2020年も進化中 おじさんの飲み物「レモンサワー」が女性と若者を巻き込む大ブームになったワケ
2017年からブームとなり、今や若者からも愛されているレモンサワー。その歴史とブームの背景について、ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の有木真理さんが解説します。ブームは2017年に到来 レモンサワーは、いまや料理・飲食シーンには欠かせないドリンクです。今回は、そんなレモンサワーがどのような歴史をたどり、また今後どのようになっていくのかを解説します。 レモンサワーといえば、これまで中高年を中心に「赤ちょうちん系」の居酒屋で愛飲されている、昔ながらの飲み物でした。 注目を浴び始めたのは、2017年頃。当時、筆者(有木真理)が上席研究員を務める「ホットペッパーグルメ外食総研」ではそのトレンドの兆しに着目し、調査を行いました。 その調査結果によると、お酒を飲む人の「4人にひとり」がレモンサワーを好んで飲むと回答。また、今後レモンサワーを飲んでみたいかという問いに、20代の男女が特に高い意向を示していることがわかりました。 その頃から、レモンサワーは老若男女問わず愛飲されるアルコールドリンクとして、ブームになっていったのです。 流行した三つの理由 ブームの背景には、シュワシュワして飲みやすい、どんな料理にも合うといった特徴ももちろんありましたが、ここまで広まった理由は次の三つに集約されます。 1.健康・低糖質ブームとの親和性 2.「横丁ブーム」の影響 3.進化系レモンサワーの登場 では、それぞれ解説していきましょう レモンサワー(画像:写真AC) まずひとつ目は、健康ブーム、低糖質ブームと相まったことです。レモンサワーは基本的に甲類焼酎を使用しているため低糖質。そしてレモンでビタミン補給ができ、ヘルシーです。このことから、お酒は「太りやすい」「健康に悪い」といった従来のイメージを払しょくできたことが要因となりました。 またふたつ目は、「横丁ブーム」からの影響です。レモンサワーは昭和レトロな横丁で愛飲されており、そこに注目が集まったのです。横丁は40代以上からすれば懐かしい「ノスタルジー消費」を促し、20~30代の若者からすれば、昭和っぽい雰囲気は「非日常」であり、立派なレジャーだったのです。 「進化系レモンサワー」の台頭「進化系レモンサワー」の台頭 そして三つ目であり、ブームに拍車をかけたのは「進化系レモンサワー」の登場です。 進化系レモンサワーとは無農薬や国産などのこだわりレモンを使ったり、ベースとなるアルコールを焼酎だけでなく、日本酒や泡盛に変えたりして、味や素材を進化させたレモンサワーを指します。 また、氷代わりに冷凍レモンをグラス一杯に敷き詰めたり、スライスした冷凍レモンをタワーのようにしたりと、レモンのカッティングにより「フォトジェニック」に仕立てたレモンサワーも、進化系レモンサワーと呼ばれます。 そしてレモンをシャーベット状にした、まるで食後のカクテルやスイーツのようなレモンサワーも登場。アルコールが苦手な消費者を取り込みました。 このようにして、レモンサワーは愛飲する層・シーンは拡大。SNSでは拡散され、一気に若者の間でブームとなったのです。 2019年4月に開催された「レモンサワーフェスティバル 2019 IN 東京」に出店した7店舗のレモンサワー(画像:レモンサワーフェスティバル実行委員会) また、それに対抗するかのように、昔ながらのレモンサワーは「元祖系レモンサワー」と名付けられ、「進化系 VS 元祖系]というキーワードも話題に。 フェスブームも相まって、宝酒造(京都市)が2017年から手掛けている「レモンサワーフェスティバル」は4年目に突入。2020年はコロナ感染の影響もありオンラインとなりましたが、全国で人気を博しています。 ブームから「定着」フェーズへ移行ブームから「定着」フェーズへ移行 昨今では、居酒屋で「取りあえずレモンサワー」という第一声が飛び交い、大型宴会でレモンサワーが乾杯ドリンクとしてピッチャーでテーブルに並ぶことも珍しくありません。このようなことからも、レモンサワーはもはやブームでなく、定着フェーズに入ったと言えます。 それを証明するデータもあります。 ホットペッパーグルメ外食総研では、2017年のレモンサワーに対する消費者意識調査に続き、2020年6月に2度目の調査を実施。結果は、20代~50代の約5割がレモンサワーを愛飲しているというものでした。 「ホットペッパーグルメ外食総研」が行ったレモンサワーに関する調査。質問事項は「今後の外食において、レモンサワーを飲もうと思いますか?」(画像:リクルートライフスタイル) その背景のひとつには、飲む場所のバラエティーが増えたことが挙げられます。 居酒屋だけでなく、イタリアンなどの洋食店やホテルのバー、ファミレスなど、さまざまな業態でレモンサワーが愛飲されるように。レモンサワーの特徴である「どんな料理にも合う」をまさに地で行く結果でした。 また、ファッション誌やドラマのワンシーンでタレントが手にしているドリンクが、ビールグラスやワイングラスではなく、レモンサワーに代わるなど、まさに日常的なドリンクになりました。 そして進化系レモンサワーはさらに進化し、アレンジが進んでいます。 はちみつや皮ごとすりおろしなど、アレンジの中でも定番のものはもちろんのこと、パクチーやトマトなどをいれたものや、スパイスを効かせたものなど、アレンジレモンサワーが注目を集めています。 レモンサワーにも「ちょい足し」レモンサワーにも「ちょい足し」 進化し続けるレモンサワー事情――筆者が今注目しているトレンドは「ちょい足し」です。 その背景には、自分だけのスペシャルレシピ「ちょい足し」がレモンサワーに限らず、食の業界で話題となっていることが挙げられます。カップラーメンへの「ちょい足し」がブームになっているのが一例です。 アイスクリームにラム酒を「ちょい足し」(画像:写真AC) レモンサワーにおいても、自身の好みのベースアルコールを選び、好きな濃さでレモンの量や炭酸を入れるのはもちろん、そこにフルーツやスパイスを「ちょい足し」することでオリジナルレシピを作るエンターテインメント性が話題となっています。 外食はもちろんのこと、オンライン飲み、家飲みの頻度も増えるなか、自宅にあるものを「ちょい足し」してみるのも面白いかもしれませんし、自粛モードが続くなか、大好きなお店のレモンサワーレシピを、自宅でアレンジしてみるのも面白いでしょう。 「若者の酒離れ」を救えるか 前述の2020年の調査データによると、レモンサワーを支持する理由は「飲みやすい」「味が好き」「料理に合う」と味覚に関するコメントが中心となっています。 「ホットペッパーグルメ外食総研」が行ったレモンサワーに関する調査。質問事項は「外食でレモンサワーを飲みたいと思う理由は何ですか?」(画像:リクルートライフスタイル) この結果は「お酒を飲まない理由」の真逆であり、「苦い」「わざわざ飲む必要を感じない」といった「若者の酒離れ」にも一手を投じるポテンシャルを持っていると言えます。 さわやかな酸味とシュワシュワとした飲み口のレモンサワーが「おいしい」「これだったらお酒を飲みたい!」と、若者のアルコールデビューになると筆者もうれしいですし、またそのような明るい外食シーンが日本中、世界中でこれからあふれることを願ってやみません。
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