私立大学難化で志願者が6000人増 元総理大臣が創立した「拓殖大学」とはどのような大学なのか

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私立大学難化で志願者が6000人増 元総理大臣が創立した「拓殖大学」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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私立大学の定員厳格化で軒並み志願者が減っている私立大学。そんななか近年5000人以上も増えているのが拓殖大学です。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

志願者が前年より大幅に増加

 東京都を筆頭に、若者の大都市一極集中を避けて2016年度から段階的に導入された私立大学の定員厳格化。その結果、一般入試が難化し受験生の「安全志向」が加速し、多くの私立大学で軒並み志願者が減っています。そんななか、前年から大幅に増加しているのが拓殖大学(文京区小日向)です。

文京区小日向にある拓殖大学(画像:(C)Google)



 同大の一般入試やセンター試験利用の志願者は、2019年度入学者試験で1万1532人から1万7164人へと5632人も増加しています。この現状を安全志向の「受け皿」となったの一言で片づけられないのは、拓殖大学の深い歴史にあります。

 明治期から大正期にかけて、政治家や教育家が自らの理念の実現と国家に貢献する人材育成を掲げて学校を設立することは珍しくありませんでした。しかし数ある都内の私立大学で、内閣総理大臣経験者が創立したのは大隈重信が創立した早稲田大学(新宿区戸塚)と拓殖大学のみです。

 2020年に創立120周年を迎えた拓殖大学の歴史は、1900(明治33)年に設立された台湾協会学校にさかのぼります。創立者の桂太郎(1848~1913年)は内閣総理大臣の通算在職期間歴代1位の記録を、安倍晋三前首相が更新するまで保持していた政治家です。 

 台湾協会学校は当初、独自の建物を持っていませんでしたが、開校の翌年には現在の文京キャンパスの地に校舎と寄宿舎を建設しています。

 拓殖大学のウェブサイトには、第1期卒業生45人の多くが台湾総督府などの海外へ羽ばたいていったエピソードが紹介されており、海外で活躍できる人材育成機関だったことが分かります。

新渡戸稲造も要職に就く

 1917(大正6)年に、海外で高い評価を得た「武士道」の著者で教育者の新渡戸稲造が2代目学監(教育責任者)に就任。1919年には医師であり政治家でもある後藤新平が第3代学長に就任しています。日本の近代史を語る上で外せない人物が要職に就いたのです。

「後藤新平の『仕事』」(画像:藤原書店)



 学校のトップに当時の日本で国際的知名度の高い新渡戸稲造や台湾総督府民政長官や南満州鉄道初代総裁を歴任した後藤新平を置いたことは、学校として掲げていた日本国外で活躍する人材育成への情熱が伝わります。

 その後、日本の政策の変化が色濃く影響し、名称は台湾協会専門学校から東洋協会専門学校となり、1922年には大学に昇格しました(東洋協会大学)。そして4年後の1926年、拓殖大学と改称しました。ちなみに拓殖とは未開の荒地を切り開いて、そこに住みつくことを意味しています。

 そんな拓殖大学には現在、

●商学部
・経営学科
・国際ビジネス学科
・会計学科

●政経学部
・法律政治学科
・経済学科

●外国語学部
・英米語学科
・中国語学科
・スペイン語学科
・国際日本語学科

●国際学部
・国際学科

●工学部
・機械システム工学科
・情報工学科
・電子システム工学科
・デザイン学科

の5学部14学科に8719人が学んでいます。商学部と政経学部は文京キャンパス、外国語学部と国際学部そして工学部が八王子キャンパス(八王子市館町)に設置されています。

言語教育も豊富に行う政経学部

 前述のとおり、内閣総理大臣経験者が創立した大学は早稲田大学と拓殖大学のみですが、両大学にはそれ以外にも共通点があります。それは、私立大学の文系の最難関に位置づけられ、早稲田大学の看板学部でもある政経学部を拓殖大学も擁しているのです。

八王子市館町にある八王子キャンパス(画像:藤原書店)



 拓殖大学の政経学部は早稲田大学と明治大学(千代田区神田駿河台)に次ぐ歴史を誇ります。加えて法律、政治や経済の専門分野だけでなく、言語教育も豊富に行っています。

 第2外国語の英語はもちろんのこと、選択必修の言語にはフランス語やドイツ語、スペイン語や中国語といった英語に次ぐメジャー言語だけでなく、ヒンディー語、インドネシア・マレーシア語を含め10にも上ります。

 20世紀は欧米を中心に世界が進みましたが、現在はアジア圏の経済が躍進していることもあり、これまで一般的に取り上げられる機会が少なかった言語を習得することは必要不可欠な時代になっています。政経学部の姿勢からは、創立当初より脈々と続く国際人育成の理念が浮かび上がってきます。

 このような専門知識を持つ教職員を集めることは簡単ではありません。しかし、拓殖大学が長年にわたり貫いてきた国際教育機関としての自負が形として表れているのです。

時代に沿った国際人の育成は今も継承

 2015年からは、教育ルネサンスを掲げて教育改革をスタート。政経学部ではSDGs(持続可能な開発目標)に関する授業を開講。また、文京区や八王子市といったキャンパスを置く自治体だけでなく、海外と協力した取り組みを行っています。

拓殖大学のウェブサイト(画像:拓殖大学)



「自分に何ができるか」と学生自身が考え、大学側が地域や海外の人々との活動を通じて幅広い分野において学生が活躍できる場を設けることは、即戦力が求められる現代社会において重要なことと言えるでしょう。

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