「レディースランチをなくさなければ、本当の男女平等ではない」 日本最大の女性アワードで記者が感じた、受賞者たちの問題意識

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「レディースランチをなくさなければ、本当の男女平等ではない」 日本最大の女性アワードで記者が感じた、受賞者たちの問題意識

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12月19日に六本木ヒルズ森タワーで行われた「Forbes JAPAN WOMEN AWARD2019」を取材しました。いったいどのようなことが話し合われたのでしょうか。

「女性の力が事業推進につながっている」

 帝国データバンク(港区南青山)が調査対象は全国2万3650社を対象に行った女性登用に対する企業の意識調査(2019年8月発表)によると、女性管理職割合は2018年の調査より緩やかに増加し、平均で7.7%という結果になりました。一方、女性管理職がいない企業は46.7%と約半数で、日本の企業における女性登用はまだまだ発展途上段階であることがうかがえます。

 そんな中、12月19日(木)に女性向けライフキャリア支援サービスを展開するLiB(渋谷区桜丘町)と、アメリカの経済誌「Forbes」の日本版「Forbes JAPAN」による日本最大規模の女性アワード「Forbes JAPAN WOMEN AWARD2019」が、六本木ヒルズ森タワー(港区六本木)の51階・六本木ヒルズクラブで開催されました。その年に最も女性が活躍し、社会に最もインパクトを与えた企業を表彰するというもの。2019年で4年目を迎える同アワードを取材しました。

「Forbes JAPAN WOMEN AWARD2019」の企業別部門第1位と個人部門受賞者(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 はじめに総評として登壇したLiBの代表取締役社長・松本洋介さんは、「福利厚生や働きやすさのみを追い求めると企業の成長は頭打ちになってしまう」と言います。「女性の力が事業推進や利益創造につながっていることにフォーカスを当てないと、真の意味での女性活躍社会は実現できない」と、初開催の4年前から掲げているというコンセプトを強調しました。

女性の多い会社が受賞するのは当たり前

「Forbes JAPAN WOMEN AWARD」は企業部門と個人部門があり、企業部門はさらに社員の規模別に300人未満、300以上~1000人未満、1000人以上と3つのカテゴリーに分けられます。授賞式では、それぞれの規模別で第1位に輝いた彩さ美(松山市)の代表取締役社長の山口京子さん、ノンストレス(渋谷区広尾)の代表取締役社長の坂野尚子さん、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン。神戸市)執行役員の住友聡子さんが表彰されました。

左から住友聡子さん、坂野尚子さん、山口京子さん(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 正直、筆者はこの3企業の受賞に際してなんら驚きはありませんでした。もちろん、それぞれ血のにじむような企業努力をされてきたことは間違いないでしょう。しかし、彩さ美はエステサロン運営、ノンストレスはネイルサロン運営やネイルメーカー経営、P&Gジャパンは洗剤や育児用品、化粧品などを手掛ける米P&Gの日本における子会社です。

 女性消費者をメインターゲットとするサービスや商品を展開する企業で女性社員が多く働いているのは自然な流れであり、女性社員が多いのだから出産や子育てなどで離職しないように女性の働きやすさが追及されるのも、また自然な流れとも言えるような気がしてしまったのです。

 女性だけが集まって女性の働きやすさを追求することの“身内感”の脱却。この企業別ランキングに、男性向け商品を展開していたり男性社員が多かったりする企業が当たり前のように第1位にランクインする未来こそ、目指すべき形なのではないだろうか、と考えてしまいました。

なぜ東京の中小企業がベスト3にないのか

 また300人未満のランキングを見てみると、トップ3はいずれも地方企業であり、トップ10には東京の企業は半分しか入っていません。

大和総研主席研究員の河口真理子さん(画像:Forbes JAPAN)



 このランキングのヒントが、アワード内でもなされました。それは、受賞企業とのトークセッションに登壇した大和総研(江東区冬木)の主席研究員・河口真理子さんのお話。気候変動問題や環境配備経済に詳しい河口さんによると、昨今取り沙汰されているサステナビリティ(持続可能社会)は、環境問題だけの話ではないと言います。

