアニメ『新サクラ大戦 the Animation』も始まり、話題性は群を抜いています。当時、ファンの間では非売品の販促用テレカが5万円、マグカップが28万円で取引されるなど、異常な人気を起こしていました。

一般誌が取り上げたほどの熱気

『サクラ大戦』のムーブメントは一般誌でも取り上げられるようになります。

2020年4月から始まったテレビアニメ『新サクラ大戦 the Animation』(画像:セガ)



 当時は、このようなタイプのゲームが広く知られていなかった時代です。『サクラ大戦』を取り上げた雑誌は、説明になかなか苦しんでいる感があります。次にいくつか引用します。

「大正時代を舞台にした戦争アドベンチャーだが、登場する美少女キャラクターとの疑似恋愛も楽しめる」(『日経エンタテインメント』1997年8月号)

「6人の女の子からなる秘密部隊「帝国華撃団・花組」を指揮して悪の組織と戦い、帝都・東京を守るというストーリーのアドベンチャーゲーム」(『FRIDAY』1996年11月22日号)

「大正時代。架空の都市・帝都。そこに誕生したのが、6人の少女を中心とする秘密部隊『帝国華撃団』だ。目的は、ナゾの結社『黒之巣会』の暴走を防ぐこと。ふだんは『帝国歌劇団』の一員として歌い踊る彼女たちだが、事件が起こると、巨大ロボットに乗り込んで悪と戦う--。ロボットものみたいな、『セーラームーン』的美少女戦士ものみたいな……、ゲームというより雰囲気はアニメ」(『読売新聞』1996年10月20日付東京朝刊)

 この記事のなかで、なぜか的確な紹介をしているのは『読売新聞』です。

 というのも、続く文章では「シミュレーションRPG風の戦闘場面など、ゲーム的な突っ込みはやや浅いが、全体にバランスが良くて飽きないで遊べる」「ただちょっと『オタクっぽい』から、そういう世界に興味のない人には少々キツイかもしれない」とまで書いているのですから。

マニアを超えてヒット

 現在は、ジャニーズアイドルまでもがアニメやゲームのヒロインへの恋を隠さず、「嫁」という言葉を使う時代です。

 しかし当時の多くの人たちは、ゲームの中のヒロインと疑似恋愛をすることにまだためらいがありました。そう、まだ「萌える」ことに慣れていなかったのです。

2020年4月から始まったテレビアニメ『新サクラ大戦 the Animation』の様子(画像:セガ)



 しかし『サクラ大戦』は、このような状況を明らかに変えました。

「今だ世間では「ギャルゲー = 一部のファンのための色モノゲーム」的なニュアンスが残っている。だが、マニアを超えてヒットした『サクラ大戦』は、そんなギャルゲーのイメージを払拭したと言えそうだ」(前述『日経エンタテインメント』)

 物語の舞台となる架空の大正時代の東京。そして、メインのヒロインのひとりである真宮寺さくらの大正女学生そのままのはかま姿に、ひそやかに「ロマンと萌え」を感じる人は尽きませんでした。

 そして当初は20万本程度と見込まれていた売り上げは80万本を突破し、一般誌にも取り上げられるようになったことで、そのような恥ずかしがりな人たちは意識を変えたのです。

「ヒロインへの愛を隠す必要はない」

 筆者(昼間たかし。ルポライター)の中で「ここまでやっていいんだ」と思ったのは、現在は関西地方で公務員として働いている大学時代の同級生・K君が、真宮寺さくらのイラストを新年の年賀状いっぱいに印刷して送ってきたときです。

年賀状のイメージ(画像:写真AC)

 この当時既にブームになっていた『新世紀エヴァンゲリオン』を通じて、「綾波派かアスカ派か」の論争は夜を徹して行われていました。しかし、どんなアニメやゲームのヒロインへの愛を隠す必要はないのだと広く知らしめたのは『サクラ大戦』だったのです。

 インターネットも普及していない時代に、そうした愛を語り合える仲間に出会うのは地方で困難なことでした。

 まだ見ぬ語り合える仲間と出会うために進学や就職を機に都会へ、東京へと旅立つことが当時の地方に住む若者たちの夢だったのです。

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