東京大学法学部出身の総理大臣、実は一人しかいなかった! 意外過ぎる理由とは
エリート中のエリートが集まる東京大学法学部は『東大王』(TBS系)や『林修の今でしょ!講座』(テレビ朝日系)など、東京大学(文京区本郷)や東大生を扱ったテレビ番組が人気を呼んでいます。東京大学は言うまでもなく日本最高峰の大学であり、中でも全国からエリート中のエリートが集まる法学部は数多くの政治家や官僚を輩出している……そんなイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。 確かにそれは間違いありません。しかし、一方で日本の歴代内閣総理大臣全63人のうち、「東京大学法学部出身者」はわずかにひとりしか存在しないのです。 平成:令和の首相は早稲田大学が多い 上記を実証するためにすべてをリスト化したいところですが、それはあまりに膨大になるため、ここでは1993(平成5)年の55年体制(与党・第1党として自由民主党が政権を維持し、野党・第1党を日本社会党が占めていた体制)崩壊後の、総理大臣の出身大学のみを挙げます(以下文中敬称略)。 ・第79代:細川護熙(上智大学法学部) ・第80代:羽田孜(成城大学経済学部) ・第81代:村山富市(明治大学専門部政治経済科) ・第82~83代:橋本龍太郎(慶応義塾大学法学部) ・第84代:小渕恵三(早稲田大学第一文学部) ・第85~86代:森喜朗(早稲田大学第二商学部) ・第87~89代:小泉純一郎(慶応義塾大学経済学部) ・第90、96~98代:安倍晋三(成蹊大学法学部) ・第91代:福田康夫(早稲田大学第一政治経済学部) ・第92代:麻生太郎(学習院大学政治経済学部) ・第93代:鳩山由紀夫(東京大学工学部) ・第94代:菅直人(東京工業大学理学部) ・第95代:野田佳彦(早稲田大学政治経済学部) ・第99代:菅義偉(法政大学法学部政治学科) 上記14人のうち東京大学OBは鳩山由紀夫のみであり、その鳩山も法学部ではありません。 東京大学(画像:写真AC) つまり、たったひとりしかない東京大学法学部出身の総理大臣は、55年体制崩壊以前の49人のなかにいるということになります。 唯一の出身者は大正の終わりに誕生唯一の出身者は大正の終わりに誕生 唯一の東京大学法学部出身の総理大臣とは誰なのか? また、なぜひとりしか存在しないのか? 明治時代より順を追って検証していきましょう。 前提として確認したいのは、明治・大正の総理大臣はほとんどが大学を卒業していないということです。1885(明治18)年に就任した日本の初代総理大臣・伊藤博文から、1924(大正13)年に就任した第23代の清浦奎吾(けいご)まで、大学を卒業した人物はひとりしかいません。 これは当たり前のことで、当時の首相たちの若き日はまだ徳川幕府の時代であり、日本に大学という高等教育機関自体が存在していなかったからです。 ただし、そのなかで、第12、14代の西園寺公望(さいおんじ きんもち)のみ大卒の経歴の持ち主です。西園寺はフランスのソルボンヌ大学(パリ大学の前身のひとつ)に留学しているからです。 パリの街並み(画像:写真AC) 日本初の大学は1877年に生まれた東京大学ですが、この大学は東京大学の前身のひとつではあるものの、イコールではありません。したがって「旧東京大学」と呼ばれることがあります。 そして、「旧東京大学」の法学部は総理大臣を輩出しています。それは第24代の加藤高明で、その就任は開学から実に47年後の1924(大正13)年でした。 現在の東京大学とは異なりますが、この加藤こそ事実上唯一人の東京大学法学部出身という肩書を名乗れる総理大臣なのです。加藤は在任中に他界、そして後任となる第25代・若槻禮次郎(れいじろう)の時代に、元号が大正から昭和に代わり、やがて日本は激動の時代を突入していきます。 戦後も東京大学法学部出身はひとりもいない戦後も東京大学法学部出身はひとりもいない ここまで読んで、 「昭和、平成、令和と東京大学法学部出身の総理大臣がひとりもいないということは、あり得ないのではないか?」 と思う人も多いことでしょう。 確かに、そのような疑念を持つのは仕方ありません。なぜなら、岸信介(第56~57代)、佐藤栄作(第61~63代)、福田赳夫(第67代)、中曽根康弘(第71~73代)、宮沢喜一(第78代)ら、高度経済成長期以降の歴代総理大臣は、赤門で有名な“あの大学”の法学部を卒業しているのです。 しかし、明治・大正生まれである彼らの在学時、当該大学は東京大学ではなく「東京帝国大学」という名称でした(それ以前は「帝国大学」)。つまり全員、東京大学法学部ならぬ東京帝国大学法学部出身──ということになります。 東京大学のある文京区本郷の街並み(画像:写真AC) また少しややこしいですが、東京帝国大学法学部は「法科大学」という名称だった時期もあります。日本国憲法下初期の総理大臣である吉田茂(第45、48~51代)、片山哲(第46代)、芦田均(第47代)、鳩山一郎(第52~54代)はいずれも東京帝国大学法科大学出身者でした。 東京帝国大学が東京大学に改称したのは終戦から2年目の1947年(昭和22)年9月のこと。つまり、東京大学になってから2021年2月までの約74年間、同大学法学部は、総理大臣となる人物をひとりも生んでいないのです。これは意外すぎる歴史だといえるでしょう。
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