夫婦喧嘩の必殺フレーズ「仕事より育児のほうが大変」は、何の解決策も生まない不毛な言葉だ

「仕事より育児のほうが大変」というフレーズは、夫婦喧嘩における常套句のようなものです。しかしふたつを安易に比較したところで、問題の根本解決につながるのでしょうか。自身も子育て中のライター・秋山悠紀さんが解説します。


「二項対立」は問題解決につながらない

 子どもがいる共働き夫婦にとって、家事育児と仕事の両立は簡単なものではありません。さまざまな方法を試したり話し合いを重ねたりして、自分たちなりの正解を探し続けていることでしょう。

夫婦喧嘩のイメージ(画像:写真AC)



 多くの場合、専業主婦であろうと兼業主婦であろうと、家事育児をメインで行っているのは妻であり、夫は仕事に集中できる状態です。そんな「家のことを何もしない」夫への憤りから、「家事育児より仕事の方が楽」と、家事育児と仕事を比較する声も少なくありません。

 しかし筆者は、このように家事育児と仕事を「二項対立」で語ることは、問題の根本的な解決にならないと感じています。筆者自身の経験も含めてお話します。

「どのくらい苦労しているのか」の比較は不毛

 日本は他国に比べても、夫が家事育児をしない国だと言われています。実際に総務省が発表した「平成28年社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもがいる夫婦における1日の家事育児(買い物や介護等も含む)の時間は夫が1.23時間、妻が7.34時間。共働き世帯のみを対象とした調査を見ても、夫は0.46時間なのに対して、妻は4.54時間となっています。

 この数字だけを見ると、「夫は家事育児に非協力的である」と結論付けたくなります。しかし、一生懸命に仕事をして稼いだお金でベビーシッターや家事代行などで外注することも、立派な家事育児と言えるはずです。

 子育て世帯と言っても事情は人それぞれ。家庭によっては、勤務時間上どうしても家にいる時間が短くなってしまう人や、体調や諸事情によって仕事や家事育児に十分な時間が取れない人もいるでしょう。

 そうしたケースを鑑みず、物理的に何時間家庭内で家事育児をこなしたかを夫婦で比較することは、「どのくらい苦労しているのか」の比較にすり替わっている場合が往々にしてあるように感じられます。

「どれだけ大変か」を夫婦間で競った先にあるもの

 仕事と家事育児で、楽なのはどちらか。その答えを導き出そうとする先にあるのは、決して前向きなものではありません。

夫婦喧嘩のイメージ(画像:写真AC)



 まず、仕事でも家事育児でも大変さを競うことは、「どのくらい家庭に貢献したか」がその人の価値基準になる怖さがあります。どちらが何をどのくらい分担しているにせよ、夫婦の役割を家庭への貢献度だけで計っていけば、たとえば病気になって働けなくなったり、家事育児を十分に行えなくなったりしたらどうなるか。きっと、簡単に家庭は崩壊するでしょう。

 また、「あなたの仕事と私の家事育児、どちらが大変なのか」というマウンティングは「より大変な思いをして、苦しんでいる方が偉い」という考え方に行き着きます。この考えの行きつくところは、ズバリ「死」です。苦労や不幸を競い合えば、最終的に死という最たる苦しみを味わった方が偉いという結論に至ってしまう可能性も、ゼロとは言い切れません。

「こっちの方が大変」は「あなたは楽している」と同じ

 そうは言っても、仕事に追い詰められて家事育児をする余裕がなかったり、相手にもっと家事育児をして欲しいと苦しい思いを抱えていたりする人も多いのが現実です。「仕事と家事育児、どちらが大変か」という議論の根本には、「自分の苦労を共感してほしい」「少しでいいから協力してほしい」といったささやかな願望があることがほとんどでしょう。

夫婦喧嘩のイメージ(画像:写真AC)

 筆者は現在、1歳の子どもを保育園に預けて仕事をしていますが、夫は仕事が忙しいため、平日土日問わずほぼワンオペ育児。子どもが生後半年くらいで、まだ保育園に預けていなかった頃はすでに仕事復帰をしていたこともあり、精神的にも肉体的にもボロボロでした。

 そんなとき、最も身近にいる夫にSOSを投げた際に「こっちも仕事が大変だから」と言われたことで、つい「就業時間もなく、自分のペースでこなせない家事育児の方がよっぽど大変だよ」と言ってしまったことがあります。

「自分は苦労している、だから少しは協力して欲しい」という気持ちで言ったこの言葉で、夫は自分の仕事を軽く見られたように感じ、逆に夫の家事育児へのやる気を遠のかせてしまったことがあります。筆者はこのとき、「私の方が大変」と相手に言うことは「あなたは楽している」と言うことと同義なのだと気付きました。

感謝と労い、歩み寄りが必要

「こっちの方が大変」「そっちは楽」と、自分の主観で仕事と家事育児の大変さを対立させても、議論は平行線のまま。仕事も家事育児もその人自身の力量や感じ方、業務内容や子どもの状況などによって多様に変化するものなので、どちらが大変かを語ることにはあまり意味がないように思えます。

夫婦喧嘩のイメージ(画像:写真AC)



 そして家事育児の分担が上手くいかないとき、自分の「苦労アピール」をすれば良い解決策に繋がるわけでもありません。耳にたこができるほど言われていることですが、結局、円満な家庭生活には相手への感謝や労いを第一に、具体的に話し合いやすり合わせを重ねていくことが遠いようで一番の近道なのでしょう。

 仕事も家事育児もどちらも大変。ふたつを比べて優劣をつけることなく、その前提を夫婦で共通認識として持つことは、実はとても重要なのではないでしょうか。


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