時代遅れなんてとんでもない 路面電車が「新しい公共交通」と呼ばれる四つの理由

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時代遅れなんてとんでもない 路面電車が「新しい公共交通」と呼ばれる四つの理由

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小川裕夫

フリーランスライター

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都内の地域住民に愛されるほのぼのとした路面電車。一般的に「ノスタルジー」なイメージとして語られがちの路面電車ですが、実は「新しい」のだそう。鉄道に関する著作があるフリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

都民から親しまれた都電

 2020年1月、JR御茶ノ水駅近くの道路から戦前期に使われていた都電の線路が露出し、ちょっとしたニュースになりました。

 かつての東京都内には、40路線もの都電が走っていました。それだけ多くが走っていたわけですから、都電は都民から親しまれる存在であり、日常生活に欠かせない移動手段でもありました。

2015年にデビューした荒川線の最新型車両8900形(画像:小川裕夫)



 しかし、都電の存在感は時代とともに揺らぎます。高度経済成長期、国民の所得が向上したことで東京にはマイカーがあふれ、都電と一緒に道路の上を走る光景が当たり前になったのです。

 自動車が増えるにしたがい、都内の道路は渋滞が頻繁に発生。そして、渋滞は慢性化し、社会問題になっていきます。

そして残った都電荒川線

 渋滞の原因としてやり玉にあげられたのが都電です。

 当時、都電は道路を占領しているように捉えられ、自動車交通を阻害する邪魔者として扱われました。そのため、都民の間から廃止論が高まったのです。

 廃止を望む都民の声を受け、東京都は次々に都電を廃止していきました。代替として、地下鉄やバスが整備されたことも都電廃止の流れを後押しします。その結果、現在は早稲田~三ノ輪橋間を走る都電荒川線だけが残りました。

 都電は荒川線のみですが、都内にはもうひとつ路面電車が走っています。それが三軒茶屋駅と下高井戸駅間を走る東急世田谷線です。

“やさしい空間づくり”をコンセプトにした世田谷線の300形(画像:小川裕夫)

 世田谷線は自動車と一緒に道路を走る区間がないため、路面電車っぽさを感じさせません。それでも、かわいらしい車両が走り、沿線住民から親しまれる路面電車です。

 荒川線と世田谷線、両者に共通するのは沿線の街や行き交う人々、利用客がほのぼのとした雰囲気を漂わせ、のんびりとした時間を感じさせてくれることです。

変化する路面電車

 そうした雰囲気も相まって、荒川線・世田谷線のような路面電車は「昔懐かしい」「昭和っぽい」といった、ノスタルジーで語られることが少なくありません。

 廃止で不要になった路面電車の車両は自治体や市民の有志に引き取られ、それらは公園などに展示・保存されています。そうした保存・展示された車両で子どもたちが遊ぶ一方、現役時代を知る大人たちは目を細めて往時を懐かしみます。

アスファルトが剥がされたお茶の水橋から出現した都電の線路(画像:小川裕夫)



 路面電車がノスタルジーを含んでいることは否定できませんが、現役の車両は最新鋭の技術が盛り込まれているため、それだけで語ることはできません。最近は路面電車を取り巻く環境も変化しているのです。

路面電車が新しい四つの理由

 現在、路面電車に対する見方は一周回って、「新しい」「次世代を担う」といった言葉で再評価される兆しが出てきています。

 路面電車が新しい公共交通と呼ばれる理由はいくつかありますが、主に

・すぐに乗れてすぐに降りられるといった小回りがきくこと
・バリアフリーのため、誰もが簡単に利用できること
・バスに比べて定時性があり、輸送力もあること
・電気を動力にしているので環境に優しいこと

などが挙げられます。

 路(6)電(10)の語呂合わせから、6月10日は路面電車の日に制定されており、東京都交通局は同日の前後の日曜日に都電の荒川車庫で路面電車の日のイベントを開催してきました。

荒川車庫の様子(画像:写真AC)

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、残念ながら2020年は同イベントの中止がすでに発表されています。

 イベント開催を楽しみにしていた沿線住民や利用者、鉄道ファンにとっては残念ではありますが、イベントが開催されなくても都電や世田谷線は変わらずに運行しています。都電や世田谷線を楽しむことはできるのです。

入門「撮り鉄」のススメ

 のんびりと走る都電や世田谷線に乗って、小旅行をする。沿線を散策し、風景や咲いている花をめでる、おいしい食べ物に舌鼓を打つ。それぞれの楽しみ方ができます。

 荒川線の1日乗車券は400円、世田谷線の1日乗車券は340円と格安なので、思い立った日に気軽に出掛けることもできます。

 せっかく都電や世田谷線の沿線に出掛けるのですから、乗る・沿線を散策する・おいしいものを食べるといったことだけではなく、「撮り鉄」(鉄道の写真撮影を趣味とする人)にもチャレンジしてみてもいいでしょう。

子どもの「撮り鉄」イメージ(画像:写真AC)



 JRなどの電車とは異なり、都電や世田谷線はゆっくり走っています。そのため、鉄道撮影に慣れていない初心者でも撮りやすい被写体です。

 撮り鉄と聞くと、大きな一眼レスにごつい三脚といったイメージがあり、身構えてしまいます。

 しかし、荒川線や世田谷線ならスマートフォンでもきれいな写真が手軽に撮影できます。高価な機材などなくても、肩肘張らずにスマートフォンでチャレンジできるのです。都電や世田谷線のいいところは、そうした敷居の低さにもあります。

近年高まる路面電車の再評価

 都電と同様に、国内各地で走っていた路面電車は高度経済成長期から一斉に廃止、撤去されていきました。それでも、今もなお元気に路面電車が走っている都市がいくつかあります。

 近年の路面電車を再評価する機運もあり、栃木県宇都宮市は路面電車を新たに建設することを決断しました。宇都宮市は2022年度内に一部の路線を開業させるべく、現在は急ピッチで工事が進めています。

宇都宮駅前には次世代型路面電車(LRT)の建設を宣伝する看板が設置されている(画像:小川裕夫)

 路面電車には、まだ旧時代の公共交通というイメージは強く残っています。しかし、実際に乗車してみると、「こんなに便利な乗り物なんだ!」ということを実感するでしょう。

 路面電車は、決して時代遅れの乗り物ではありません。

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