夏の風物詩・金魚は、いつから「ペット」になったのか? 意外と知らない歴史秘話とは

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夏の風物詩・金魚は、いつから「ペット」になったのか? 意外と知らない歴史秘話とは

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夏野久万

フリーライター

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夏祭りに欠かせない、美しく愛らしい金魚。子どもの頃に縁日ですくった、今も自宅で飼っている、という人も多いでしょう。しかしそもそも、金魚はいつ、どのような理由で飼われるようになったのでしょうか? フリーライターの夏野久万さんが歴史をたどります。

夏の思い出と縁の深い、金魚

 夏の風物詩といえば、何を思い浮かべますか。花火大会や夏祭りなど、人それぞれ違うかもしれませんが、素敵な思い出にひも付いている人も少なくないでしょう。

子どもの頃に縁日ですくった、今も自宅で飼っている、という人も多い「金魚」(画像:写真AC)



 なかでも「金魚すくい」は、祭りに彩りを添える人気もの。金魚柄の浴衣やハンカチなどを見るだけで、昔見た風景を思い出して懐かしさを覚える人もいるかもしれません。

 金魚は古くから、祭りやイベント時だけではなく、日常生活の中でも日本人に愛され続けてきました、今回はそんな金魚のお話です。

江戸の庶民に愛された金魚

 夏の風物詩と言われている金魚は、実はフナの仲間で突然変異をして、長い年月を掛けて今のような色鮮やかな金魚となりました。赤や黄金色をはじめ、色鮮やかなカラダをくねらせ泳ぐ様は、私たちに癒やしを与えてくれます。

 そんな金魚が生まれたのは中国。日本には、室町時代にやってきたと言われています。その際は、お金持ちの間で好まれ飼育され、江戸時代中期に庶民にも浸透したのです。

金魚に魅了された日本人

 金魚は、江戸でどのように親しまれていたのでしょうか。浮世絵「若那屋内・白露」には、金魚を入れる球体のガラス製の入れ物「金魚玉」を持つ女性の姿が描かれています。

「若那屋内・白露」鳥高斎栄昌(画像:東京国立博物館)



 とても愛らしい金魚玉。当時の人は、このような入れ物に金魚を入れて持ち運んだり、飾ったりして楽しんでいたなんて、風情があります。現代でも通じる心弾む金魚との接し方ではないでしょうか。

 しかし金魚玉は小ぶりなため一度に楽しむには、数に限りがあります。そのためか陶器製の水鉢や桶で鑑賞している人たちの姿が多く見られました。

 陶器製の水鉢の中を泳ぐ金魚にエサをやる姿が、とても楽しそうです。今でこそ、金魚を真正面から眺めたり、優雅に通り過ぎていくさまを側面から楽しめたりしますが、江戸時代には、現代のような大きなガラス製の水槽はなかったため、金魚を上から鑑賞する「上見(うわみ)」のスタイルが主流に。

 現代でも水鉢を軒先に置いて金魚やメダカを飼う家を見かけます。そのような家の前を通ると、水中を泳ぐ金魚の様子を眺めつつ、穏やかな気持ちになれます。

 金魚は飼っている人が眺めるだけではなく、その美しさから人目を引き、まわりにもやさしい気持ちを広げてくれる存在。そういう点も、金魚の魅力のひとつではないでしょうか。

もとは富裕層の楽しみだった金魚

 金魚が日本に入ってきた当初は、金魚はお金持ちのものでした。

 そんな金魚が庶民に愛されるようになった背景には、武士の存在があります。武士がサイドビジネスとして各所で、金魚の養殖を行ったことが大きいようです。

 養殖場は江戸にもあり、小石川(現在の東京都文京区)や現在の六本木ヒルズ近辺など、数か所にありました。

 また天びん棒に桶だらいをぶら下げて、金魚を売る「金魚売り」も出現します。

「俳優見立夏商人 金魚売り」(画像:江戸東京博物館デジタルアーカーブス)



 金魚売りは、大人や子どもの目を引いて、人気があったようです。

 さらに江戸時代でも、現代でいう金魚釣りのような楽しみ方もしていました。釣り糸で金魚を釣ったり、小型の投網で捕まえたりするなど、多少、生々しい方法だったようですが、魚を獲る醍醐味(だいごみ)が感じられそうです。

 現代のポイを使っての金魚釣りの原型ともいえる親しみ方といえます。

進化し続ける金魚の楽しみ方

 江戸時代は下級武士のサイドビジネスとして浸透した金魚。現代では絢爛(けんらん)豪華な演出が魅力の「金魚ミュージアム」なども登場し、人々を癒やしの世界に誘う存在になっています。

中央区日本橋本町にある「アートアクアリウム美術館」(画像:アートアクアリウム製作委員会)



 2021年の夏祭りやイベント事は、新型コロナの影響もあり今後どうなるかわかりません。金魚業界が元気になることは、金魚の飼育環境を守ることにもつながります。先人から愛情を込めて育てられてきた金魚。金魚を眺めて過ごす時間を持っても素敵です。

金魚がより美しく進化した理由

 ではなぜそこまで金魚は、人を引き付けるのでしょうか。さまざまな色やかたちをして、優美に泳ぐ姿に、儚(はかな)さと美しさを感じるから……など、その理由は数多く挙がることでしょう。

 しかし忘れてはいけないのは、金魚のルーツです。これまで金魚は、人間の技術と突然変異により、種類が増え、美しい姿になっていきました。先人が愛情を込めて育ててきた金魚が、代々受け継がれて今、私たちの目の前で優雅に泳いでいるのです。

 品種改良の裏には、手間暇かけて行われた情熱の連鎖があったわけです。

 金魚は「人間が手を掛けて育てなければ、先祖返りをしてしまう」と言われています。実際に、オーストラリアのマードック大学の研究チームが研究したところ、人の手を加えずに川で野生化させた金魚は、外見はフナのような色に変化し、体も巨大化したそうです。

今年の夏も、金魚をめでて

 もともと品種改良して生まれた魚なので、野生化すると、生態系を壊す恐れもあると指摘されています。

いつまでも眺めていたくなる、不思議な魅力を持つ金魚(画像:写真AC)



 先人が愛情を込めて育ててきた金魚。より人々に愛されるために、さまざまな姿に変化していった事実は、同じ地球に生きる者として、人それぞれ思うことはあるかもしれません。

 2021年の夏祭りやイベント事は、今後どうなるか目が離せませんが、夏の風物詩と言われている「金魚」を愛でる時間を作ってみてもいいかもしれません。

参考文献:
・鈴木克美『金魚と日本人』講談社学術文庫
・吉田信行『金魚はすごい』講談社+α新書

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