菜食主義は現代人の「エゴ」に過ぎないのか? ヴィーガンブームを考える

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菜食主義は現代人の「エゴ」に過ぎないのか? ヴィーガンブームを考える

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アーバンライフトーキョー編集部

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外国人観光客が数多く訪れる東京五輪・パラリンピックを控えて、日本国内でも「ヴィーガン料理」を提供する飲食店やイベントが少しずつ増えてきました。国内最大手の食肉メーカーが参入するなど、市場も盛り上がりを見せています。一方、一般的にはまだまだ「なじみが薄い」というのが現状のようです。

「食肉国内最大手」社の参入が意味するもの

 ヴィーガンとは、「完全菜食主義者。動物に由来する製品を全く摂取しない」人、あるいはその食スタイル、生活スタイルのこと。英単語のベジタリアン(vegetarian、菜食主義者)を縮めた言葉が由来だといいます。

 欧米など海外ではすでに市民権を得たスタイルのひとつで、ある調査によると、2017年に日本を訪れた外国人観光客のうち全体の4.7%に当たる約134万人がベジタリアン。東京五輪・パラリンピックを半年後に控えた東京では、外国人観光客からの需要を狙いヴィーガンメニューに対応する企業や飲食店が少しずつ増えています。

ヴィーガンの一般的なイメージ(画像:写真AC)



 小田急百貨店新宿店(西新宿)は、2020年1月25日(土)から始まるバレンタイン催事で、乳化剤・乳製品・白砂糖を使っていないヴィーガン対応の生チョコレートを販売予定。

 また、シロ(港区北青山)が手掛ける自然素材にこだわった人気コスメブランド「SHIRO」のカフェ(目黒区自由が丘)では、同月23日(木)からバレンタイン期間限定のヴィーガンパンケーキがお目見えする予定です。

 さらに、食肉国内最大手の日本ハム(大阪市)は、肉を使わず大豆を主原料にしたハムやソーセージ風の商品を、2020年3月に発売するとしています。大手企業のこうした動きは、健康志向の高まりなどを背景に、日本市場でも今後ヴィーガン食の盛り上がりが期待される可能性のひとつと言えるかもしれません。

「普通の食事をすればいいのに」という声

 一方で、ヴィーガンの取り組みや認知が一般に広まっているかというと、まだまだというのが現状のようです。

 食に関する支援事業を展開するフレンバシー(渋谷区代々木)が2019年12月に行ったアンケート調査によると、自身の食生活を「ヴィーガン」と答えた人は全体の2.1%。2年前の調査結果と比べると増えてはいるものの、全体に占める割合はまだごくわずかにとどまっています。

2017年、2019年と2回にわたりフレンバシーが実施した、食生活に関するアンケート調査(画像:フレンバシー)



 また、ヤフー(千代田区紀尾井町)が運営するポータルサイト「Yahoo!JAPAN」でヴィーガン関連のニュース記事を検索すると、コメント欄には辛辣(しんらつ)な言葉が少なからず書き込まれています。

「(大豆製の)代替肉? 肉を食べたいなら、素直に食べればいいのに」
「野菜だけの料理なんて不自然。食事はおいしく楽しもうよ」
「揚げたての唐揚げにマヨネーズを付けて食べる幸せを知らないのは、かわいそう」

 またある記事では、日本に住むヴィーガンの米国人女性が、食品の原材料表示を明確にするよう消費者庁に嘆願書を提出した――という内容に対して、

「そこまでこだわるなら、自家栽培のものだけ食べていればいいんじゃない」
「勝手にやってるんだから他人に負担を押し付けないでほしい」

などといったコメントが並んでいます。

 ヴィーガンという存在を知らない人も、日本にはまだ少なくありません。そして知っている人にとっても、「動物や魚の肉はもちろんのこと、牛乳や卵、蜂蜜なども一切取らない」という厳格なイメージが先行することで、「特異な少数派」として敬遠されてしまう現状があるのかもしれません。

ヴィーガンは少数派のためだけにあらず

 ヴィーガン食のスタイルは、決して少数派のためだけのものではない――。そんな思いを体現するお店が2019年12月、台東区西浅草にオープンしました。観光客も数多く利用する、つくばエクスプレス浅草駅から徒歩2分の、その名も「VEGAN STORE(ヴィーガンストア)」です。ガラス扉を引いて店内へ入ると、1階には大手コンビニチェーンのような陳列棚が所狭しと並んでいます。

 このお店を経営するのは、グローバルミーツ代表の鈴木翔子さん。「コンビニという、誰でも気軽に入店できる業態にすることで、ヴィーガンの人以外にとっても敷居の低いお店を作りたかった」と話します。

