昭和の香り漂う「あんバタートースト」が令和の現在人気のワケ

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昭和の香り漂う「あんバタートースト」が令和の現在人気のワケ

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川口葉子

カフェライター

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名古屋の喫茶店にルーツを持つ「あんバタートースト」が現在、人気を博しています。カフェライターの川口葉子さんが解説します。

現在ではすっかり定番に

 小さなコーヒーショップのメニューに「あんバタートースト」が定着し、人気を博しています。4年ほど前から東京をはじめ全国のコーヒーショップで見かけるようになり、現在ではすっかり定番的存在となりました。

昭和テイストあふれる「あんバタートースト」(画像:川口葉子)



 その魅力は、粒あんの甘みとバターの塩気が交錯するおいしさ。お店にとっては提供のオペレーションが比較的容易という利点もありますが、かつて昭和の喫茶店の片隅にあったメニューはなぜいま再び脚光を浴びているのでしょうか。

ルーツは名古屋の喫茶店

 あんバタートーストのルーツは、名古屋の喫茶店「満つ葉」が1921(大正10)年に始めたとされる「小倉トースト」で、昭和30年代には名古屋の喫茶店を中心に東海エリアに浸透していました。

粒あんの甘みとバターの塩気が魅力の「あんバタートースト」(画像:川口葉子)

 この伝統的な喫茶店フードが近年新たなファンをつかんだきっかけのひとつは、名古屋発のコーヒーチェーン「コメダ珈琲」の全国展開です。

 2016~2017年はコメダ珈琲が全国に出店攻勢をかけ、開店ラッシュとなった年。

 2020年現在、店舗数はスターバックスコーヒー、ドトールコーヒーショップに次ぐ全国第3位となっており、小倉トーストもコメダ珈琲とともに再び各地へ広がったと思われます。

令和のあんバタートーストの特長は?

 ただし、令和のコーヒーショップのあんバタートーストは、昔ながらの小倉トーストとは印象が大きく異なります。最大の違いは、パン自体のこだわりと、完成品のルックスです。

 昭和の喫茶店が使用していた食パンは、多くが品質、サイズともにごく一般的なものでした。

 しかし令和のコーヒーショップは、オーナーが有名無名のベーカリーのパンを食べ比べて自店のコーヒーに合うパンを厳選しており、サイズは小ぶり。スイーツ感覚で持て余すことなく食べられる小ささです。一例をご紹介しましょう。

「かわいい」が「おいしい」に変わる瞬間

 2016年にオープンした自家焙煎(ばいせん)コーヒーショップ「NORIZ COFFEE(ノリズ コーヒー)」(武蔵野市境)は、東京・武蔵境という住宅街にありながら、週末になると遠方からも多数の人々が訪れる人気店。

 コーヒーによく合う自家製のプリンやロールケーキで多くのファンを獲得しており、2019年11月からあんバタートーストの提供を始めました。

「NORIZ COFFEE」の「あんバタートースト」(画像:川口葉子)



 実に魅力的な一皿です。

 文庫本よりひとまわり小さな手のひらサイズの食パンは、地元の人気ベーグル専門店「HOT BAGLES」製。厚切りにしてたっぷりバターを塗り、バルミューダのトースターで黄金色に焼きあげた上に、ドーム状の粒あんとよつ葉バターをのせれば完成。あんはパンの風味を邪魔しないよう控えめな甘さです。

令和のあんバタートーストの特長は?

「地域のお店とつながりを持ちながら地元を盛り上げたい。そんな思いから、もともとHOT BAGLESさんのベーグルを使ったメニューを提供していました」と、オーナーの田中宣彦さんは語ります。

「HOT BAGLESさんの食パンを食べたら風味も食感も良くて感銘を受け、ぜひお客さまにこのパンを食べていただきたいと思ったんです。トーストすると耳はバゲットのようなカリッとした食感になり、中はもちもちして、小麦粉の香りがふわっとたちのぼります」

 おいしいパンありきのあんバタートーストは、NORIZ COFFEEのセンスと神経の行き届いた仕上げによって、心をとらえる逸品になりました。

「NORIZ COFFEE」の外観と内観(画像:川口葉子)



 お客が待つテーブルに運んでいくと、まず「かわいい!」という歓声が上がります。程なくして、その声が「おいしい」に変わる瞬間がうれしいのだと田中さん。

 またNORIZ COFFEEのあんバタートーストやスイーツは、コーヒーを飲み慣れない人々のための補助線ともなっています。

 コーヒー豆は浅いりから深いりまで6種類ほどそろえてあり、オーダー時に田中さんが好みを聞いたり、スイーツとの相性をわかりやすくガイドしたりすることで、気軽にコーヒーとのペアリングに親しめるのです。

SNSでも話題に

 風味もルックスも麗しい令和のあんバタートースト。

 会員制交流サイト(SNS)にはNORIZ COFFEEをはじめとして各地のコーヒーショップで撮影された写真がずらりと並んでおり、それが新規のお客を増やすと同時に、自宅であんバタートーストをつくって楽しむ人々にもヒントを与えています。

コーヒーを入れる「NORIZ COFFEE」のオーナー・田中宣彦さん(画像:川口葉子)

 いま、コーヒーショップも家庭も含めた、新たなあんバタートースト文化が醸成されつつあるのです。

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