小山田問題で批判された「90年代サブカルチャー」 実は『孤独のグルメ』人気の立役者だった

小山田圭吾さんのいじめ問題で一躍注目を浴びた90年代サブカル。その大まかな流れと現在への影響について、ルポライターの昼間たかしさんが解説します。


90年代サブカルを象徴「悪趣味」「鬼畜系」

 東京五輪の開催直前、ミュージシャンの小山田圭吾さんが自身のいじめ問題で世間から大きな批判を浴びました。その結果、小山田さんは開会式の楽曲担当を降板することになりました。

 この件で同じく注目を集めたのが、いじめ問題の発端となった雑誌記事の背景にあった1990年代のサブカルチャー(以下、90年代サブカル)の存在です。

 90年代サブカルを象徴する言葉としてよく使われるのが、

・悪趣味
・鬼畜系

です。

 90年代に上京したり、東京で青春時代を過ごしたりした人は、これらの言葉や、そのえたいの知れない独自文化が記憶の片隅にあるのではないでしょうか。

1997年に発売された漫画『孤独のグルメ』オリジナル版(画像:扶桑社)



 現在、ごく一部のユーチューバーが「ウケるなら何をやっても構わない」と迷惑行為を繰り返していますが、当時は社会全体にそのような空気が漂っている部分もありました。忌み嫌われるものが好まれたり、一般社会で受け入れがたい行為が賛美されたりする――などです。

 とりわけ小山田さんの問題以降、インターネットで「90年代サブカル」と検索すると、多くの批判的な文章が検索上位に表示されるようになっています。

 90年代サブカルを批判的に分析する書籍は、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のメンバー・ロマン優光さんの『90年代サブカルの呪い』(コアマガジン、2019年)や、精神科医・香山リカさんの『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー 根本敬論』(太田出版、2019年)など、数多くあります。

90年代が残した暗黒面

 90年代に好まれた「忌み嫌われるもの」について、少し紹介していきましょう。

 早川書房が1994(平成6)年に邦訳版を出版したロバート・K・レスラーの『FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記』は100万部を超えるベストセラーになりました。その翌年に創刊された『週刊マーダー・ケースブック』(省心書房)も大きな注目を浴びました。

ロバート・K. レスラー『FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記』(画像:早川書房)



 このほかにも、90年代の若者の一部はドラッグや自殺、ゴミあさりなど、モラルが問われるどころか犯罪まがいの情報を娯楽として消費していました。今では90年代の暗黒面だと指摘されています。

 こうした価値観が醸成されるなかで、一般社会に背を向けるようなふるまいや発言をする人が人気を得るようになりました。小山田さんへのバッシングは、そんな価値観を許容した当時の文化をもはや肯定できないといった論調がベースになっています。

 ただ筆者の記憶では、小山田さんの記事は掲載当時から批判されていましたし、周囲にもいじめ賛美を面白がったり、皆で楽しんだりなどの風潮は存在しませんでした。

 このような文化は、あくまで限られた仲間内だけで共有され、隠れてコソコソと楽しむものでした。さまざまな文化が交錯する東京でも、これらの存在感は多少大きかったものの、あくまでアンダーグラウンドなものにすぎませんでした。

 小山田さんが名を連ねていた渋谷系の音楽シーンも、悪趣味や鬼畜系を愛好する人はむしろ「オシャレなメジャーなもの」として距離を置いていました。

『孤独のグルメ』の背後にも90年代サブカル

 ただ、現在の多様な文化の一部が、90年代サブカルに源流を持つことは間違いないでしょう。そのひとつの象徴が月刊誌『GON!』(ミリオン出版)です。

『GON!』1997年2月号(画像:大洋図書)



『GON!』は小さい級数の活字を使ってページを埋め尽くした雑誌でしたが、そのテーマは多種多様でした。廃墟探訪のページがあるかと思えば、「まずいジュース」という触れ込みで、コンビニドリンクを総当たりでレビューするページもありました。ただ途中で読者に飽きられると思ったのか、「もっともおいしいコーラ」をテーマにしている号もありました。

 そのほかにも「サブカルの殿堂」として知られる中野ブロードウェイ(中野区中野)の全店舗解説や、駄菓子「よっちゃんいか」の取材など、最近の個人の趣味ブログやカルチャー系ニュースサイトの街ネタの源流は、この時点でほぼ網羅されていました。

 どれも今では世間、特にインターネット上で人気が出そうなネタですが、当時は人には言えない、少々気持ち悪がられる趣味でした。

 今ドラマの新シーズンが好評な『孤独のグルメ』も、もとは90年代サブカル的な評価から浮上してきた作品です。同作が当初連載されていた月刊誌『PANjA』(扶桑社)は、決して売れ行きのよかった雑誌ではなく、単行本も日の目を見ませんでした。それが90年代末になり、評価されるようになったのです。

 当初は、中年男性がひとりでご飯を食べて「失敗した~」「食べ過ぎた~」という揚げ句にアームロック……と、ある意味奇妙な人物像が斜め目線から評価されていました。それが今ではドラマになり、ひとりでご飯を食べることの美学を描いた作品として捉えられています。人々の価値観は絶えず変わるものです。

 歴史を振り返ってもわかるように、「100%よい時代」「100%悪い時代」は一度もありません。江戸時代ですら、庶民にとってよい時代だった説と暗黒時代だった説はいまだに真っ向から対立しています。

 90年代サブカルについても、全否定が正しいという価値観は考え直す必要があります。ノストラダムスの大予言がまことしやかにささやかれたり、バブル崩壊の余波で終末感の漂っていたりする東京には、楽しいことも多々あったのです。


【画像】2019年に出版された『90年代サブカルの呪い』

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