タピオカの記事はもう最後にしたい 「東京タピオカランド」復活に、心底そう感じたワケ
2019年夏、原宿駅前に期間限定オープンして人気を博した「東京タピオカランド」が、同年11月22日(金)に今度は新大久保で“復活”を遂げました。えっ、今さらタピオカ店がまたオープン……? そう思った人、いますよね。かく言う記者もそのひとりでした。え、今からタピオカ店オープンですか。 2019年最大のヒットといえば、「ラグビーワールドカップ2019日本大会」でも「キャッシュレス決済」でもなく、やっぱりタピオカドリンクだったのではないでしょうか。 財務省貿易統計によれば、19年1~7月のタピオカ類の輸入量は約6270t。これは、過去最高だった18年の年間輸入量(1~12月)約2930tをたった7か月間で倍以上も上回ってしまった数値というから驚きです。18年だって前年を大きく上回る伸びを見せたのに、よもやそれを倍も超えてくるとは。大方の人は予想だにしなかっただろうと思います。 ……まあ、そうは言ってもピークはドリンク需要が高まる夏場まで。いい加減に人気も一息ついた頃でしょう。ブームが異常に加熱した分、きっと今ごろ皆すっかり冷めて新しいスイーツを探し始めているはずだ――。そう思っていたところに舞い込んできた「東京タピオカランド復活」の報は、まさに「えええっ?」と戸惑うほかないものでした。 ただでさえタピオカ店が増え過ぎて飽和状態だというのに、お客さんはちゃんと入るの? 採算はとれるの? いつまで続ける算段なの??? 正直、半信半疑で現地取材へ向かったことを先に告白しておきます。 ああ、眩しいこの笑顔。そんなにタピオカが好きですか(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影) 場所はJR山手線の新大久保駅から徒歩約5分の「CEN DIVERSITY HOTEL & CAFE(セン ダイバーシティ ホテル&カフェ)」(新宿区百人町)。オープンを翌日に控えた2019年11月21日(木)夕方、直前内覧会の会場には集まった女性たちが所狭しとごった返していて、のっけから少々面食らってしまうほどでした。今もこんなに人が集まるんだ……。 「東京タピオカランド」は19年8月~9月の約1か月間、JR原宿駅前で展開されたアトラクション型のタピオカ施設です。夏場の書き入れ時に期間限定でオープンし、「風と共に去りぬ」よろしく初秋には店をたたんだ風読み上手なテーマパーク・カフェ。と思いきや、今ごろこうして新大久保の地に“復活”を遂げて見せたのでした。しかも、満員御礼の女性たちを引き連れて。 そもそもどういう経緯で再オープンにつながったのか、その辺りの事情が気になるところです。 本当に一過性のブームなのか? と疑った日本当に一過性のブームなのか? と疑った日 タピオカランドの再オープン。先導したのは、意外にも会場となるホテル側でした。 同ホテルを運営するレジデンストーキョー(渋谷区代々木)CFOの前田嘉也(よしなり)さんによると、7月に開業したばかりのホテルの飲食機能を強化するため、メインで扱う商品を何にするかスタッフたちと意見交換するなかで、現場から挙がってきたアイデアが「タピオカドリンク」だったのだそう。 「タピオカかぁ、そうかぁ~、と言うのが正直なところでしたかね」と前田さん。ブームのピークと目される夏場をとうに過ぎてからの開店に、当初は懸念がなかったわけではないと言います。 しかし、意識して街のタピオカ店を眺めていると、あることに気がつきました。それは、いまだに新しいお店が次々とオープンしていて、それらの店にはたいてい長い行列ができていること。ホテルから新大久保駅までの道を歩けば、すれ違う人すれ違う人、皆タピオカ入りのカップをいまだに持ち歩いていること――。 「これはもしかしたら一過性のブームに終わらないのではないか。本場・台湾で昔から定番ドリンクであり続けているように、日本でもこのまま定着したメニューのひとつになっていくのではないかと思ったのです」 よし、タピオカでやってみよう。そうと決めたら達成すべき目標が見えてきました。それは、「並みいる強豪に決して負けない、東京一おいしく値ごろなオリジナル・タピオカドリンクを作り上げること」でした。 開店前夜、直前内覧会に訪れた人たちで賑わう店内。カラフルなドリンクが場の雰囲気に花を添えているのを感じます(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影) さっそく材料の選定に取り掛かりました。タピオカ粒、紅茶の葉、紅茶を煮出す水、砂糖、ミルク。材料ごとにいくつもの種類を用意しては、東京タピオカランドや専門家らの助言を受けながら何通りもの組み合わせを試しに試して、ひたすらベストな味を追い求める日々。原価率を下げることにはこだわらず、可能な限り上等な材料を選ぶよう努めました。 並行して行ったのが、都内の主要なタピオカドリンクを比較するための飲み比べです。「もともと甘い物は好きでしたが、それにしても飲みまくったせいで体重が増えてしまいましたよ」と前田さんは苦笑します。 ハンバーグが決して廃(すた)れないのはナゼかハンバーグが決して廃(すた)れないのはナゼか そうして完成したのが、今回お披露目されたセンホテル×東京タピオカランド特製のオリジナル・タピオカドリンクです。 甘過ぎない自然な甘さを楽しめて、紅茶の香りが上品に立ち上る、自信の1杯ができ上がりました。