きっかけは日本人の勘違い! 日本でクリスマスに「ケーキ」が食べられるようになったワケ

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きっかけは日本人の勘違い! 日本でクリスマスに「ケーキ」が食べられるようになったワケ

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近代食文化研究会

食文化史研究家

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日本でクリスマスケーキが売れ始めたのは1950年からです。いったいなぜでしょうか? 著書『焼き鳥の戦前史』においてクリスマスチキン、クリスマスケーキの歴史を明らかにした食文化史研究家の近代食文化研究会さんが解説します。

1950年の銀座で突然ブームに

 1950(昭和25)年12月24日の読売新聞夕刊は、銀座でクリスマスケーキが「ドンドン売れた」現象を報じています。

 記事には「今年だけに見られる現象」とあるので、日本でクリスマスケーキが売れ始めたのは、どうやら1950年からのようです。

近年のクリスマスケーキ(画像:写真AC)



 なぜ突然クリスマスケーキがブームになったのでしょうか。ケーキ業者によると、

「それだけ生活感情もアメリカ式に切り替えられたせいでしよう」

 つまりアメリカの影響によるとのこと。

 クリスマスケーキはこの年以降日本に定着したのですが、なぜ始まりが1950年だったのでしょうか? そして、アメリカの影響とは何だったのでしょうか?

日本最古のクリスマスケーキとは

 かなよみ新聞1878(明治11)年12月24日の風月堂の広告に「フロンケーク 祝日用かざり菓子」の文字があります。これが、日本最古のクリスマスケーキの広告です。

 フロンケークとは、イギリスのクリスマスケーキ、プラムケーキ(plum cake = フルーツケーキ)が日本でなまった言葉です。

 イギリスではヴィクトリア女王の時代から、マジパンで装飾したプラムケーキでクリスマスを祝うようになりました(ニコラ・ハンブル著『ケーキの歴史物語』)

プラムケーキにマジパンで装飾した、イギリス大手スーパー・セインズベリーズのクリスマスケーキ(画像:Sainsbury’s Supermarkets Ltd)

 銀座周辺の有名洋菓子店、風月堂や壺屋がこのプラムケーキを売るようになったのが、日本のクリスマスケーキの始まりです。

 しかしながら、イギリスから来たクリスマスケーキという習慣は、日本に定着することはありませんでした。

アメリカ軍の奇妙な風習

 日本にクリスマスケーキが定着したのは戦後、アメリカの影響によるものでしたが、アメリカではクリスマスにケーキを食べるという習慣はありません。

 しかし、海外に駐留するアメリカ軍には、デコレーションケーキでクリスマスを祝うという不思議な習慣があるのです。

横須賀停泊中の空母ロナルド・レーガンにおけるクリスマスケーキ(画像:Defense Visual Information Distribution Service)



 戦後直後、連合国占領軍として日本に駐留していたアメリカ兵たちも、デコレーションケーキでクリスマスを祝いました。1948(昭和23)年12月22日の読売新聞朝刊記事には、アメリカ兵向けにクリスマスケーキが大量生産されている様子が描かれています。

 ケーキでクリスマスを祝うアメリカ兵たちを見て、日本人は

「ケーキでクリスマスを祝うことがアメリカの習慣であり、グローバルスタンダードである」

と勘違いしてしまったのです。

 そして1950年、民間企業による小麦の輸入が再開され、ケーキが自由に生産・販売できるようになると、日本人たちは憧れのクリスマスケーキに殺到したのです。

胸焼けするバタークリームケーキの由来

 40代以上の人は、日持ちはするがたくさん食べると胸焼けする

「昔のバタークリームクリスマスケーキ」

の記憶があるのではないでしょうか?

 なぜ胸焼けするかというと、昔のクリスマスケーキはバターではなく、値段の安いショートニングを使っていたためです。

ショートニング(画像:写真AC)



ショートニングは油脂100%なので、水分を含むバターを使った本物のバタークリームよりも日持ちがします。ただし砂糖入りの油を飲んでいるようなものなので、食べ過ぎると胸焼けするのです。

 在日アメリカ海軍が開示したレシピによると、海軍のデコレーションケーキはこの、ショートニングを使ったバタークリームケーキ。

 実はあの胸焼けするバタークリームケーキこそが、アメリカ軍由来のクリスマスケーキだったのです。

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