鈴木さんがヴィーガンの敷居を低くしたいワケ

 陳列棚に並ぶのは、ジュースやクッキー、ケーキ、乾麺、キムチ、冷凍食品のフランクフルトなどの食品のほか、竹製の歯ブラシなど雑貨を含むバラエティー豊かな200種類前後。レジの脇には街中のコンビニチェーン店と同じく「ホットスナック」を販売するコーナーがあり、植物性の唐揚げやちまきが温められていました。

 扱う商品は全て「ヴィーガン認証マーク」を取得した商品、またはヴィーガン対応ということをスタッフが確認した商品、というのが鈴木さんのこだわりです。

 そして、レジの脇にはガラス張りのキッチンスペースが。唐揚げ丼や天丼、カレーライスなどのメニューをレジで注文すると、店舗2階のレストランスペースで出来たて料理を楽しめます。

ヴィーガン対応の商品が並ぶ、「ヴィーガンストア」の店内。どれもおいしく、そしてヘルシー(2019年12月、遠藤綾乃撮影)



 植物油で揚げた大豆原料の唐揚げは、ひと口かむとジュワッとうま味が広がり、味わいも食べ応えも鶏肉の唐揚げのよう。フランクフルトは腸詰めの皮の食感まで感じられて、ヴィーガン食だと言われなければ気づかないほど。

 動物性の食品と比べてカロリーが抑えられる一方、大豆などの植物性タンパクが豊富に含まれているので、ヴィーガン以外の人にとっても、おいしくヘルシーに楽しめるメニューと言えそうです。

 鈴木さんが目指すのは、ヴィーガンという言葉が指し示す意味を、「ある一部の特殊な人たち」から「料理ジャンルのひとつ」へと変えること。

「例えば外食で焼き肉店やフレンチレストラン、ラーメン店に行くのと同じように、『昨日は焼き肉だったから、今日はカロリー控えめのヴィーガン料理にしようか』と、誰にとっても気軽に選べるひとつのジャンルになってほしいと思っています」(鈴木さん)

 昨今のヴィーガン商品は洗練されたものが多いと言い、「単なる『動物性食品の再現料理』ではなく、ひとつの食ジャンルとして成立するクオリティーが伴っています。誰が食べても『おいしい』と思えるものが増えていてるし、そのうえとてもヘルシー。特定の人たちのためだけのものにしておくのは、もったいないはずです」(鈴木さん)。

 鈴木さん自身もヴィーガンではなく、ときには動物性食品も口にする「フレキシタリアン(柔軟な菜食主義者、フレキシブルとベジタリアンからなる造語)」です。

 先鋭的なスタイルにこだわらないライトなヴィーガン食人口を増やすことで、「広く浅く」すそ野を広げていきたいと考えています。

「広く浅く」普及するため、現時点で最大の課題

 見ためも味も、多くの人に受け入れられるほど高品質に進化を遂げているヴィーガン食。今後、ライト層への普及を果たすためにネックとなるものは何でしょうか。

 そのひとつは「価格」です。「ヴィーガンストア」で、気の向くままに欲しい商品を買い物かごへと入れてみました。

 バラ肉ふうの大豆ミート(80g)税抜き440円、芋ちまき250円、黒米ちまき250円、うの花クッキー200円、キムチ480円……などなど、計12品。いずれも食品のため、軽減税率が適用されて消費税は8%。お会計は3898円でした。

 近所のスーパーマーケットで買う豚バラ肉は、100g当たり138円程度。比べてしまうとどうしても、「ヴィーガン食は値が張る」と感じます。

「ヴィーガンストア」で購入した商品。12点で、合計税込み3898円(2019年12月、遠藤綾乃撮影)



 前出のフレンバシーの播太樹(はり たいき)代表は、まずは植物性食品を選ぶことで脂質を減らしたり植物性タンパクを摂取したりできるといった、健康面でのメリットがあることを多くの人に知ってもらう必要があると指摘します。

「多少高価格であっても、それに見合うだけの価値があると判断されれば需要は高まります。生産ロットが増えていくことで、結果として価格も抑えられていくはずです」(播さん)

 鈴木さんもまた、ヴィーガンストアで販売する自社商品向け野菜の提携農家を探すなど、価格抑制に向けた模索を進めています。

 ヴィーガン料理とは限られたごく一部の人のためのものではなく、健康を意識する私たち皆にとって実はとてもフレンドリーなスタイルではないでしょうか。

 そうした認知は今後、果たしてどの程度広まっていくのか。東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年は、ひとつの試金石となるのかもしれません。

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