濃厚アッサムタピオカミルクティーや抹茶タピオカミルクティーなどをオーガニックシュガーまたは黒糖で楽しむ計8種類、そこにカラフルな色合いが魅力のフルーツティー2種類を加えた全10メニューで、お値段はすべて税込500円という東京都内としては良心的な価格設定です。 タピオカ粒、紅茶の葉、水、砂糖、ミルク。すべてにこだわって完成したというオリジナル・タピオカミルクティー(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影) ここまでこだわって作ったのならば、より多くの支持を集めて末永く愛されてほしいもの。気がかりはやはり「タピオカブームの終焉(しゅうえん)」ですが、あらためて前田さんはタピオカの行く末をどう見ているのか聞いてみました。 「先ほど『タピオカは一過性のブームで終わらないのでは』と申しましたが、一方で店ごとの『勝ち負け』は明確に付き始めているとも感じます。行列の絶えない店がある半面、客が来なくなり閉店した店舗をいくつも見ました。お客さんたちがいろんな店のタピオカを飲み比べて舌が肥えた分、『高かろう悪かろう』の商品はすぐ見抜かれてしまう。これからのタピオカ市場は今まで以上に味、そして適正価格での勝負になっていくと思います」 東京タピオカランド側の見解はいかがでしょうか。運営を担うスターズ株式会社の代表・大池知博さんは、 「以前の強烈なまでのブームはひと段落した感は確かにありますね。ただ、やみくもな熱狂がなくなった一方、もう少し落ち着いたテンションの人気がいまだ根強いというのは感じています。毎日じゃなくても定期的には飲む、というようにタピオカ消費がデフォルトになれば、手堅い売り上げが今後も見込めるのではないでしょうか」 確かに、ハンバーグやカレー、ラーメン、アイスクリーム、ドーナツなど、あまりにも定番過ぎる人気メニューは「飽きる」という概念と結び付くことは決してありません。 タピオカがこれらのビッグネームと張るまでの成長を遂げるかは何とも言えませんが、少なくともお客により淘汰されて残った「本当においしいお店」の商品だけは、いつまでも愛され続ける定番となる可能性を秘めていると感じさせられました。 緊急世論調査「タピオカいつまで飲みますか」緊急世論調査「タピオカいつまで飲みますか」 さて、作り手の思いは十分に分かったので、あとはタピオカを飲む側の思いがいかほどかに掛かっています。 普段、女子高生や女子大生と接する機会など皆無ですから、この会場に集まった女子たちに生の声を聴かない手はありません。 まずは都内にある私立高校1年の女子ふたり組。タピオカの人気はこれからも続くと思いますか? と問いかけたところ、「続くと思いますよ」との答え。「味がおいしいし、食感も楽しいし。今、週2ぐらいで飲み続けていますけど、もうだいぶ自分のなかで定番化しているから、飽きるとかいうことはないと思います」 一方で「お店はたくさんあるからちゃんと選んで買ってます。やっぱりおいしいとこと、そうでないとこは味が違うから。……今日のやつですか? おいしいと思いますよ。これならリピートできます」と合格点が付きました。 次に大学生姉妹というふたり組。こちらも「タピオカを飲み続ける」との回答でした。 「味とか食感に中毒性がある感じですかね。埼玉に住んでるんですけど、最近はあんまり人がいない駅前にまでお店ができていたし、もうだいぶ生活の一部になっている気はします。無くなっちゃったら寂しいんじゃないですかね」(姉・22歳)。「でも、飲むのは私は月1回くらい。週5とかで飲んでたらすぐ飽きちゃいそうだけど、ときどき飲んでるから飽きないし、これからも定期的に飲みたくなると思う」(妹・18歳) 新大久保駅近くのタピオカ店。ライバルは星の数ほどいる(2019年11月21日、遠藤綾乃撮影) 来場者たちの頼もしい(?)タピオカ永続宣言を聞き届け、やや安堵の思いで会場を後にしました。JR新大久保駅までの道のり、前田さんが言っていたように意識しながら歩いてみると、ざっと見まわしただけで10店舗前後のタピオカ店があることに気がつきました。 新大久保は今や、韓流にとどまらず多彩な若者文化を牽引(けんいん)するカルチャー発信タウンです。新大久保駅前の細い歩道は、平日夜にもかかわらず行き交う若者たちでぎゅう詰め。そして彼らの手には、これまた人気沸騰中の韓国式アメリカンドッグ「ハットグ」、そしてタピオカのカップです。 その光景を見ながら思ったのは、タピオカはやはり定番のドリンクとして定着し始めているのかもしれない、ということ。ブームが終わるのを今か今かと待ち構えるよりも、すでに定番化したものと認める方が正解なのかもしれないということでした。 ひとまず直近で注目したいのは、2019年下半期のタピオカ輸入量(財務省貿易統計)です。夏場と変わらない消費量で推移したことが判明すれば、「定番化」を表す重要な証左のひとつと言えそうだからです。 そしていよいよ「定番化」が明白なものなったとき、すっかり人々の日常と化したタピオカについて、もう記事を書く必要はなくなるのかもしれません。 それだけ愛されているタピオカなら、ことさら持ち上げたり落としたりする必要はもうなかろう。ハンバーグがどの家庭、どのレストランでも当たり前のものとして愛されているのと同じように。 街じゅうにタピオカがあふれているのにタピオカに関する記事をいっさい見なくなる日。そんな日が来るのも、案外近いのかもしれないと思った「タピオカランド」復活前夜でした。 東京タピオカランドは、今のところ2020年2月までの期間限定オープンだそうです。
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