止まらない少子化社会が生み出した「小1プロブレム」とは何か? 解決に挑む江東区・杉並区の取り組みとは
幼保小連携のきっかけは2010年「幼保小(幼稚園・保育所・小学校)」もしくは「保幼小」と、自治体によって表現は異なりますが、幼児期から小学校へのスムーズな進学を重要視する動きが広まっています。 文部科学省は2010(平成22)年、「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議」と題する会議を計10回開催しました。 「幼児期から大学までの体系的な教育の実施」を掲げたこの会議では、幼稚園や保育所を卒園したばかりの子どもたちが、小学校入学後に混乱せず学べるにはどうすべきかを取り上げています。 幼稚園と保育所は幼児が初めて保護者から離れ、集団生活を行う場であるため、子どもに遊びを通じて学ぶ姿勢を身につける重要な役割を担う接続機関として役割を求めたのです。 文部科学省が戦後長らく続いていた幼稚園と保育所のシステムに新たな役目を与えようとした背景には、1990年代後半から問題視されてきた「小1プロブレム」があります。 小1プロブレムの解決を目指して 小1プロブレムとは、先生の話を聞けない、授業中にウロウロするといった、小学校1年生の問題行動です。 小学校のイメージ(画像:写真AC) 入学後にこの問題を解決しようとすると、多くの時間と労力がかかります。文部科学省は幼稚園や保育所と小学校との連携を深めていくことで、園児から児童へのステップアップをクリアできると考えたのです。 背景にある少子化背景にある少子化 教育システムが大きく変化していないなか、小1プロブレムは20世紀の終わりに表面化。その原因のひとつとして考えられるのが、少子化です。 小学校のイメージ(画像:写真AC) 身近に小学生がおらず、学校でどういったことをするのか分からないまま就学すると幼稚園や保育所と勝手が異なり、子ども本人が戸惑う結果となります。 掃除や給食当番など、集団生活を送るうえで必要なことも少なくありません。皆と協力することに慣れていないと苦痛に感じることもあるでしょう。 そのため、園生活と小学校生活の段差を小さくし、就学後に落ち着いて行動ができるよう下地を作ることが求められているのです。 2018年度から施行された「幼稚園教育要領」、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」と「保育所保育指針」では就学に向けた指導や連携に関する文言が盛り込まれています。 2012年から始まった江東区の取り組み 東京都の自治体ではこれに先駆けるように、江東区と杉並区が小学生との交流を実施するなど、実践的な幼保小連携に力を入れています。 江東区では2012年1月に「江東区保幼小連携教育プログラム」を策定し、季節ごとに就学に向けた交流を行っています。 江東区(画像:(C)Google) 新型コロナウイルスの影響で例年通りに進んでいませんが、2020年度は4月から6月にかけて、年長児が近くの小学校の校庭を散歩したり、花壇を見たりするなどして、学校の雰囲気を楽しむことからスタートしています。 児童といきなり交流するのではなく、校舎の外から歩かせるのは「小学校はこのような場所」と距離感を徐々に縮めさせる意図があります。 同時期には小学校の先生と幼稚園や保育所の先生が春から入学した新1年生について情報交換会を行い、お互いに今後の指導に活用しています。 取り組み強化で就学後のズレを解消取り組み強化で就学後のズレを解消 さらに6月から9月にかけては、高学年と年長児が交流し「小学生のお兄さんとお姉さん」への憧れや親近感を抱かせる大切なイベントが行われます。 このほかにも過去に、小学校の学習発表会の見学も行われており、小学校行事を体験することで就学への期待感を高める工夫をしています。 江東区のように一年を通じた交流は、年長児自らが「小学校ではこういうことをする」と考えるようになり、就学後のズレを解消する取り組みといえるでしょう。 就学前後の9か月間を重視する杉並区「杉並区幼保小接続期カリキュラム・連携プログラム」を実施している杉並区は、小学5年生または、小学1年生の児童と年長児の交流を重視しています。 年長児が入学するときに最高学年になる5年生と読み聞かせを通じて交流することで、お互いが「来年は6年生になる」「卒園したら小学生になる」といった自覚を促す狙いがあります。 杉並区(画像:(C)Google) また、入学へのカウントダウンが始まった1月から2月に、1年先輩である小学1年生の授業に参加をする取り組みも行われています。 勉強に対して抵抗感を抱く年長児が実際の授業を体験することで、自然と「小学生になったら教科書で楽しく勉強する」と感じてもらうことが目的です。 杉並区の特徴は、入学前だけでなく、1年生の7月までを幼保小接続期間と考えている点です。 幼稚園や保育所とのギャップを埋めるため、入学直後は黙々と行う勉強中心ではなく生活科や体育の授業を通じて集団生活やクラスメートと協力することを学んでいきます。 求められる子ども同士の交流求められる子ども同士の交流 少子化が進み、就学前に兄弟姉妹から小学校の様子を知る機会が減っています。 実感がわかないまま1年生になると、それまで過ごしていた幼稚園や保育所との違いに驚き、落ち着かないまま問題行動へとつながりかねません。 小学校1年生のイメージ(画像:写真AC) 年長児が不安を感じず就学できるようサポートする動きは2010年代以降、全国的に広がりを見せています。 幼稚園や保育所での就学を意識した指導はもちろんのこと、年長児が実際に小学生と交流していくことは小1プロブレム解決の一助につながります。 多くの年長児が明るい気持ちで小学校入学を心待ちする取り組みは、今後も継続させていく価値は今後より増していくでしょう。
- ライフ