野良猫トラブル、「かわいそう」だけじゃダメ。保護団体に聞く、私たちにできること
街を歩くと野良猫をよく見かけますが、地域住民にとってはトラブルの元になるケースも。野良猫と共生するには、人間はいったい何をしたらよいのでしょうか。東京の保護団体に聞きました。
主な原因は、キャットフードの品質向上
東京の街を歩いていると、道路や公園、路地などで野良猫をよく見かけます。彼らののんびりした姿はとても可愛らしく、人の心を癒してくれますが、一方で、えさやりなどの住民トラブルが起きているのも事実です。そんななか、私たち住民にできることは何でしょうか。都内最大の保護猫団体である「東京キャットガーディアン」代表の山本葉子さんに聞きました。

山本さんは開口一番、こう説明します。
「野良猫というと、あたかも『野生の猫』といったイメージを持たれがちですが、それは違います。そんな野良猫はいないのです。まず分かっていただきたいのは、すべての猫は『人間からえさをもらって生きている』ということです。野良猫は所有者がはっきりしていない猫というだけで、この点は飼い猫となんら変わらないのです」
この前提をしっかり理解しないと、「論点がブレてしまう」という山本さん。日本の状況は特に過剰繁殖を招きやすいともいいます。
「野良猫が食べるえさのほとんどはキャットフードです。最近のキャットフードは栄養バランスが取れていて、とても品質が良い。そのような恵まれた状況が、逆に過剰繁殖を招いているのです。食糧事情が現在と大きく異なっていた昭和30年代、当時の猫のえさといったら、ご飯にみそ汁をかけた『ねこまんま』、要は炭水化物と塩分です。猫は動物タンパクを必要とする肉食獣なので、炭水化物は栄養になりませんし、塩にいたっては毒ですから、当時はわずか4年ぐらいの寿命だったのです。繁殖しようにも生き残れなかったんですね」(山本さん)
えさはあげてもいい。では何が問題なの?

人間が野良猫にあげるえさの質が飛躍的に向上したことで、現在の状況が生まれたのであれば、野良猫にえさをあげなければいいのでは?
山本さんはこの疑問について、「得策ではない」と話します。
「えさをあげること自体が問題ではありません。あげたければ、あげていいのです。お腹の空いてそうな野良猫を見て、『可哀そう』『えさをあげたい』という気持ちは、人間としてごく当たり前の感情です。えさをあげる人は皆さん、優しい、善意の気持ちで行っています。その気持ちを否定してもしょうがないですし、彼らを止めることもできません。では何が問題なのか。それは野良猫に去勢・避妊手術を行わないことなのです。手術さえ行えば悪循環を止められます。『えさをあげること』と『手術すること』はセットなんです」(山本さん)
野良猫ケアは自分が住む場所の「環境保全」にも
また、野良猫の強引な捕獲や殺処分についても、山本さんは「効果がない」といいます。それは「バキュームエフェクト」が起きるからです。バキュームエフェクトとは、捕獲や殺処分などで猫がいなくなった地域に、別の地域の猫が流入してくる現象で、結局は「きりがない」ということなのです。だからこそ、野良猫には去勢・避妊手術を地道に行っていくことしかないのだと、山本さんは訴えています。

しかし、去勢・避妊手術に向けて積極的に活動しているのは、各地域の動物福祉団体やボランティアスタッフだけ、というのが現状です。自治体からの助成金を受けつつも、その多くはスタッフの「持ち出し」だといいます。加えて、スタッフの高齢化も進んでいます。
「現在、大半の動物福祉団体はウェブサイトを持っています。20~30代の若い人たちには、自分たちの住んでいる地域にある団体のページにアクセスして、彼らの活動をまず知ってもらいたいですね。寄付も数百円単位から簡単に行える時代です。週末にボランティアに参加するのも喜ばれますよ」(山本さん)

山本さんがこのような行動を呼びかけるのは、野良猫というひとつのカテゴリだけではなく、より広い視野でこの問題をとらえているからです。
「野良猫問題というのは、あくまでも問題の『枝葉』であって、『幹』ではありません。『幹』は地域の『環境保全』です。自分の住んでいるところの環境を、みんなで力を合わせて守っていこうということ。これは住民としての責任ではないでしょうか。未来を描きながら生きる人間と異なり、野良猫は『今日という1日』を一生懸命生きています。それに気づいて、本当の意味で彼らと共生できるよう、一緒に協力しませんか」
野良猫を通して見えてくる地域の課題。街で野良猫を見かけた時は、そうした問題にも考えをめぐらせてみる良い機会かもしれません。

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