AO入試誕生から31年 いまだ残る「ワンチャン合格」という保護者の幻想

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AO入試誕生から31年 いまだ残る「ワンチャン合格」という保護者の幻想

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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近年すっかり定着したAO入試(現・総合型選抜)ですが、どうやらまだその難易度について誤解が残っているようです。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

誕生から31年たったAO入試の現状

 1990(平成2)年、慶応義塾大学(港区三田。以下、慶大)の湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市)が新設されました。そのときに誕生した総合政策学部と環境情報学部の入学試験で採用されたのがAO入試です。

港区三田にある慶応義塾大学(画像:写真AC)



 AO入試とは学力試験を課さず、小論文や面接によって学生の合否を決める選抜制度のこと。採用から31年が経過し、今では大学入試のひとつとして広く認知されています。

 文部科学省は昨年度からAO入試を「総合型選抜」と改称していますが、一般的にはAO入試の名が定着しています。また慶大のようにAO入試の名を使い続けたり、FIT入試(法学部)など、独自の名前を使ったりしている大学も存在しています。

 慶大のAO入試実施は世間に大きなインパクトを与えましたが、各大学がすぐさま追随したわけではありません。

 文部科学省がAO入試に関する調査を開始した2000年度の入学者選抜実施概要を見ると、私立大学に入学した新入生46万8260人のうち、AO入試組の割合はわずか1.7%(7773 人)でした。慶大が始めてから10年が経過しても、私立大学では2%未満という状況だったのです。

 同年度の国公立大学に至っては0.3%(国立大学)と0.1%(公立大学)でした。大学入試全体でみれば、AO入試を経て入学する学生は極めて少数派だったことがうかがえます。

 しかし21世紀に入って、大学入試は様変わりしました。

 2020年度の私立大学入学者のうち、AO入試組の割合は12.1%(5万9846人)に激増。国公立大学でもAO入試の募集人員の枠は広がり、

「大学入試 = 一般入試」

ではなくなってきています。

保護者と現況の認識のズレ

 そのようなわけで、一般入試・推薦入試に次ぐ「第3の入試」として勢いづく総合型選抜(旧AO入試)ですが、中学生と高校生の子どもを持つ保護者のなかで

「総合型選抜 = 学力を求められない」

という誤った認識を持っている層が一定数いることが、個別指導塾・モチベーションアカデミア(中央区銀座)のアンケート調査で分かりました。

 同社では大学受験を目指す中学生・高校生の子どもを持つ保護者300人を対象に「大学受験勉強に関するアンケート」を実施。その結果、33%の保護者が総合型選抜に「非常に関心を持っている」「やや関心がある」と答えており認知度が高まってきていると推測されます。

 その一方で、総合型選抜に対して関心を寄せる理由として「非常に関心を持っている」「やや関心がある」と答えた保護者の39.4%が

「子どもの学力面に不安があるから」

と回答していたのです。

 これは、総合型選抜に対する誤った捉え方といって間違いありません。

大学受験を目指す中学生・高校生の子どもを持つ保護者様300人を対象に実施したアンケート。設問は「お子様の大学入試にて、総合型選抜入試(旧AO入試)に関心をお持ちですか」(画像:リンクアンドモチベーション)



 その背景には、ちょうど保護者世代が学生だった頃はAO入試の黎明(れいめい)期であり、場合によっては存在すらしていなかったということが挙げられます。

 しかしここ数年、総合型選抜を取り巻く環境は大きな変貌を遂げているのです。

学力を測ることが必須となっている

 少子化を背景として学生を早く確保したい大学側の思惑もあり、21世紀に入ってAO入試を経て入学する学生が増加しました。しかし、入学後の学生間の学力差につながると懸念されていました。

 こうした点を是正するため、文部科学省は2011年度実施要項から出願時期を8月1日以降と定め、2020年からは9月以降に改めました。

 また、調査書などの書類選考で合否を決めるのではなく、大学入学後に専門的な教育を受けるのに必要な学力を持っているのかどうかを測ることも義務付けられました。そのため、各大学では入学に際し

・小論文
・口頭試問
・大学入学共通テスト

のいずれかを受験生に課すことになりました。

大学受験を目指す中学生・高校生の子どもを持つ保護者様300人を対象に実施したアンケート。設問は「「非常に関心を持っている」「やや関心を持っている」と答え方に質問です。なぜ関心をお持ちですか」(画像:リンクアンドモチベーション)



 パイオニアである慶大を筆頭に、知名度や人気のある大学では総合型選抜の倍率は高く、間違えても簡単に突破できません。

 もともとAO入試や総合型選抜は「この大学で学びたい」という受験生の熱意と、大学側の「この学生に入ってもらいたい」という思いが一致することを重視しています。そのため、もし総合型選抜での合格を狙うのなら、遅くとも高校2年生から対策しなければなりません。

 東京には総合型選抜や推薦型選抜に特化した塾が多数存在しており、合格を勝ち取るために本気で対策している学生も少なくありません。

選択肢の増加は喜ばしいこと

 少子化に伴い、大学を選ばなければ大学に入学できる「大学全入時代」に突入しています。入試制度も多様になり受験機会が増えていることから、受験生は合格を引き寄せやすくなっています。

大学の合格発表のイメージ(画像:写真AC)



 しかし大学全入時代であっても、有名私立大学に関しては定員厳格化もあり、ハードルは低くありません。総合型選抜で合格を勝ち取るには全国のライバルと熾烈(しれつ)な争いを繰り広げる努力が求められます。

 大学進学を考えている、または受験を控えた子どもを持つ保護者は、大きく変貌を遂げた大学入試の情報を日々学び、アップデートしなければならないのです。

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