2020年初夏、僕たちは立ち止まらざるを得なかった【連載】散歩下手の東京散歩(3)
2020年6月22日
ライフ散歩とは、目的を持たずに歩くことも、寄り道しながら目的地を目指すことも、迷子になってしまうことも、迷子になりたくなくて右往左往することも、すべて包み込む懐深い言葉。出版レーベル「代わりに読む人」代表で編集者の友田とんさんが、日常の風景が一変した2020年初夏の日の自分を回顧します。
酔客さえいない駅の風景
2020年5月上旬の夜、まだ時刻は20時を回ったところでしたが、東急東横線・学芸大学駅前(目黒区鷹番)の商店街の様子はまるで終電が行った後、深夜25時という風情でしょうか。
店の明かりはついていても、シャッターは軒並み下りていました。ただ、いつもの深夜25時ならちらほらと歩いている酔っぱらいの姿はありません。季節は違うものの、正月三が日の夜のようです。
こんな夜の商店街を見る機会はまたとないことかもしれません。そう考えて私はその風景を記憶にとどめました。
文庫本を片手に家を出た
これまで毎日1時間以上掛けて通勤していた私は一転、自宅で仕事をするようになり、そうなるとどうしても運動不足になってしまいます。
外出自粛とは言え、それは人と接触するのがよろしくないということ。外の空気は吸ってもいい。いや、むしろ精神衛生上、外の空気は積極的に吸った方がいい。そこでつまり、散歩の出番になるのです。
朝、夕にまとまった歩数を歩くことで、体だけでなく、精神的な平衡をなんとか保とうとしていたのでした。休みの日なら昼間にも散歩に出掛けてみます。

いつもなら駅前までまっすぐ歩いてしまうところを、あえて逆の方向に歩き出してみる。文庫本を片手に家を出て路地から通りに出ると、いつもは左に行くところを右に行く。そうすると、近所の公園にたどり着きます。私は石でできたベンチに座って人々を遠くから眺めながら本を読みます。
そのとき読んでいたのは『ドゥルーズ――解けない問いを生きる』という、フランスの哲学者ドゥルーズについての解説書だったのですが、鉛筆で線を引きながら読んでいると、このどうしようもないコロナ禍の今、読むのにもってこいだなと思ったのでした。

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