ワインオークションのプロが語る――「武器」と「教養」になる高級ワインの知識とは?

酒類全体の消費数量は下降するなかで、この10年、ワインの消費数量はほぼ右肩上がりの曲線を描いています。ワインの世界は非常に奥行きが深く、その間口の部分で止まっている人も多いのではないでしょうか。競売大手「クリスティーズ」のワイン部門で活躍してきた渡辺順子さんに、高級ワインについて話を聞きました。


ワイン市場に異変? コスパ重視から多様性へ

 日本における果実酒の消費数量は、2019年3月の国税庁発表の資料によると、2017(平成29)年度は10年前と比べて58.6%増となっています。2017年度は、2015(平成27)年度についで果実酒の消費数量が最も多く、この10年間、ワインの消費数量はほぼ右肩上がりの曲線を描いています。

酒類全体の消費量が落ち込むなかで、ワインの消費量は増えている。写真はイメージ(画像:Zachys)



 また、酒類全体における果実酒消費数量のシェアは、2017年度は4.3%で、10年前の2.6%と比べて1.7ポイント上昇。酒類全体の消費数量は下降していますが、飲酒習慣のある人たちに、ワインを楽しむ機会あるいは量が増えていることがわかります。ちなみに、国税庁のデータによると、個人のワイン消費量が最も多い都道府県は東京です。

 財務省による2018年の国別のワイン輸入量は、1位がチリ、2位がフランス、3位がイタリアで、4年連続でチリがトップです。しかし、同省の統計によると、2019年1月〜8月までのワイン(2リットル以下の容器入りにしたもの)の輸入数量における前年比は、チリが87.1%、フランスが114.4%、イタリア116.6%、スペインが117.9%と、ヨーロッパが軒並み増えています。

 これについて、 ワインメーカー大手のメルシャン(中野区中野)の広報担当者は、「欧州EPA(経済連携協定)が今年2月に発効されて、ヨーロッパ産ワインの価格が下がったことがその要因のひとつといえます。加えて、チリワインのような500円前後のコスパの良いものの需要がここ2年ほど停滞気味となり、ワイン市場の活性化のために昨年あたりから欧米のもう少し品質の高い1000円台のワインを、多様性を持たせて輸入する業社が増えました。それらの需要が伸びていることも原因に挙げられると思います」と話します。

 ワインは種類が非常に豊富で多様性もあるため、好きになればなるほど、徐々にランクが上のものに目移りしがち。そして、一旦上のランクのものを飲んでしまうと、下のランクにはなかなか戻れなくなるものといえるのではないでしょうか。

 この9月に、『高いワインー知っておくと一目置かれる教養としての一流ワイン』(ダイヤモンド社)という本が出版されました。著者は、競売大手「クリスティーズ」にて、アジア人初のワインスペシャリストとなった、渡辺順子さんです。デイリーワインの先に広がる世界を垣間見るべく、渡辺さんに直接お会いして話を聞きました。

 渡辺さんは現在、東京に拠点を移して欧米のワインオークション文化の日本での普及に務める傍ら、ワインコンサルタントとして投資指南からセミナー開催まで幅広く活躍しています。

1本の高級ワインとの出会いが、ガラリと人生を変えた

 ワインとは何の関係もない仕事をしていた渡辺さんを、ワインの道へと引き込んだのは、1本の高級ワイン「シャトー・ペトリュス」だったと話します。

『高いワイン』の著者、渡辺順子さん(画像:プレミアムワイン)



「シャトー・ペトリュス」の販売価格を日本の大手通販サイトで見てみると、グッドヴィンテージ(ぶどうの出来栄えが優れていた年)である2015年もので40万円台。グッドヴィンテージでないものでも、30万円台でした。

 渡辺さんはそれをオークションで落札したとのこと。ただ、その当時(1990年代後半)は高級ワインと言えど、まだ今ほど高値がつくことはなかったそうです。

 その「シャトー・ペトリュス」が想像をはるかに超えるおいしさで、ワインを見る目が変わり、仕事を辞めてワインの勉強のためにフランス留学。そののち、クリスティーズNY支社のワイン部門に入社しました。

 10年務めた同社を退職後、日本に拠点を移したきっかけは、日本のとある通販サイトでブルゴーニュの最高級ワイン「ロマネコンティ」が1000万円以上で売られているのを目にしたことからといいます。

「グッドヴィンテージではなく、オークションではさほど高く値がつかないようなもの、偽物ではないかと疑われるようなものが高額で販売されていました。その他の高級ワインも然りで、しかも誤解を受けるような説明が書かれているのです。それを見て、ワインの正しい知識の啓蒙と、オークションで信頼できる高級ワインを購入することを日本で普及させたいとの気持ちが強くなり、現在のビジネスを始めました」(渡辺さん)

 オークションは参加者からの「信用」が重要なため、主催者はワインに限らずすべてのものについて「来歴」を生産者に辿りつくまで調べるそうです。

 渡辺さんが著書『高いワイン』で紹介しているワインは、ニューワールド(新しいワイン生産国)のもので1万円前後のものもありますが、その多くが数万円以上。オークションに参加する人が適正価格を知る目安になりますが、一般の人がそう簡単に手をだせるワインとは言い難いものです。

「私がこの本を通じて一番伝えたかったことは、決してこれらを買って飲んでみてくださいということではありません」と渡辺さんは言います。

「武器」となるワインの知識とは?

 渡辺さんは著書への想いを次のように話します。

「高いワインは必ずと言っていいほど、ストーリー性があります。ワインを飲む飲まないにかかわらず、その最高峰にあるもののストーリーを知ることは、教養としてみなされますし、武器としても生かせることと思いました」

ワインオークション「ホスピス・ド・ボーヌ」の模様(画像:プレミアムワイン)



 同著書にはひとつの優れたシャトーを巡って国同士が争った歴史や、ロシア皇帝が「毒」を盛られないように、お気に入りのシャンパンボトルを透明にすることを要求したエピソード、生産者の「戦略」によって熱狂的崇拝者を増やし、ワインの価値を上げようとする「カルトワイン」のストーリーなど、興味深い話が様々に散りばめられています。

「ワインは、どんな場面でも、年齢や国籍などが違っても、(政治や宗教とは違い)話題にしやすいものです。小さな子どもでも面白いと思うような話も色々あります。今は日本も含め世界中で造られている飲みものなので、ワインの産地やそのストーリー、ちょっとした小話を知ることは、ビジネスツールになったり、初対面の人や食事の場などで会話を弾ませる手段となったり、一目置かれることにつながったりもします」

「ぶどう」という農作物が原料であるものが、何万、何十万という価格になるのにはそれなりの理由があり、それが比類なき味わいを育み、時にそのロマンが人々を熱狂させ、国や人の人生をも変える力を持つ。ワインとは実に不思議な飲み物であると、高級ワインの世界を覗いてみて実感しました。

 本書には、偽造ワインの見分け方なども書かれています。高級ワインには偽ものも数多く出回っていて、渡辺さん曰く、だまされないコツは「本物のラベルとの手触りを比較する」「木箱入りのものを買う」「信頼できる販売店から購入する」「来歴を調べる」「オークションで買う」とのこと。記者には無縁のレベルのワインですが、そんな話ひとつとっても、会話の広がるネタになりそうです。


日本でのワインオークションの模様(5枚)

画像ギャラリー

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