コロナ禍の首都圏で「ミネラルウオーターが売れた」は本当? 最前線に迫る
売れたもの・売れなかったもの明暗くっきり 新型コロナ一色だった2020年。私たち消費者に身近な食品分野でも、売り上げを伸ばした品目とそうでない品目との明暗ははっきり分かれたようです。 経済産業省が時節ごとの動向をまとめる「経済解析室ひと言解説集」(2020年12月3日)によると、「緊急事態宣言」が発令されるなどした同年3~5月、前年同月比で食料品の国内生産で際立った伸びを見せたのは、パスタや即席麺などの「麺類」です。 「3月から全国の学校が休校となり、急に給食などがなくなった小中高生などの昼食用需要が増えたことに加え、テレワークや外出自粛も広がった」ことが要因と指摘します。 一方、同時期に大きく低下したのが「清涼飲料」。 ただしこちらは品目別での増減差に開きがあり、通勤途中や外出先での購入機会が多いお茶飲料やコーヒー飲料が大幅に減少した半面、家庭で楽しむ緑茶葉やコーヒー豆、またミネラルウオーターなどは増加しました。 コロナ禍でミネラルウオーターの需要が首都圏を中心に伸びているという。果たして実態は?(画像:写真AC) ことミネラルウオーターに関しては、健康志向・衛生志向の高まりを背景に、東京をはじめとする首都圏であらためて注目する消費者が増えているとの声も。 コロナ以前と以降で人々の意識はどのように変化したのか、実際に売り上げは伸びているのか、関係者などへの取材から直近の動向を探りました。 在宅用のミネラルウオーター購入が増加在宅用のミネラルウオーター購入が増加 国内外産のミネラルウオーターを常時100種類以上取り扱うミネラルウオーター専門店 アクアストア(横浜市)。東京はじめ全国の有名ホテル・レストラン・カフェ・バーなどに商品を卸しているほか、通販サイトでの個人向け販売も行っています。 同社によると、コロナの前後で比較した際、特徴的な変化が表れたのは「都道府県別の売上金額」だと言います。 2019年、卸先の売り上げのうち約半数に当たる48.8%を占めたのは「東京」。一方、2020年は時短営業や休業などを背景に29.9%にまで下がり、隣接する埼玉は1.4倍、千葉は約2倍に伸びています。 個人購入者の在住地別では、「東京」は2019年の34.9%に対し2020年35.7%と微増。他方、埼玉は約20倍、千葉は4倍、神奈川は1.1倍に。首都圏を中心に顕著な伸びが見て取れます。 こうしたことから同社担当者は、 「今まで東京都内の小売店で水を購入していた首都圏近郊の在住者が、外出自粛で都心へ行かれなくなったのを機に自宅でネット購入するよう切り替えたケースが多いのかもしれません」 と分析。コロナ禍でレストランなどへの売り上げが落ちた一方で、個人消費者の関心は高まっているようです。なお同社の通販サイトでは、購入者数が前年比で1.3倍、売り上げも1.2倍と伸びを見せました。 売れているのはペットボトル入りの少量タイプ。平均単価が同比90%とやや落ちたのは、「もともとミネラルウオーターが好きで銘柄にも詳しい人が中心だった」購入層が、コロナを機にすそ野を広げたことの裏返しとも言えそうです。 「実際、購入される水の種類は幅が広がっているという印象です。健康への付加価値など機能性が表示されている水や、健康への関心が高い著名人が常飲している水などを選ぶ人が増えてきていますね」 家庭需要に攻勢、児嶋さんのCMでも話題に家庭需要に攻勢、児嶋さんのCMでも話題に コロナ禍で家庭需要の拡大とともに業績を伸ばしたのは、東京に本社を構えるウオーターサーバー業界大手のプレミアムウォーター(渋谷区神宮前)です。 普段、試飲販売を行っている商業施設などが時短営業・休業となったことから、ウェブ広告など別の販売チャネルを使った顧客獲得に注力。 