こんなに暑くて五輪開催できる? 灼熱都市「東京」を冷やす都の秘策に迫る

2020年の五輪開催を控え、熱中症などの健康被害を参加選手に引き起こすとして、ヒートアイランド現象の緩和策に注目が集まっています。いったい都ではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。


都市の緑化は「一挙両得」の政策

 35度を超える猛暑日が続く中、甲子園球場では今年も高校球児たちが熱戦を繰り広げています。その一方で近年、地球温暖化やヒートアイランド現象から昼間の屋外での運動を控えるよう配慮の声が上がっています。

 そうした世間の流れを受け、甲子園大会では給水タイムや休養日が設定されるようになり、もっとも気温が上がる時間帯には、試合をせずに昼休みにあてるといった措置なども講じられるようになりました。将来が有望な高校球児の身体を酷使させない心遣いは、時代の流れといえます。

ヒートアイランド現象に見舞われた東京のイメージ(画像:写真AC)



 しかし2020年に開催される東京五輪は「アスリートファースト」を謳いながらも、炎天下の競技への配慮が欠けていると指摘されています。もっとも心配されているマラソン競技は、早朝スタートで対応するようです。

 また、競技者と一緒に大会を盛り上げる観戦者は、冷房設備がない灼熱のスタジアムで応援することになります。東京五輪の暑さ対策は、後手に回っていると言わざるを得ません。

 東京都や国土交通省、環境省は少しでもヒートアイランド現象を緩和しようと、これまで対策を講じてきました。緩和策のひとつとして、特に力を入れているのが「緑化」です。

 アスファルトやコンクリートで覆われている面積が広い東京は、太陽の熱がこもりやすく、それが気温を上昇させる原因となっています。緑や土を増やすことで、ヒートアイランドの緩和効果が生まれるのです。

 東京ではアスファルト舗装の道路を土へと戻すことは、道路交通の観点や砂埃による被害が出るため非現実的です。その代替案として緑化が推進されるわけですが、都市の緑化は気温を下げる以外に、副次的な効果も見込めます。そのため、一挙両得の政策として行政は積極的に緑化に取り組むようになりました。

「公開空地」という魔法のような制度

 緑化推進の初手は、なによりも緑地を拡大させることです。しかし、東京都心部は高層ビルが立ち並び、新たな公園をつくる余地が少ないのが最大の悩みとなっていました。

広い公開空地がある2014年オープンの虎ノ門ヒルズ(画像:写真AC)



 公園は整備費や維持費がかかる一方、公園ができることで事務所や工場といった「税金を納めてくれる企業」が誘致できなくなります。行政にとって公園をつくる・広げることは贅沢な施策であり、「金食い虫」でもあるのです。

 公園は容易に増やせないものの、緑地は増やしたい――。そんな相反する悩みを抱える東京都に、魔法のような制度が生まれます。それが、「公開空地」と呼ばれる制度です。

 公開空地は民間の建物・敷地の一部を、誰もが使用できるように開放したオープンスペースです。民有地であるために「公」園ではありませんが、公園に準じるオープンスペースとして広く地域住民に活用されることが期待されました。

 公開空地を地域住民が使えるオープンスペースとして開放しただけでは、土地・建物の所有者は管理コスト・手間といった負担が増大するだけです。そこで、公開空地を設けると建物の「容積率」を緩和できるインセンティブを与えられました。

 容積率とは平たく言えば、建物を高くできる上限値です。容積率が緩和されれば、ビルをもっと高くできるようになります。不動産価値が高まれば、それは賃料にも反映されます。公開空地を設けることは、建物・土地の所有者にもメリットを得られるのです。

 公開空地による容積率ボーナスを想定して設計された高層ビルは、次々に誕生しています。2014年にオープンした虎ノ門ヒルズ(港区虎ノ門)は広い公開空地があり、そこには多くの緑が植栽され、ベンチが置かれています。

 現在では、近隣オフィスで働く人たちがランチタイムにやってきて、お弁当を広げたり、コーヒー片手に談笑したりする光景を目にできます。虎ノ門ヒルズを建設した森ビルは、特に緑化に力を入れていることでも知られています。

約20年前から始まった都内の屋上緑化

 公開空地が制度化されたのは、最近の話ではありません。しかし、2007(平成19)年に東京都が「公開空地等みどりの指針」を策定したことで、東京都心部の公開空地が加速的に増加しました。

 こうして、ヒートアイランド・東京でも緑化に取り組み、都市を冷やそうとする試みが進んでいます。しかし、公開空地によって緑地を多く捻出しても、まったく足りていないのです。

 そこで、国土交通省が着目したのは、ビルの屋上です。従来、高層ビルの屋上は室外機などの空調機器、給水タンクなどが設置されています。また、超高層ビルではヘリポートとして活用されるケースも見られます。

高層ビルの屋上緑化のイメージ(画像:写真AC)



 そうした屋上の活用事例はありますが、概して屋上は常時活用されていません。そうした状況を踏まえ、2000(平成12)年頃から国土交通省が推進役になって東京都内における建物の屋上を緑化する政策が奨励されました。

 当時、屋上緑化の総面積は全国で約13万5000平方メートルしかありませんでした。国交省が入る合同庁舎3号館には、屋上に庭園を開設。屋上緑化の普及啓発を目指しました。また、地方自治体レベルでも、屋上緑化するための補助金を創設し、個々の家の屋上でも緑化促進を図りました。

 屋上緑化と一口に言っても、家の上に土を盛り植物を植えるわけですから、屋根の耐荷重が必要です。また、定期的に散水することになりますから、それなりの排水設備も整えなければなりません。

 そうしたハード面の整備もさることながら当時は屋上緑化が少なかったこともあり、「屋上緑化に適した樹種は何か」といったことも手探りでした。

求められる中長期的な視点

 試行錯誤を繰り返した結果、2016年には単年で約27万6000平方メートル、累計で約471万9000平方メートルもの屋上緑化が創出されるまでに漕ぎつけました。それでもヒートアイランド現象を解消するまでには至りません。そこで、さらに繰り出されたのが壁面緑化です。

 屋上に比べれば壁の面積は圧倒的に広く、それらが緑化されれば屋上緑化以上の効果が得られます。2017年から、国土交通省は東京・千代田区の日比谷公園内で壁面緑化の実験を繰り返しました。同実験では「壁面緑化に適している樹種は何か」といったことや、壁面緑化の最新設備などが試されています。

日比谷公園では、緑化によるヒートアイランド緩和策の実証実験がおこなわれた(画像:小川裕夫)



 緑化によって下げられる気温は、研究結果から2~3度程度と試算されています。数字で見ると微々たる差に思えますが、2~3度の違いはアスリートの身体に大きな影響を及ぼします。これらの実験は東京五輪までに、東京のヒートアイランド現象を少しでも緩和することを目標にしています。

 ヒートアイランド・東京を冷やす施策には、中長期的な視点が必要です。五輪を目標に緑化の研究を進めることは、拙速と言われても仕方がない面もあります。それでも緑化の取り組みを急ぐのは、酷暑で五輪を開催すると選手たちのパフォーマンスが低下するからです。高気温が原因で選手が体調不良を起こし、最高のパフォーマンスを発揮できなければ、せっかくのスポーツの祭典が台無しになってしまうのです。


【写真】緑化対策は、都電荒川線の軌道内でも取り組まれている

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