世の中は「解釈」次第でいかようにもなる 古きドイツの知恵がネガティブ感情を生きる力に変える

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世の中は「解釈」次第でいかようにもなる 古きドイツの知恵がネガティブ感情を生きる力に変える

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西宮ゆかり

哲学ライター

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一般的にネガティブな意味で受け取られがちな、イライラや怒り、悲しみといった「負の感情」。しかし物事はそう簡単ではないようです。哲学ライターの西宮ゆかりさんがドイツの哲学者・フリードリヒ・ニーチェの言葉を引用して解説します。

「恐怖心の正体は自分の心のありようだ」

 日常生活の中でイライラや怒り、悲しみ、落ち込みといった「負の感情」が湧き、つい自分を責めてしまうことがありませんか。そのようなとき、さまざまな視点を持つことが必要です。それすれば、自分自身の考え方を変えることができます。今回はドイツの哲学者であるフリードリヒ・ニーチェ(1844~1900年)の知恵を少し借りて、そういった視点を5つご紹介します。

苦悩のイメージ(画像:写真AC)



1.善悪の判断をしない
 人間は自分自身の感情を変えることはできません。しかし、「善悪の判断」自体は変えられます。なぜかとういうと、自然に湧き上がる感情に対して「善悪の判断」を下しているのは、言うまでもなく自分自身だからです。

 ニーチェは『たわむれ、たばかり、意趣ばらし』の中で、物事はどのようにでも解釈でき、解釈するのは結局自分であることを指摘しています。「負の感情 = 悪」と捉えてしまうと、焦りや嫉妬、自己嫌悪、自己否定、自己憐憫……といった余計な感情や考えが入り混じり、物事を冷静に判断することができなくなります。物事を冷静に見るために、まず善悪の判断を止めましょう。

2.「ダメな自分が怖い」恐怖心への対処
 そもそも自分を責める人は、自分が弱く、ダメな人間であることに恐怖を抱いている人とも言えます。弱くてダメな自分が怖いから、自分を責めることで奮い立たせているのです。ニーチェは『曙光(しょこう)』の中で、「恐怖心の正体は自分の心のありようだ」と言っています。つまり恐怖心を生んだのは他でもない、自分自身ということです。裏を返せば、そんな恐怖心を生んだ自分を変えられるのも、また自分自身といえます。自分で自分の心を変える意志を持ち、捉え方を変えるようにしてみましょう。

「自分の『なぜ』を知れば道が見える」

3.ありのままの自分を見つめる
 自分を責める人の大半は、「自分はもっと強くならねば」と考えているのではないでしょうか。でも最初から強い人って、この世の中にどのくらいいるのでしょうか。そもそも、「強い」とは何でしょうか。強そうに見えても、他人の見ていないところで努力をしていたり、逆に現実を直視しなかったりする人はいるわけです。

ポジティブなイメージ(画像:写真AC)



 ニーチェは『漂白者とその影』の中で、成功している人でも普通の人と同じように欠点や弱さがあることを指摘します。彼らは弱点を隠しているわけでなく、あたかも強さのバリエーションであるように見せます。それができるのは、自分の弱さや欠点を熟知しているから。他人はさまざまですが、自分は自分。強くなろうと思ってすぐになれるわけではありません。ありのままの自分を見て、今の自分ができる小さくても確実な一歩を考えましょう。

4.自分を観察する
 怒りや悲しみに負の感情を感じるのは、あなたの理想と現実に大きなギャップがあるからです。もし感じたら自分を観察するチャンスです。「自分はこれくらいのことが起こると『悲しみ』を感じる」などと、自分自身のキャパシティーが分かったり、「普段よりも疲れている」と観察できたりします。

 1888年に発表された作品『偶像の黄昏』の中で、ニーチェは「自分の『なぜ』を知れば道が見える」といいます。現実の自分が分かれば分かるほど、落ち込むことも減らせるでしょう。

5.「負の感情」を「問題解決」に変える
 負の感情をできるだけ感じたくないと思うのも人間です。負の感情を感じたら、感情に流されず、問題を解決する方向に考えを変えましょう。そのためには、冷静な思考や客観的な判断が必要になります。ささいなことでイライラするなら、心身に余裕がない証拠です。「何もしないでゆっくり休む」「リフレッシュをする」「今日は何もしない」というのもひとつです。実はニーチェも、自己嫌悪に陥ったらたっぷり眠ることだと、前述の『漂白者とその影』の中で書いています。

 いつまでも自分を責め続けるのは、辛いものです。今こそ視点を変え、自分を責めるのではなく、目の前の物事に対して現実的に対処していきましょう。

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