人気お笑い芸人のアンジャッシュ児嶋一哉さんを起用したホームドラマ風のテレビCMを放映するなど、積極的なプロモーションを展開した影響もあり、2020年7~9月期は前年同期比23.7%増の140億円超(同ホールディングスの売上高)と過去最高を記録しました。 2020年、何かと話題を呼んだ児嶋一哉さんを起用したテレビCM。見たことがあるという視聴者も多いのでは(画像:プレミアムウォーター) その後も新規獲得数や顧客数は東京・首都圏など全国で順調に増えているといい、担当者は 「在宅ワークに切り替えたり外出を控えたりする人が増えたことも(好調の)要因のひとつです。定期宅配で自宅に水が届くウオーターサーバーなら、重たい水をわざわざ買いに出る手間を省けます」。 「コロナ禍で健康・衛生への意識は高まりましたから、外出による感染リスクを抑えられるというのも、大きなメリットなのではないでしょうか」 と話します。 健康志向の高まり?「温泉水」が売り上げ増健康志向の高まり?「温泉水」が売り上げ増 健康志向の高まりも影響してか、飲料用の「温泉水」が注目を集めた例も。 伊豆半島の南、豊かな自然が広がる山あいで1972(昭和47)年に創業し、約半世紀の歴史を持つ温泉旅館、観音温泉(静岡県下田市)が販売する「飲む温泉」。 創業者が1963年に源泉を掘り当てた同館の湯は、開業以来「健康にいい」と評判を呼び、利用客の助言をきっかけに1998(平成10)年から飲料用商品として販売を開始。3年後には源泉のすぐ脇に自社充填(じゅうてん)工場を設けました。 ラジオ番組でのCMを打ったり人気の女性美容家が愛飲歴を明かしたりと、メディア露出をへて近年順調に売り上げを立てていたものの、2020年3~11月の前年同期比136%は過去に例がない伸びとのこと。 コロナ禍の2020年3~11月に前年同期比136%を売り上げたという、観音温泉の「飲む温泉」(画像:観音温泉) 500ml入りペットボトル1本205円(税込み)は決して安くはありませんが、東京はじめ首都圏などからの注文が相次いでいると言います。 1976年に父親から事業を継いだという2代目の現会長の鈴木和江さんは、 「当社の温泉水は、硬度1.0未満の超軟水で口当たりが非常にまろやかです。またpH値9.5のアルカリ源泉で、美容家が注目する成分シリカも豊富に含んでいますから、コロナを機にあらためて健康や美容を考えるようになった方々が購入してくれているのではないでしょうか」 と話します。 本来なら東京から日帰りでも行ける下田ですが、それもままならなかった2020年。飲料水だけでも温泉の“効能”を得たいと考える東京在住者も少なからずいたのかもしれません。 今後も定着していくかどうかは未知数今後も定着していくかどうかは未知数 コロナ禍で一定の普及を見せたミネラルウオーターの常飲ですが、この傾向が広く一般に定着していくかどうかは今のところ未知数のようです。 前出のアクアストア担当者は、 「飲料水は毎日不可欠なものであり、常に買って飲むとなるとそれなりにコストが掛かることですから、日本経済が相当程度まで回復しない限り客層は限定的になるのではないでしょうか」 と冷静に分析します。 「ミネラルウオーター類の国内生産・輸入の推移」グラフ(画像:日本ミネラルウオーター協会の発表資料を基に、ULM編集部で作成) 日本ミネラルウォーター協会のまとめでは、2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故などを機に右肩上がりが続いていたミネラルウオーターの国内生産・輸入量は2019年にわずかながら微減。 2020年はコロナの影響で「清涼飲料」全体の売り上げは落ち込みを見せているものの、ミネラルウオーターに関しては「ほぼ横ばい」とのことでした。
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