妻の「感情のサンドバック」になりがちな夫
イラストレーターのやまもとりえさんが2019年7月12日(金)に、自身のツイッターで公開した漫画が話題になっています。内容は、妻が流産したという男性の話。ショックを受ける妻に対し、懸命に慰めようとした男性ですが、その男性本人も深い悲しみの中で苦しんでいたという作品でした。
筆者も数年前、後期流産を経験しました。妊娠15週を過ぎた頃の、安定期直前の出来事でした。こういった筆者の経験から、漫画で描かれていた流産における夫の苦悩や、夫婦としての「前の向き方」を考えます。
流産とは、医学的には妊娠22週未満で胎内にいる赤ちゃんが亡くなってしまうことを指します。しかし、法令上では12週を超えると「死産」の扱いになるため、死産届を提出し、火葬許可証をもらう必要が出てきます。
筆者の場合は進行流産だったため、火葬できる「子ども」がありませんでした。「火葬さえしてあげられないなんて」と、書類を書きながら区役所の窓口で号泣したのを今でも鮮明に覚えています。
流産の詳しい原因は分かりませんでした。主治医からは「妊娠や出産、命の誕生は不確実なことが多い。流産は決してあなたのせいではない」と言われましたが、「ああ、そうか」と簡単に納得して元気にはなれませんでした。
流産の手術を終えた後、筆者はしばらく仕事を休んで自宅で療養していました。しかしショックからなかなか抜け出せず、泣きながらスマホで「流産 原因」「流産 次の妊娠」などと検索しては、悲しみやイライラを夫に当たり散らす日々。夫は完全に筆者の感情を受け止める「サンドバック」でした。
夫は当時について、「君が立ち直るために必要な工程だったと思うよ」と振り返ってくれます。しかし、一方的に相手から「辛いんだよ!」という感情をぶつけられるのは、非常に心苦しいものがあっただろうなと、今になって反省しています。
男性も感情を押し殺さなくていい
また筆者が夫にぶつけていたのは、「自分だけが辛い」「男性はこの悲しみを分かるわけがない」という気持ちだけではありませんでした。感情を受け止めながらも、時折「また妊娠できるよ」「あんまり考えすぎず、楽しいことだけ考えたら」と前向きな言葉を投げかけられることにも、怒りをぶつけていたのです。
当時の筆者は、天国に逝ってしまった赤ちゃんに対して、夫にも一緒に悲しんでほしかったのです。
流産した妻を持つ夫はきっと、「男なんだから泣くわけにはいかない」「夫の自分は悲しんだりせず、しっかり妻を支えなければ」と思うでしょう。しかし、男性だからと言って感情を押し殺す必要はまったくありません。
また、喪失感や悲しみにしっかり向き合わず、夫婦関係に影響を及ぼすことも往々にしてあります。
言葉や涙で悲しみを表現することは、妻と一緒に赤ちゃんを弔うことにもつながります。そしてなにより、「夫も赤ちゃんを亡くして辛いんだ」と妻が理解することは、妻を元気づけたり、励ましたりすることよりも重要だと感じます。
悲しみが少しずつ癒え始めてきた頃、筆者夫婦は当時住んでいた中野区のお寺に出向き、赤ちゃんの水子供養をしました。仰々しいものではありませんでしたが、しっかりとした形で夫婦が一緒に弔うことで、ともに前を向いて、大きな一歩を踏み出すことができました。
夫との感情の共有が立ち直る一歩に
流産直後の筆者に夫がくれた言葉があるので、最後に紹介します。今でも覚えています。
「妊娠は母体が存在しないとできないから、母体を危険な状態にしないような仕組みになっているんだと思う。流産はとても悲しいことだけど、赤ちゃんは君の体を守るために自ら命を閉じてくれた。僕は、いま君が無事であることに対して、赤ちゃんに感謝をしなければいけない」
流産は誰のせいでもありません。だからこそ、ただ素直に悲しんでいいし、泣いていいのです。それは妻も夫も同じです。そんな風に、夫婦で少しずつ乗り越えてほしいと筆者は思います。