人気作『逃げ恥』に学ぶ東京の子育て問題――実家に頼れない夫婦はどうすればいい?
年始に放送の特別ドラマも大反響 2021年の年始に新垣結衣さん、星野源さん出演で話題を集めたTBSテレビ系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の続編『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』。 ドラマでも現代社会の問題や課題が描かれ、一石を投じましたが、原作である漫画『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみさん作)から改めて、現代の東京で生きる夫婦の子育ての形について考えてみました。 現代の妊娠・出産・育児はハードモード? 子どもを授かるのは喜ばしいことです。そして生まれてきた子どもはかわいい。 とは言え、新たな命を自らの体から生み出すのです。こんな、大変で、生き物としての大仕事が容易くできるはずがなく、授かるのも産むのも簡単なことではありません。 2021年年始の続編ドラマが大反響を呼んだ人気作品『逃げるは恥だが役に立つ』。ロケ地となった自治体との「コラボ婚姻届」も話題に(画像:(C)海野なつみ/講談社、(C)TBSテレビ、横浜市) 厚労省がまとめた2019年の人口動態統計によると、女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は全国で1.36。東京は都道府県別で最も低い1.15です。 さらに、東京の生涯未婚率は男性26.06%、女性19.20%と、こちらは極めて高い水準(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2020年版」)。女性に至っては全国トップです。 フルタイムで働く女性も少なくない東京では、そもそも結婚・妊娠へのハードルが非常に高いと言えそうです。 夫婦で一緒に「親になる」とは夫婦で一緒に「親になる」とは 作中の主人公・みくりも晴れて妊娠した当初、眠くて仕方がないと気がついたらテーブルに突っ伏している状態。そんなみくりを見て夫・平匡は 「そりゃ眠くもなるよなあ… 体の中でものすごい勢いで細胞分裂してるんだもんなあ」 としみじみします。 そうなんですよね、赤ちゃんが勝手におなかの中で大きくなっているわけではないのです。出産するまでも、産んでからもさまざまな身体の変化を引き起こします。まさに命がけの一大イベントです。 2021年1月2日に放送されて反響を呼んだ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』のロゴマーク(画像:(C)TBSテレビ) 平匡はみくりができない分は自分がやらなければ、と奮闘しますが、世の男性がみな“平匡”ではありません。そもそも平匡も「全力でみくりさんをサポートしますので」と言ってみくりに怒られています。 「サポートって何!? 私が一から学んでできるようになってその上で平匡さんに指図するの?」 「一緒に不安になって一緒に喜んで! 一緒に勉強して一緒に親になって!」 ごもっとも……。初めての妊娠で不安を抱える女性にとっての偽らざる本音なのでしょう。 かつては、子どもは女性が産み育てるもの、夫は外で稼いで家族を養っていかなければならないもの、という考え方が一般的でした。いまもその価値観は根強いでしょう。実際に、平匡が自分の父親から「男の責任」を説かれるシーンがあります。 しかし、今は女性も働き、活躍をする時代。旧価値観のまま家事育児も女性が担当するのでは、負担の形がいびつになってしまう恐れもはらみます。 あらためて考えたい男女の役割分担あらためて考えたい男女の役割分担 東京都が2019年8月に行った「男性の家事・育児参画状況実態調査」によると、未就学児を持つ子育て夫婦がそれぞれ家事をする時間は、家事が男性63分、女性136分となっています。 女性が子どもを産むということに関しては生物としての仕組みなので、こればかりは変えることができません。しかし、それ以外の点についてはどのようにでも変えていくことができます。 一緒に料理をする夫婦のイメージ。東京で暮らす共働きの夫婦を中心に、家事分担の模索は進んでいる(画像:写真AC) 例えば、料理が得意な夫ならば妻は無理をして料理をしなくていいわけですし、料理はできなくても掃除が得意ならその分掃除をすれば良いわけです。 みくりと平匡も得意なものを担当し、無理をしないことを前提に役割分担をしていました。最初は何が得意か分からないでしょうし、結婚して一緒に暮していく中で探っていけば良いのです。夫婦生活はいつだって流動的。バリバリ働く都会の男女だからこそ必要なものではないでしょうか。 育休にしてもそうです。 前述の東京都の調査では、夫婦が育児に充てる時間は、男性が143分、女性369分と、2.5倍超の開きが。まだまだ男性は育休を取りにくい実情を物語っているようです。 作中、「(男で)育休とるとかいうやつは仕事なめてるよねって言われますよ」というセリフがありますが、あらためて考えるとなぜなのでしょう? さまざまなことが時代に応じてアップデートされている今、育児に関しても本腰を入れる頃なのかもしれません。 東京でこそ取り入れたい「チーム制」東京でこそ取り入れたい「チーム制」 みくりと平匡は子育てにおいても自分たちなりの役割分担を模索していきます。 子どもを保育所に入れるために奮闘する「保活」も、母親ひとりでは負担が大きくなるばかり。積極的に父親がいろいろ調べたり、やるべきことをまとめたり、とすれば負担は減りますし、情報を共有していけばスムーズに進むことも増えるはず。 東京都の待機児童数は、2020年4月時点で2343人。ここ数年で毎年大きく改善されていますが、苦戦している家庭はまだ少なくありません。 そして、東京などの都会に暮らす夫婦が多く直面する課題といえば、ふたりとも上京してきた身で実家が近くにない、というもの。近所に両親がいないから夫婦ふたりで頑張らなければ! となりがちですが、そういうわけではありません。 夫婦ふたりだけで子育てをするのは決して容易ではない。近親者のいない東京で乗り切るために必要なこととは?(画像:写真AC) 元来、地域のみんなで子どもを育てる、という方法がありますが、近隣同士の付き合いが希薄になりがちな現代の都会では、これをどのように実現できるでしょう。「地域」ではなくて、「周囲」の人たちと育てていく、という考え方はどうでしょうか。 作中の平匡は、会社の元同僚などに話を聞いてもらったり、お子さんがいるという人からアドバイスをもらったりすることも。夫婦ふたりでどうにかしようとすると無理が生じてしまうことであっても、外部からの助けを得ることで解決の糸口が見えたりします。 話を聞く側にもそれなりの心構えは必要です。自分の価値観だけで話してしまってはいないか、もしくは押し付けていないか。 個々のつながりを築く礎に個々のつながりを築く礎に 生まれてくる子どもはみんな違います。普通は子育てのエキスパートなんて、なかなかいません。 子どものことについてもイチ人間の話題として耳を傾けるのが大事。自分には子どもがいないから関係がないこと、ではありません。きっと、相談をするということは相手にとって自分は大切な人のはずだから。 何もできなかったとしても、真摯に耳を傾けることを忘れなければ、必ず力になれるはず。周囲の人同士で支え合う子育ては、ひいては都会に暮らす個々同士の関係そのものを強くする礎にもなってくれるのではないでしょうか。
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