トヨタのテーマパークが年末に閉館 変わりゆく都内「自動車メーカー施設」の数々

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トヨタのテーマパークが年末に閉館 変わりゆく都内「自動車メーカー施設」の数々

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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トヨタ自動車のテーマパーク「MEGA WEB」が2021年末で閉館します。大手自動車メーカーによる数々の施設の変遷について、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

1999年、お台場にオープン

 2021年いっぱいで「MEGA WEB(メガウェブ)」(江東区青海)が閉館します。

2021年末に閉館する「MEGA WEB」(画像:アムラックストヨタ)



 MEGAWEBは1999(平成11)年3月にお台場の複合商業施設パレットタウン内にオープンしたトヨタ自動車のテーマ型ショールーム施設です。

“見て、乗って、感じる”モビリティーの体験型テーマパークと銘打ち、「トヨタ シティショウケース」、「ヒストリーガレージ」、「ライド スタジオ(旧トヨタユニバーサルデザインショウケース)」の3エリアから構成され、新感覚の施設として大きな話題になりました。

 MEGAWEBは20年以上の長きに渡り、常にお台場エリアのディスティネーションとして機能してきました。累計入場者数は約1億2700万人。コロナ禍前は年間800万人クラスの集客を果たしていた大型集客施設です。

 近年はインバウンドに人気の高い施設となっており、多くの利用が見られました。

 トヨタ市販車種のほぼ全てに試乗(有料)できるコース「ライドワン」も人気ですが、「ヒストリーガレージ」には1950~1970年代の人気車種が展示され、「トヨタ・スポーツ800(通称ヨタハチ)」、「トヨタ2000GT」など、車好きには垂涎(すいぜん)のミュージアムとなっています。

 また「トヨタ シティショウケース」には仮想現実(VR)にも対応する380インチ大型スクリーンのモーションライドシアター「メガシアター」もあり、現在は「WRCモーションライド」を上映しています。

高度成長とともに育まれた車文化

 パレットタウンの土地は東京都との定期借地権契約になっていましたが、期限が切れる2010年に森ビルとトヨタ自動車に売却され、コンベンション・ホテル一体型施設を中心とした新しい大型複合施設が開発される予定でした。

MEGA WEBがあるパレットタウン(画像:写真AC)



 しかし、リーマンショック(2008年)の影響もあって計画は先延ばしになり、そのままMEGA WEBを含むパレットタウンの営業が継続されていました。

 2021年3月、トヨタグループの東和不動産は、大型アリーナ、ホテル、エンターテインメント施設、商業施設、オフィスなどからなる大型複合開発を2025年6月にオープンすることを発表。それに伴い、MEGA WEBを含むパレットタウンの施設は順次、閉鎖していくことになりました。

※ ※ ※

 わが国では高度経済成長期に自動車が広く普及したモータリゼーションの進展と共に、若者を中心に空前の車ブームが到来し、車文化を育んでいきました。

 車は生活必需品やステータスとしての存在だけではなく、走りを楽しんだり、カーアクセサリーにこだわったり、モータースポーツに熱狂したりと、ライフスタイルとしての文化が成熟していきました。

 1980~1990年代にかけてはMEGA WEBだけではなく、日本を代表する大手自動車メーカーのさまざまな施設が開発されています。

「Hondaウエルカムプラザ青山」(港区南青山)は1985(昭和60)年にオープンしたホンダ本社ビルのショールーム。「製品及び企業施設の発信の場」、「誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場」がコンセプトでした。

ホンダや日産も 各メーカーの施設

 当時はF1での活躍もあってホンダ人気が高く、求心力がありました。2020年1月にはリニューアルオープンしており、展示コーナーではツインリンクもてぎにあるホンダコレクションホールからの出張展示も見られます。

「Hondaウエルカムプラザ青山」(画像:本田技研工業)



 また、新たに導入した「MILES Honda Cafe(マイルズ ホンダ カフェ)」では世界各国のF1開催地にちなんだサンドイッチや、「宗一郎の水」(ホンダ本社ビル地下にある樹齢200年以上のカナダ産ヒバを使った大樽に入っている水)を使って入れたオリジナルコーヒーなど、ホンダならではのメニューを用意しています。

 1990(平成2)年にオープンした「トヨタ オートサロン アムラックス東京」(豊島区東池袋)は新しい体験型ショールームとして注目を集めました。

 アムラックスとは「AUTO MOBLE(車)」と「LUXE(優雅)」を合わせた造語で、優雅な雰囲気の中でゆったりと車を見ることを表します。モータースポーツ関連の展示、ドライブシミュレーションゲーム、宇宙船っぽい乗り物に乗り込む「アムラックスシアター」などもあって、誰でも楽しめる施設をなっていました。

 壁面に無数の発光体が光る近未来的な外観も印象的で、会社帰りのデートスポットとして利用する人もいました。池袋という土地柄、さまざまなコラボも見られ、それ目的で来場した人もいたことでしょう。2013年に閉館。現在、印象的なビルは「ヴィクトリアモール池袋東口店」となっています。

 日産自動車は1963(昭和38)年から銀座4丁目の交差点にある三愛ドリームセンター内に、「銀座ギャラリー」を営業し、その後はサッポロ銀座ビルで銀座4丁目交差点の顔として長く親しまれてきました。

 2014年にはビルの解体に伴いいったん閉鎖し、2016年9月、新たに誕生した銀座プレイス内に「NISSAN CROSSING(ニッサン クロッシング)」(中央区銀座)をオープンしました。

海外では再びの日本車ブームも

 交差点に面した2階のガラス面には自動車の設計にも使われる最新のデジタルプロセスを用い、有機的に変化していく「バーチャル ファサード」を導入。

「Spiral」をテーマに、季節や時間、イベントに合わせて色の表情を変え、動きのある空間を創出しています。ゆったりと過ごせる「CROSSING CAFE」や「NISSAN BOUTIQUE」も併設しています。

「NISSAN CROSSING」(画像:日産自動車)



 これらに先駆けること、非常に先駆的な施設が1981(昭和56)年にオープンしています。

 六本木のAXISビルはライフスタイルプロデューサーの浜野安宏氏が手掛けたことで知られるデザイン性の高い複合ビルで、このビルの存在自体が1980~1990年代にかけての六本木というエリアの尖鋭性を象徴していました。

 その中に入居した「LE GARAGE(ル・ガラージュ)」(港区六本木)は車のあるライフスタイルを提案する斬新でおしゃれなショップでした。

 今でこそライフスタイル提案型のセレクトショップは珍しくありませんが、40年前にそれが実現されていたことには驚きです。店内にはフィアットが展示され、洗練されたカーアクセサリーや、ドライブシーンで楽しめるグッズがそろっています。現在も健在で、今見ても全然色あせていません。

 近年、国内では「若者の車離れ」が言われていますが、欧米やロシアでは一部で日本の自動車ブームが起きており、旧車の大型イベントも開催されています。日本で育まれた車文化は今も海外でリスペクトされていると言えるでしょう。

 大手自動車メーカーの施設の変遷(へんせん)を見ると、勢いのあった頃の日本が感じられます。

 興味のある人はぜひ、2021年内にMEGA WEBへ足を運んでみてください。

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