「今の世の中は、明らかに20世紀の拡大成長社会以上の拡大できなくなっています。かつては物を使って売れば儲かり、それが成長や幸せでした。しかし地球の資源も限界が見え、77億人が住むこの地球で人間が幸せに生きていくには、拡大ではなく持続が絶対的に必要になってくる。

 拡大は男性がうまくやる狩りや勝ち負けが重要な価値でしたが、持続には女性がうまくやる共生やシェアの価値観が重要。女性そのものではなく、女性性的な価値観が経済にも社会にも求められていることを企業側が理解しなければいけません」

 この話を聞き、筆者はついさっきまで考えていた浅はかな考えを恥ずかしく思うのと同ときに、今回受賞した企業の3人のような女性リーダーのビジネスモデルが、社会全体にもたらす幸せの価値観や影響は今の時代にとても重要なのだと痛感しました。

 そして、地方と比べて圧倒的に数の多い東京の中小企業は、共生するのではなく前時代的なマンパワー経営の狩りで利益追求のみに走っていることが、今回のランキング結果の要因なのでしょう。

「女性ならでは」の活躍ではない

 後継者不足で倒産する中小企業が多いことも昨今は問題になっていますが、河口さんは世代交代への期待について、

「女性活躍をしようと思って女性を登用するのではなく、会社としてSDGsに取り組める次の経営者を社内で探したときに、結果的に上手にやる女性をアポイントする機会が増える。40代以下の若い世代は性別というつまらないことにこだわらない人が増えてきているので、そうした事例がどんどん出てくることも大事。ただ女性を男性の上に置けばいいのではなく、男女がともに共生して調和しなければ意味がない」

と総括しました。

 次に「自ら道を切り開いただけではなく、社会にもインパクトを与えた女性」という選定基準の個人部門の5人が発表されました。

 アジア人に特化した婚活サイト「EastMeetEast」共同創業者兼CEOの時岡真理子さん、PRI(国連責任投資原則)事務局ジャパンディレクターの森澤みちよさんらが選出される中、「女性が多い会社で活躍するのは当たり前」と考えていた筆者は、再び考えさせられることに。

 他の受賞者には、三菱電機(千代田区丸の内)名古屋製作所HMIシステム部長の大西厚子さん、キリンビール(中野区中野)マーケティング部で「本麒麟」をヒットさせた京谷侑香さん、世界初のリング型超音波振動子を使った乳がん検査機器の製造開発を行う「Lily MedTech」(文京区本郷)代表取締役CEOの東志保さんが名を連ねたのです。

左から時岡真理子さん、大西厚子さん、森澤みちよさん、京谷侑香さん、東志保さん(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 システムエンジニアで管理職の大西さんとエンジニア出身で経営も手掛ける東さん、そして大手メーカーで活躍する20代の京谷さん。企業における女性活躍のロールモデルの幅が広がってきている現状がうかがえました。

取材して感じたアワードの意義

 またトークセッションで驚いたのは、「女性目線で」「女性ならでは」といった言葉が受賞者からほとんど出なかったこと。5人が口にしていたのは、「誰もやる人がいなかったから自分が経営をやっただけ」「自分が変わればなんでもできると思ってやってきた」「自分がどんな人間でどんな夢を持って生きるかを考えている」などで、ジェンダー的な視点を持っている人がいなかったことです。

 森澤さんは最後に、「レディースランチをなくさなければ、本当の男女平等ではない。日本はできるはず」とまで発言。下駄を履かせた上での女性活躍に5人はNOを掲げているからこそ、今回受賞したのではないでしょうか。そして多くの企業や経営者は、彼女たちのようなロールモデルの意識に追随していく必要があるのではないかと感じました。

イベントに参加したお笑いタレントのブルゾンちえみさん(画像:アーバンライフメトロ編集部)



 男女雇用機会均等法の施行から33年余り、女性活躍推進法の施行からは3年が経過した日本。こうしたアワードが開かれていること自体、日本における女性の活躍や雇用機会が発展途上であることを物語っています。「男性活躍を讃えるアワードがないのはおかしい」という意見も、ある意味では間違っていません。

 しかし取材した会場からはそうしたこともすべて理解した上で、「女性だけではなく男性や社会全体、そして未来のためにこうしたロールモデルを讃えることは必要だ」という熱気を感じました。

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