憂うつな気分を漫画で和らげよう
長いGWが終わり、7月まで祝日がない。月曜日がなんだか憂うつ。この時期はそんな気持ちの人が多いように感じます。
「愛蔵版 フルーツバスケット」第1巻の表紙(画像:白泉社)
「学校が、仕事が、毎日の生活が楽しい!」
そう生きていければ一番いいのですが、誰もがそういうわけにはいきません。それが人生です。大なり小なり、人はそれぞれ周りには分からない何かを背負って生きています。
自分の問題に目を向けていると、余裕がなくなり、周りに優しくすることなんてできません。逆に人を傷つけてしまうこともあります。そんな自分自身が嫌になり、さらにどんどん悪いほうに目を向けてしまうことも……。
今回は、そんなあなたの抱えているものを、解決はできないけれど、隣で一緒に寄り添い、憂うつな気分を和らげてくれるような優しさで溢れている漫画を紹介したいと思います。
『フルーツバスケット』はどんな作品?
ところで皆さん、ご自身の十二支(じゅうにし)を知っていますよね。十二支には、犬はいても、なぜか猫はいません。なぜ猫が十二支に含まれなかったのか。それについて、こんな話があります。
昔々、神さまが動物たちに言いました。
「明日、私が開く宴会に招待してあげましょう。決して遅れないように」
それを聞いたいたずら好きのネズミは、近所に住んでいた猫に「宴会の日は明後日だ」と嘘をついてしまいます。当日、ネズミは牛の背に乗り、宴会場の前でヒラリと着地。その後から牛、虎と続き、宴会は朝まで楽しく行われました。騙された猫だけを除いて……。
「愛蔵版 フルーツバスケット」第2巻の表紙(画像:白泉社)
今回紹介する漫画『フルーツバスケット』(高屋奈月、白泉社)は、草摩(そうま)家の分家に居候することになった主人公・本田透と、動物憑きの奇妙な体質を持つ草摩家の人々の交流を描いた物語です。少女漫画雑誌「花とゆめ」(同)で1998(平成10)年から2006(同18)年まで連載されていました(全23巻)。
草摩家の人々は、十二支と、十二支になれなかった猫の物の怪(もののけ)に憑かれており、異性に抱きつかれると、その動物になってしまうのです。
透は、誰よりも人を思いやれる優しい少女です。物語の登場人物は、誰もが傷つき、いつも悲しさを抱えながら生きています。他人から見ると自分勝手に見える考えや言動の根底にあるものは、大切な誰かへの思いだったり、大切な誰かのための思いだったり……。
透というひとりの少女は微力で、すべての悩みを解決することはできないけれど、それでも悲しみや苦しみに寄り添い、一緒に考え歩むことで、登場人物たちは抱えているものから救われていくのです。
世界で一番売れた少女漫画が描く、本当の優しさと
透と草摩家の人々の交流を通して描かれるのは「本当の優しさ」です。目を背けて見ないふりをしたり、無理をして嫌々それを受け入れたり、味方のふりをして自身の承認欲求のはけ口にしたり……。世の中に充満している「見せかけの優しさ」ではなく、心からその人を大切に思う優しさ。
この漫画を読んでいると、何度も何度も涙が勝手に流れて止まらなくなります。登場人物に向けた透の感情や言葉が、そのまま読者に心に刺さってくるのです。
ほかの漫画でもそういったことはありますが、『フルーツバスケット』は刺さり方が深く、自然で、温かい。そして読んだ後、自分の抱えているものが少しだけ軽くなり、世界が変わって見えるのです。
決して大げさじゃない内容だから、この『フルーツバスケット』は、ギネス公認「世界一売れた少女漫画」となったのではないでしょうか(2018年11月時点で世界累計発行部数は3000万部を突破。2007年の段階で「もっとも売れている少女漫画」として、ギネスブックに認定されています)。
とげとげしい時代に必要な作品
『フルーツバスケット』は2度目となるテレビアニメ化で、現在放送中です。2001(平成13)年に1度アニメ化されましたが、当時はまだ原作が連載中だったこともあり、最終話のアニメ化にまでは至りませんでした。
「愛蔵版 フルーツバスケット」第3巻の表紙(画像:白泉社)
今回も原作を非常に大切にしており、セリフの一つひとつまで丁寧に再現されていることに、感動しながら見ている人も多いことでしょう(私もそのひとり!)。
この作品が完結(2006年)からずいぶん経ち、改めてテレビアニメ化されたことに、私はとても意味があると感じています。SNSやネットニュースなどで誰かを傷つけるような情報が多く流され、その結果、なんだか今はとてもとげとげしい世の中になっている気がするからです。この状態は悲しいし、何より辛くないでしょうか?
私はそんな今だからこそ、この『フルーツバスケット』を皆さんに読んでほしいと思っています。この作品に描かれたメッセージは、きっとあなたに必要なことを教えてくれるはずだから――。