3年間で7割減った都内「待機児童」 でも、結果を素直に喜べないワケ
急激に減少した都内の待機児童 2016年に匿名ブログに投稿された「保育園落ちた日本死ね!!!」の一言が話題となりました。東京都ではこれ以降、保育園を希望しながらも入ることのできない待機児童の解消が進んでいるとされています。 2020年7月の東京都の発表によると、都内の待機児童数は2020年4月1日時点で2343人。これは2017年と比べて約4分の1(72%減)となっており、現在の集計方法を始めた2002(平成14)年以降で最小になったとしています。 都内の保育園のイメージ(画像:写真AC) このなかで待機児童数のもっとも多い区市町村は江戸川区(203人)、中央区(202人)、小平市(159人)の順となっています。また待機児童数が100人を超える区市町村は2019年よりも10減り、5自治体となっています。 待機児童数は急激に減少しているように見えますが、疑問の声も寄せられています。というのは、集計のやり方を変えることで待機児童数が減少しているのではないかという意見もあるからです。 長らく待機児童数でワースト1位という、不名誉なトップを独走してきた世田谷区は2020年4月についにゼロを達成しました。これは、保育園の数を大幅に増やした結果ですが、一方で「数字のマジック」を併用していることがわかっています。 厚生労働省の定義によると、待機児童を「通える園があるのに特定の園を希望した」「保護者が育児休業を取得しており復職の意思が確認できない」は該当しないとしています。保育園に預ける意志はあるものの、実情にマッチしていないので預けることができない世帯を待機児童から除外するとゼロになるというわけです(『朝日新聞』2020年7月29日付朝刊)。 園の数に比例しない質園の数に比例しない質 とりわけ問題になるのが、「通える園があるのに特定の園を希望した」場合です。 このケースでよく想像されるのが、「子育てにふさわしい保育園に通わせたい」という世帯を想像するのですが、そうではありません。 東京都の保育サービスの状況(画像:東京都) 待機児童解消の目的で近年、保育園(ここでは区立・私立の認可保育所)の数は都内では急増しています。しかし、設備に優れた保育園はどこの地域でもわずか。子育て世帯が急増している地域では「こんなところには預けられない」という保育園が増えている地域もあるのです。 大抵の保育園はコロナ禍でも子育て世代に向けた見学を実施しているため、訪れてみるとわかります。 まず、都心部は園庭が屋上だけという保育園が当たり前です。加えて狭い土地につくられているために、非常用階段などの設備が法令ギリギリで基準を満たしているようなところも少なくありません。また、基準は満たしているものの日当たりがかなり悪いところもしかり。 そのような保育園でも子どもを預ける世帯があるのは、「空きがなく仕方なく」といったケースばかりではありません。保護者が用意すべきオムツやタオルを園でまかなってくれるため、ほぼ手ぶらで預けられるようになっているためなのです。 保育園は幼稚園と異なり、教育より福祉の比重が高い施設であるものの、待機児童の減少は上記のような施設をつくってなんとかまかなっている状況です。また、保育士の労働環境は悪く、年収は正規職員でも平均360万円で、全産業の正社員の平均値500万円の7割程度となっています。 2019年に『東京新聞』が行った調査によると、23区で、2019年3月末の年度替わり前後に5人以上が辞めた例は少なくとも17園に上り、保育士全体の3割以上が辞めた園は合計10園、半数以上が辞めたのは4園に上ったとしています(『東京新聞』2019年11月15日付朝刊)。 申し込み行為自体も難しい申し込み行為自体も難しい 育休中の人が新年度から子どもを預けることを希望する場合、その申し込みも実情にマッチしているとは言いにくい状況です。 新年度4月からの入園の可否は、大抵の地域で1~2月頃に送付されます。預ける側からすると、2月になってから「選考に落ちたので復職できません」と育休の延長願を職場にしなければなりません。残念ながら笑顔で応じる職場はそうないでしょう。 さらに保育園は申し込みだけでもハードルが高いことは意外と知られておらず、申し込み案内の冊子はじっくり読んだ上で窓口で質問しないとなかなか理解できません。 都内の保育園のイメージ(画像:写真AC) 数字上は順調に減っているように見える待機児童数ですが、実態を考慮すると素直に受け止めにくい現状です。待機児童問題は女性の社会進出を妨げる大きな要因になっていることを社会全体で共有し、解決に向けて真摯に取り組んでいくことが求められます。
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