コロナ対策で始まった「ドライブスルー八百屋」がむしろ人気になったエモい理由
2020年春の新型コロナ禍で、客と従業員との接触を避けるために始まった販売サービス「ドライブスルー八百屋」。これが思わぬ反響を呼び、第1波がおおむね収束した7月以降も事業継続されることになりました。どんなところが消費者に受けたのでしょう。きっかけは生産者支援と「3密」回避 世間が外出自粛ムード一色に覆われた2020年春、全国の飲食店がコロナ禍の“苦肉の策”として次々にテイクアウトやデリバリーに乗り出しました。 そんな中、都内のある青果卸売業者が始めたのは「ドライブスルー八百屋」というサービス。 配送センターにできた購入者たちの車列(画像:フードサプライ) 野菜生産者の支援と「3密」回避のために始めた取り組みでしたが、利用者から思わぬ反響を呼び、自粛が解けた7月以降も継続させることになったのだそう。 一体どんな背景があったのでしょうか。 「普段食べてる野菜よりおいしい」 事業者の名はフードサプライ(大田区東海)。 「ドライブスルー八百屋」を始めたのは4月9日(木)、東京都などに「緊急事態宣言」が発令された2日後のことでした。 普段は都内の飲食店などに野菜の卸売りを行っていた同社ですが、多くの店が営業短縮や休業に追い込まれ、取引先である野菜生産者たちはピンチに見舞われます。 そこで代表の竹川敦史さんが発案したのがこの「ドライブスルー八百屋」。文字通り、一般の消費者に自家用車で同社の配送センターを訪れてもらい、従業員が商品の野菜を車のトランクに積み込むというものです。 ドライブスルーで野菜を購入。どんな点が魅力なのか?(画像:フードサプライ) 商品はキャベツやタマネギ、長ネギ、ニンジンといった料理の定番野菜と、リンゴなど果物の詰め合わせ。その日その日の新鮮野菜を配送センター従業員が段ボールに詰め合わせて、値段は3500円(税込み)。お米5kg付きセットなら5000円です。 このサービスが思わぬ反響を呼びました。「普段スーパーで買って食べている野菜より何だかおいしい」という声が利用者から寄せられたのです。 ドライブ感覚で買い物を楽しむ親子ドライブ感覚で買い物を楽しむ親子 同社で取り扱う野菜は、市場で買い付けたもののほか、生産者から直接仕入れたものも。スーパーの店頭に並ぶ野菜より、収穫間もない新鮮な状態で消費者の手に渡すことができます。 利用客には、外出自粛中ほとんど家にこもり切りで行楽シーズンなのにお出掛けがかなわなかったという親子連れが多いのも特徴。子どもも一緒に車に乗ってやってきて、初めて見る配送センターの風景に興味津々の様子。 「これがなかなか良い気分転換にもなったみたいです。従業員がトランクに野菜の段ボールを積み込む作業を、後部座席のお子さんたちが熱心に見入っていました」 と、センターの現場を担当する同社の古町卓也さん。 野菜セットを自宅配送してくれるサービスも昨今は盛んですが、ドライブスルー形式の利点は、配送料が掛からないことだけでなく、この「ちょっとしたお出掛け気分」を味わえる点にもありそうです。外出がままならなかったコロナ禍においては特に。 利用者たちから寄せられた感謝や応援のメッセージに従業員も思わず感激(画像:フードサプライ) 同社にとっての「思わぬ反響」はもうひとつ。 すっかりリピーターになった利用客たちから、励ましや感謝のメッセージカードが寄せられるようになったのだそう。 配送センターの従業員たちは普段、一般の消費者と接する機会はほとんどありません。「お野菜とてもおいしかったです」という手紙や「コロナなんかふっとばせ」という子どもからの手書きメッセージに奮起して、野菜セットを買ってくれた利用客に向けて「ささやかなプレゼント」も添えるようになりました。 6月21日(日)の「父の日」には、ヒマワリの花を1輪。それから家庭ではなかなか買う機会がない、パイナップルの実を丸々1個など。 「今日もパイナップルある?」と車の窓越しに聞いてくる小さな子どももいて、コロナが無ければ出会うはずのなかった従業員とまちの親子の間に、小さな交流が芽生えました。 新しい消費行動とビジネスの可能性新しい消費行動とビジネスの可能性 外出自粛の期間中は、多い日で約1000組、自粛が全面的に解除された6月下旬現在でも300組ほどがリピーターとして利用を継続しているといいます。 新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う外出自粛は、さまざまな日常の不便を私たちの生活にもたらした一方で、新しい消費行動やビジネスの可能性も“置き土産”として残していきました。 古町さんは「生産者が丹精込めて育てた野菜を、新鮮な状態で消費者の皆さんにお届けしたい」と利用を呼び掛けています。 同社の配送センターがあるのは、都内では大田区京浜島と足立区保木間と国立市谷保の3か所。ちょっとした気分転換のドライブ代わりに「ドライブスルー八百屋」、なかなか新鮮な買い物体験になるかもしれません。
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