欅坂46が暴く、東京という名の巨大な幻想 「東京タワーはどこから見える?」
2019年11月27日
ライフ人気アイドルグループ欅坂46の楽曲「東京タワーはどこから見える?」から見えてくる東京の光景について、社会学者の太田省一さんが考察します。
「恋愛の記憶の象徴」としての東京タワー
欅坂46。2016年発売のデビュー曲「サイレントマジョリティー」がヒットし、一躍アイドルシーンの最前線に躍り出た女性アイドルグループです。NHK紅白歌合戦にも2019年で4回連続出場が決まっています。いまや世代を問わずその存在を知っている人も多いのではないでしょうか。乃木坂46、日向坂46とともに「坂道シリーズ」と呼ばれる彼女たちのグループ名は、東京にある実在の坂にちなんだものでもあります。
欅坂46の代表曲には、いわゆるアイドルっぽくないものが少なくありません。「君は君らしく 生きていく自由があるんだ」「大人たちに支配されるな」と歌う「サイレントマジョリティー」のように、どう生きるべきかという問いを鋭く突きつけるような歌を彼女たちは歌っています。そのひたむきさに惹かれるファンも多いと思います。
そんな欅坂46の楽曲のひとつに「東京タワーはどこから見える?」があります。シングル曲ではなく、「真っ白なものは汚したくなる」(2017年発売)というアルバムに収められた1曲です。

秋元康・作詞によるこの曲は、いまだ断ち切ることのできない失恋への思いを歌ったラブソングです。その意味では、「アイドルっぽくないアイドルの歌うアイドルっぽい歌」と言えるかもしれません。しかし、その内容は一筋縄のものではありません。
「僕」は、街を歩きながら「君」と一緒にいた昔のことを思い出します。ところが、歩道橋を渡る途中や、商店街の正面の空に立っていたはずの東京タワーがどこにも見当たりません。
ここでの東京タワーは、「君」との恋愛にまつわる美しい記憶の象徴です。しかし、そこにあると思っていた東京タワーは風景のなかに実は存在していませんでした。記憶のなかの東京タワーは、幻想でしかなかったのです。「僕」は、「記憶の断片を 真実より美しく補正して」本当の現実を見ようとしていなかったこと、「君」との過去はもう戻らないことにいまさらのように気づきます。
かつて憧れの場所だった東京
東京を歌った流行歌は枚挙にいとまがありません。古くは島倉千代子「東京だョおっ母さん」(1957年発売)やフランク永井「有楽町で逢いましょう」(1957年発売)などが大ヒットしました。
そこでは東京は地方の人びとにとっての憧れであり、若者たちの最新のデートスポットのある街でした。東京を歌った最近のヒット曲のひとつ、サザンオールスターズ「東京VICTORY」(2014年発売)のなかに出てくる「恋の花咲く都」といったフレーズも、そうして歌われてきた東京の華やかなイメージを踏まえたものでしょう。
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