札幌の五輪マラソン開催に高まる懸念 観光客離れで、北海道経済を狂わす可能性も?
正式決定した2020年東京五輪のマラソン札幌開催の弊害について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。選手のパフォーマンスに悪影響も 2020年の東京五輪は開催期間が真夏(同年7月24日~8月9日)になるため、選手の体調面・パフォーマンス面がかねてから心配されています。「アスリートファースト」を考えるなら、なによりも気温・湿度の高い夏季のスポーツイベントは避けるべきですが、東京都は招致の際に「温暖な気候」と説明して開催を勝ち取りました。それだけに、撤回することはできず、少しでも気温を下げるための試行錯誤を続けました。 しかし東京都や組織委員会から妙案は出ず、業を煮やした国際オリンピック委員会(IOC)はマラソン・競歩を札幌で開催すると一方的に決定。東京都は反発しましたが、協議の末に受け入れることが決まりました。 マラソン競技のイメージ(画像:写真AC) 記者会見で、小池百合子都知事は「合意なき決定」と一連の変更に不満を漏らしました。開催都市・東京のトップである都知事の意向を無視した決定ですから、小池都知事にとって「メンツを潰された」という思いを抱くのは不自然なことではありません。 一方、マラソンと競歩が東京から遠く離れた札幌で実施されることに、「“東京”五輪ではないのでは?」という声も聞かれます。しかし、1964(昭和39)年に開催された前回の東京五輪でもセーリングは神奈川県藤沢市の江の島、馬術は長野県軽井沢町で実施されています。北海道札幌市ほど離れた距離ではありませんが、すべての競技会場が“東京”に所在していたわけではないのです。 そうした前例があるため、マラソン・競歩が札幌市で実施されることは決して奇異な話ではありません。とはいえ、あまりにも直前で変更したことは北海道や札幌市といった地元自治体や競技団体などに大きな混乱をもたらしています。 また、札幌で競技を実施することになると、札幌近郊に選手村の「分村」を整備しなければなりません。今から計画を練り、着工するわけですから、かなりタイトな日程です。選手村を建設する業者の選定・手配はさることながら、にわか普請で選手村の建設を進めても選手が最高のパフォーマンスを発揮するための体制づくりに不備が出てしまいかねません。 道民の日常生活に支障をきたす可能性も道民の日常生活に支障をきたす可能性も また、マラソン・競歩は一般道を走るため、コース設定にも入念な作業が必要です。しかし、間もなく北海道は雪が積もる時季になります。当然、マラソン・競歩のコース設定・確認作業はしにくくなり、そうした事情を考えると残された準備期間はかなり少ないといえるでしょう。 東京五輪のマラソン・競歩が行われる札幌の街並み(画像:写真AC) マラソン・競歩が札幌に変更されたわけですが、そのほかにも「灼熱の東京で実施することを回避するべき」と指摘される競技がいくつかあります。 トライアスロンやマラソンスイミング、総合馬術のクロスカントリーは、競技開始時刻を早めることで暑さ対策を行うようです。特に「トイレのような臭い」と評されたお台場の海を泳ぐトライアスロンやマラソンスイミングは、これを機に「札幌で~」という声が強くなる可能性は否定できません。 そして、一部の競技を札幌で実施することは、北海道の経済・産業を狂わせる可能性を秘めています。8月の札幌は観光シーズン真っ盛りで、国内・海外問わず多くの観光客が訪れます。マラソン・競歩が札幌で実施されると、選手のほか関係者・観客が大挙して北海道を訪れます。明らかに宿泊施設が不足し、確実に宿泊料金が高騰します。宿泊施設の不足・高騰は、結果として観光客を北海道から遠ざける要因となります。五輪特需は2020年限定の現象です。その代償として、観光客離れが起きてしまえば元も子もありません。 五輪の影響を受けるのは、観光に関連した産業ばかりではありません。五輪期間中、事前から交通渋滞が問題視されています。その対策として、政府や東京都は不要な外出やネットでの買い物を控えるよう呼びかけました。札幌でも同様の呼びかけがなされる可能性があり、道民の日常生活にも支障をきたします。 マラソン・競歩の競技会場を札幌に変更しただけでは、一件落着になりません。まだ解決しなければ課題は山積みなのです。
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